SS5-8猫又行商~槍の勇者が帰って来た~
不死鳥女王フォルスの住居にオババ様が訪れてから一時間経たない内に"棍の勇者"工藤健彦が任務から帰って来た。
「ただいま帰りまし…………た?」
「おぉ、タケヒコ良く帰ってきたのぉ。待っておったぞ。近う寄れ」
タケヒコ的に有り得ない客がいたので、一瞬茫然自失になってしまった。不死鳥女王フォルスの声で我に帰り近くに寄り、お邪魔してる客をジロジロと見渡す。
「そなたが棍の勇者か。うむ、噂違わず凛々しい面構えよのぉ」
「あ、ありがとうございます。光栄でございます」
どなたかはご存知あげないが、俺が尊敬し従う我が主である不死鳥女王フォルス━━━通称:姫さんと俺は呼んでる。姫さんとはまた違う威圧感を放っており、逆らってはいけない種類の人物だと直ぐに理解した。
だから、つい本能で失礼がないよう挨拶をした。だって、何時でも俺を殺れるって目をしていたんだぜ。怖くてどうしようもないってもんだ。
「姫さん、あのお方は……………」
「猫魈猫美、八王の一人にして妾よりも強いのじゃよ。だから、気を付けるのじゃよ。タケヒコなんか頭からパクりといかれてしまうじゃろうて」
褒めてるのか貶してるのか分からない説明にオババ様の額にあるシワが増えた。アレは少なからず怒ってる様に見える。睨みを効かせるが、当の本人は気づかない。
「フォルよ、後でお仕置きだぇ」
「何故じゃ!」
「……………(姫さん、それは自分の自業自得だと)」
不死鳥女王フォルスを無視し、用事があるタケヒコへ体を向ける。その瞳は、まるで獲物を狙う猛獣如く鋭い視線がタケヒコに向けられる。
「そなたに聞きたい事があってのぉ。態々、出向いた次第なのじゃよ」
恐怖を感じた鋭い視線がウソだったかの様に一瞬にして孫が可愛くてしょうがない優しい婆さんに早変わりした。
本当に、この人が獣人国家アルカイナの八人の王、八王なのかと疑いたくなる程の代わりようだ。だけど、タケヒコは先程感じた恐怖を忘れられない。
確かに目の前にいるお婆さんは八王なのは間違いないと確信してる。その八王の一人が俺に何を聞きたいと言うんだ?
「剣の勇者を知ってるかのぉ?又は尊敬の念を込めて料理の勇者とも呼ばれてるようじゃのぉ」
タケヒコは驚きを隠せない。オババ様が聞いた事はタケヒコが日本にいた頃、大学生時代の先輩に当たり尊敬してる人物の事だったのだから。
「噂程度ですが、恐らく俺と同じ世界からの召還者でしょう。そして、噂からの推測ですが……………俺の先輩かと」
タケヒコは日本にいた頃の大学時代、"剣の勇者"カズトの後輩であった。
カズトが飲食店でアルバイトしていた時からカズトの料理のファンの一人であり、この世界に召還されてからはカズトの料理が食べられないのが唯一の心残りであった。
だけど、自分と同じく召還されたと噂を聞き表情に出さなくとも内心では言葉に言い表せない程に感激したことか。何時かはカズトに会いカズトの作った料理を食べたいと心の奥底から思ってる。
「ほぉ、知り合いとな!」
「えぇ、噂通りであればの話ですが…………」
タケヒコは、カズトの料理を食べたと言う冒険者や商人等から聞いた話から整理すると剣の勇者の正体はカズトだと確証を得ている。
何故なら、その話を聞いていた時に無性にカズトの料理を思い出してしまったのである。それだけでカズトだと断定したのと同義だ。
「隣にいる我が孫がな、剣の勇者からこれを譲り受けたと言うのじゃよ。これはマタタビでな━━━」
「マタタビ!確か猫が好きな実でしたかな?これをカズトさん━━━いえ、剣の勇者が持っていたのですか。有り得る話です」
「ほぉ、やはり知っておるか。して、このマタタビを我が店に置きたいのじゃが、この世界には存在せぬ実ゆえな。剣の勇者に一度お会いしたいのじゃが……………」
タケヒコもカズトには会いたいと心の奥底から思ってる。しかし、不死鳥女王フォルスの従者である手前、冒険者の任務でもそう遠くへ行けない歯痒いさがある。
「いくらオババ様の頼みでもタケヒコは妾の従者なのじゃ。遠くへやれぬ」
「にゃっはははは、我が女王は独占欲が強いとみえる。そんなにその勇者が好きなのかえ」
「そんな訳ありませぬ。従者として大切にして何が悪いと申すか!」
オババ様と不死鳥女王フォルスが睨み合いバチバチと火花を散らしてる。そんな二人を止められるのはいない。タケヒコとライファンは、無事に修まるのを祈るしか出来なかった。




