SS5-10、猫又の行商~いざ、魔法大国マーリンへ~
「このクソババァ、いい加減年を考えるのじゃ。何時まで八王に居座る気じゃ」
「その言葉、そっくりそのまま返すのぉ。お前は若作りし過ぎじゃけ。何じゃ、この無駄な脂肪の塊は」
ケンカを再度初めてしまうフォルスと猫美。だけども己れの力を分かってるからか、二人とも手加減をしている。本気なら、この部屋程度既に失くなってる。
というか、この辺り焼け野腹になる事は間違いない。それでも部屋の中では、食器・家電が宙を舞い端から見たら荒れ放題になっている様に見える。
だけども、宙を舞ってる食器・家電は壊れておらず、ビデオを巻き戻しでもしてるかのように元の場所へと戻り何もなかった風にキレイである。
「なにアレ?夢でも見てるか?俺は」
「夢でないにゃ。あの二人が本気で戦ったら、ここら一帯焼け野原と化すにゃ」
「マジですか?!ライファン師匠!」
自分が仕えてる主であるフォルスの本当の力の一辺を垣間見たタケヒコは、この人に一生着いていこうと再度胸に奥に誓ったのだ。
「クソババァ、もう用事は済んだじゃろう。ちゃんとタケヒコも連れて行くのじゃから、さっさと自分の島へお帰りなんし」
「ふん、途中で忘れるかとしれぬにゃからの。鳥は三歩歩けば忘れる生き物にゃから」
「おい、クソババァ本気でケンカするのか?」
「おおぉ、怖い怖い。ワタシは帰るとするにゃ。約束は忘れるにゃよ」
「くどいぞ」
一瞬オババ様は、ライファンを見ると踵を返し去って行った。まるで台風が過ぎ去ったかの様に静けさが舞い戻った。
ライファンもオババ様に付いていこうか迷っていたが、本気でないにしろ八王のケンカを目の前にしては流石に腰が抜けて立ち上がれない。
昆の勇者であるタケヒコもライファンと同じく腰が抜け立てないようで、あの二人がケンカ中はお茶を飲んで気を紛らせないと、おそらく泡を吹いて気絶していた。
「世界会議メープルまで後いつだったかのぉ?」
「はっ!後一週間余りでございます」
「準備は進んでるか?」
「はっ!着々と準備を進んでおり、残りはフォルス様タマモ様の御召し物のみとなっております」
いつの間にか輪入道一二三が部屋にいてフォルスの要件を瞬時に聞いて答えてる。
タケヒコが召還されたのは、3年前なので4年一度開催される世界会議メープルは初めてだ。
基本的にタケヒコはフォルスの護衛というか持ち物なので勝手に他国へ行く事が出来ない。だから、今から楽しみである。
「そうじゃ!折角なのじゃから、タケヒコのお召し物も作って貰えば良いでないか?世界会議メープルでお披露目する機会なのじゃ」
「えっ?俺ですか?今のままでも━━━━━」
「ダメじゃ。もっと格好良いタケヒコを妾は見たいのじゃ」
「はい!喜んで」
「にゃはははは、スゴいチョロいにゃ」
「タケヒコ様、寸法を測るのでこちらへ」
タケヒコは、体の寸法を測るため輪入道一二三と一緒に部屋を出て行った。
そして、フォルスとライファンの二人切りになったところで改めてライファンは聞いてみた。
「タケヒコも姐さんの前では形無しだにゃ」
「……………………」
ライファンの視線から外れようとソッポをフォルスは向いた。今まともに正面を向いてたら、ニヤついた表情を見られてしまう。
「あれ?姐さん、まさかにゃ!タケヒコに惚れてる事はにゃいよにゃ?」
「妾に関して……………そ、そそそそそそそんな事はあり得んのじゃ」
「スッゴい動揺してるのにゃ………………タケヒコも隅に置けないのにゃ」
ライファンの目の前からフォルスが消えた。と、思ったらライファンの隣に移動しており、その指先はライファンの首筋にピタリと添えられていた。
「ねぇ、今直ぐに死にたい……………死にたいのよねぇ」
ガクガクブルブル
「………………ごめんなさいにゃ。我が悪かったのにゃ」
全く本気でなくても悟られず、首の根元を狙うとか八王はバケモノだとライファンは改めて痛感した。絶対に逆らったらいけない類いのものだと。
「お待たせ……………しました?」
フォルスの部屋に帰って来たタケヒコは、ただならぬ空気を入った途端察知したのか首を傾げる。
「何かあったのですか?」
「何も無いわよね。ねぇ、ライファン?」
「にゃ、にゃ、何も無かったにゃ」
「………………?」
まぁ部屋の中は特に荒らされてる様子も無い。これ以上突っ込んだ質問しても良くないと、疑問は残るが口にしなかった。
「それはそうと、タケヒコよ。御召し物の寸法は計り終わったのかぇ」
「えぇ、後は出来上がるのを待つのみです」
「そうか………………うっふふふふふ、実に楽しみじゃ」
「それはどっちが楽しみなのかにゃ?」
ギロリっ
「な、何でもないにゃ」
これで世界会議メープル開催を待つのみとなった。




