SS5-6、猫又の行商~ライファンの師匠オババ様~
ライファンが四郎に連れ去られ行き着いた先は猫グッズを満載に取り扱ってる店の中だ。
猫グッズとは言ったが、みんなが予想されてるのとちと違う。猫人族や猫又みたいな猫妖族が使う生活必需品や冒険者の武器や防具を取り扱ってるのだ。
まさに猫系種族には天国みたいな場所だ。ライファンも猫又だから普通なら歓喜する場所なのだが、近寄りたくない事情がある。
「オババ様いるか。ほれ、お前さんの孫を連れて来てやったぞい」
「もう逃げないにゃ。下ろしてくれにゃ」
そうライファンはオババ様こと猫の王、猫美の実の孫であり、育ての親として厳しく商人の心得や戦いの術を叩き込まれた感謝はあるが、凄く厳しくされたせいで苦手になってしまった。
「ずいぶん遅かったじゃないかぇ」
「連れて来たから文句言うなや」
店の奥から杖を付いた老婆が出て来る。一ヶ所を除けば普通の老婆だが、頭を良く見ると猫耳が生えている。この人が猫の王であり、ライファンの祖母に当たる猫美その人である。
「文句を言いながらも任務を果たして来るのだから、これくらいにするかねぇ。ほれ、報酬だよ」
オババ様から風呂敷に包まれた何かを四郎は受け取る。ライファンはそれをお酒の類いだと確信した。あの独特の包み方は一升餅を包む時の包み方だ。
いくらオババ様が怖くとも何の報酬もなしじゃ王の威厳に関わる。そこはオババ様も解ってるようで、ちゃんと報酬を用意していたようだ。
「ほれ、ワタシの孫よ。入るから着いて来な」
「はいにゃ。着いて行きますにゃ」
オババ様の背後を着いて行くライファン。生家のため隅々まで知っており、この店の最奥が生活空間となっている。最奥まで来ると、そこは不死鳥女王フォルスの部屋と瓜二つの空間に行き当たる。
八王の生活空間と当たる場所は例外なく瓜二つで相当鍛えられた者でないと、この異様な空間では立って居られない。入った途端に気絶してしまう。
「それで今回は何を仕入れて来たのだ?ほれ、見せてみな」
「うぅ~、こちらになりますにゃ」
不死鳥女王フォルスとタマモに納品したのと同じ〝カズトグラス〟のセットと〝純米大吟醸〟をオババ様の目の前へ取り出した。
オババ様はそれを手に取り、じっくりと鑑定していく。鑑定してる時間は十数分しか経ってないはずなのに、もう何時間と経っているかのような感覚をライファンは感じてる。
普段汗を掻かない肉球に緊張してるからか汗がビッショリと湿ってる。もうビショビショだ。
「ふむ、大したもんだね。合格だよ、こんな品物はアルカイナどころか世界中探しても中々見つかりしないよ。どういう手品使ったんだい」
「オババ様にお褒め預り光栄にゃ。その品物の仕入れ先は秘密とさせて頂くにゃ。それが仕入れ先との約束なのにゃ。商人たる者、約束は違えてはいけないにゃ」
「ふむ、よかろう。詳しくは聞かないが、あんまり多く出回る事はしないようにね。この本来の価値が広まれば、戦争や仕入れ先が襲われかねん。売る者を慎重に選びな」
「はいにゃ。肝に命じて置くにゃ(カズトが殺られるとは思えないにゃ。むしろ、返り討ちにゃ)」
一時的だが、一緒に旅をしていたから分かる。剣の勇者であるカズトが他国の貴族や王族からの刺客に殺られる事は皆無だと知ってる。
おそらく八王とも戦う事があっても互角かそれ以上の戦いをして見せると確信してる。
「まさか我が孫が剣の勇者と懇意としてるとは思わんだ」
「ふにゃ!我がカズトと会った事にゃんて━━━」
「ワタシの情報網を甘く見てるんじゃないよ。あんたが一時的とはいえ一緒にパーティーを組んでいた事は知ってんだ。そして行商に行く時には高確率で、そいつの店に行ってる事も判明してるんだよ」
流石はライファンの育ての親にして師匠だ。ライファンの事なら何でもお見通しのようである。
だから、ライファンはこの人が苦手だ。まるで自分の頭の中を覗かれてるようで、居心地が悪くてしょうがない。
「この〝カズトグラス〟が良い証拠じゃないか。これは"剣の勇者"カズト本人しか用意出来ないから〝カズトグラス〟と言うんじゃないかい。間違いなく、今現在この世界では出来ない代物だね。この酒だってそうだ、こんな透き通った酒はこの世界では今現在作れない」
「お、仰有る通りにゃ」
ここまで言われたら認めるしかない。だから、ここには来たくなかった。
「きっと500年……………いや、最低で1000年経たないと作れやしないだろうね。全く勇者とはとんだ化物だよ」
「…………………」
ライファンもそこまでスゴいとは思っていなかった。しかもオババ様が褒めるとは中々ない。カズトの凄まじさを今肌で感じてる。
「ライファン、剣の勇者と今後と懇意にしぃや。恐らく我々が考えもつかない品物をいくつも隠し持ってるだろうからね」
「にゃ、仰せのままに」




