77食目、魔法大国マーリン行き四日目
━━━━魔法大国マーリン行き四日目━━━━
昨日の夕食メニューは、先日に討伐したデュアルボアをステーキに調理した。
肉だけでは栄養が偏るので、付け合わせとして軽く茹でたブロッコリーにマヨネーズをチョコンと上に少し乗せたものと、マッシュポテトにコーンのバター焼きを提供した。
初めて見る野菜とマッシュポテトという料理に恐る恐る口に運ぶ青龍隊と王様王妃様だが、一回口に放り込むとその美味にお代わりを要求される程だ。デュアルボアのステーキよりも消費率が多かった。
そのお陰で俺の夕食は時計があるなら、おそらく22時を回ってる事だろう。でもまぁ嬉しい悲鳴というものだ。俺の料理のファンが出来れば、レストラン〝カズト〟の客が増えるし、ネットや電話がない代わりに噂が広まるのはどういう訳かカズトの予想以上に早い。
その噂が客を次から次へと呼び他国にも噂が拡散する始末だ。他国から来るお客様は高確率で宿泊してくれるので、懐が余計に熱くなる。
日付が変わり太陽が登り始めたところで俺は朝食の準備に乗り掛かる。朝食のメニューとして選んだのは〝リゾット〟だ。カズトの故郷である地球のイタリアで生まれた料理だ。
日本で言うところの〝雑炊〟に近い料理で生米を野菜とかから取った出汁(ブイヨンでも可)でアルデンテになるまで煮詰めれば完成だ。
加える具材によって何種類か存在するが、今回俺が作るリゾットは朝食にピッタリな食材を贅沢に使って作る一品だ。
いつも通りに薄暗い中でミミお手製の魔道具であるシステムキッチンを展開させ、調理を開始する。
まずはリゾットに欠かせない米は洗わない事が大切だ。ここで洗ってしまうとベタついたりして不味くなる要因になる。
米を底が深い鍋で炒める訳だが、ここで使うのはオリーブオイルだ。オリーブオイルで米を一粒ずつコーティングするよう炒める。これが美味か不味いかの別れ道になる。因みにこの世界にオリーブオイルの存在は確認出来ていない。だから、【異世界通販】で取り寄せてる訳だ。実に便利スキルである。
米を十分に炒め終わったら、本来出汁で煮詰めるのだが今回俺が使うのは濃厚な果汁のリンゴジュース━━━この世界では、リンゴに似たメイラという果物がある。見た目はりんごと桃の中間といったところか。
そこに、トマトケッチャップを垂らし、これで水分が無くなるまで煮詰めれば、ほぼ完成だ。
水分が無くなるまで、俺は器用に椅子の背凭れに寄りかかり寝息を立てる。
その状態から鍋から漂ってくる匂いで完成か否かが判別が出来、完成間近になると飛び上がって盛り付けに掛かる次第だ。
地球の日本にいた頃には出来なかった芸当に当時の自分は自分で驚いていたものだ。ミミに相談したところ、おそらく聖剣の影響だろうという見解だった。
クンクンとカズトの鼻先が反応し、食材が出来上がりを伝達するかのように匂いが伝わってくる。
カズトは飛び上がり鍋蓋を開けると、水分はほぼ抜けリゾットの完成だ。盛り付けの際に食感を良くするよう角切りのメイラとトマトの果肉を加えれば、カズト特製〝メイラとトマトのリゾット〟の出来上がりだ。
出来上がった頃には、日は完璧に昇り時計があれば7時頃だろう。
「王様王妃様、おはようございます。こちらが今回の朝食でございます」
カズトが王室馬車の扉を開けた途端にメイラの匂いが馬車中に漂ってくる。何とも睡眠から覚醒してしまう魔法のようだ。眠そうにしてたメイド達もシャキっと直立不動となる。
既に王様王妃様は既に席へ着席してるが、まだ眠気から完全に起きていない様子だったが〝メイラのリゾット〟を匂いを嗅いだ瞬間に瞳が大きく見開いた。
「まだ熱いのでお気を付けてお召し上がりください」
カズトが号令を掛けたら、瞬く間に皿が空になっていた。聖武器を使用してなくても、勇者はそこんじょそこらのヤツらでは相手にならないよう程ステータスに異常な程差があるのだ。
そんな勇者の一人であるカズトが見逃してしまう程、王様王妃様の食べる速度が異常な程速かった。
「お代わりはあるかいの。これはいくら食べても腹が減ると思う位に美味じゃ」
「私もお代わりを。まさか平民の果物の代表格であるメイラが、ここまで美味しい料理になるなんて」
これで驚いたら身が持たないぞ。飲み物も一工夫というか、そのまま出しただけだが、こちらの世界では味わった事のない極上の飲み物の一つになるだろう。
「こちらもお試し下さい。こちらもメイラで作りました〝メイラジュース〟でございます」
俺が作ったと言うのはウソだ。本当は【異世界通販】で買った代物だ。それでも、高級リンゴジュースには変わりない。素人が作っても不味いモノしかならないからな。取り寄せた訳だ。
「「ごくっ!!」」
グラスを傾けたままの姿勢で王様王妃様は固まってしまっている。グラスの中身はもう空なのだが、数分間微動だにしない。この世界には、俺の料理(地球の品も)を過敏に反応してくれて、それを見るのが最近になって楽しく思えてきた。
「「ぷはっ」」
やっと戻ってきたか。俺は戻ってきたタイミングで〝メイラとトマトのリゾット〟と〝メイラジュース〟のお代わりを提供した。




