SS7-5女婬夢族ジブリールの居場所~《正義》の真実 ~
「俺の事を?答えられる事なら答えてあげよう」
《正義》は、千年前の人物だけに本当に謎に包まれてる。当時の事を知る者はいないだろうし、本人に直接聞くしかない。
この世界に召還されてから失踪されるまでの冒険者ギルドの任務による《正義》の功績は今現在でも記録されており、もはや伝説として語り繋がれている。昔の《正義》を知る意味では、これでも十分といえよう。
まぁ流石に伝説に成り過ぎたのと、千年という年数が過ぎてしまったという点から昔の《正義》の冒険者ギルドカードは使えない。
魔神教会に所属してからは、新しい冒険者ギルドカードを作り活躍している。誰も《正義》が魔神教会の幹部だとは思わないだろう。
「《正義》の本当の名前は、何かしら?」
地味に気になるところはそこだ。千年の月日によって姿形は各国にある黄金像で分かってる。まさか、そのまんまの姿だとは思わなかったが。
でも、名前だけは何処の書籍や記録にも載ってない。冒険者ギルドが記録されてるのは任務による功績であって名前は記録されてない。ギルドカードがあれば、確認出来る程度だ。
「俺の名を知りたいのか?ふむ…………まぁ良い。相棒なら教えてあげるとしよう。当の昔に捨てた名だが、俺の名は━━━」
その何処かで聞いた事あるような《正義》の本名にジブリールは驚きを隠せないでいる。だって、つい最近《正義》が名乗った名前のヤツと会ったばかりだ。
《正義》がウソをついているのかと勘繰りを入れるが、《正義》の瞳はウソをついてないと物語っている。
そうすると、同一人物が同時に二ヶ所存在してる事になる。ドッペルゲンガーという魔物がいるけど、あれは他人に成り済まし相手に死の呪いを掛ける恐ろしい死霊系の魔物だ。
だけど、その魔物には影がなく、ちゃんと対応した魔道具を装備してれば然程怖くない。
目の前の《正義》には影はあり、ドッペルゲンガーではない事は一目瞭然だ。だとすると、本当に同一人物が二人存在する事になる。
「ふむ、その表情から察するに…………もう一人の俺と会った事があるのだな?」
「ねぇ、どういう事なの?だって、あなたの名前って!」
「俺ともう一人の俺とは同じであって同じでない。先に正解を言うと、違うパラレルワールドから来たのだ」
パラレルワールド?ジブリールが首を傾げる。この世界の住人に言っても、まず伝わらない。というか、説明をするのが難しい。どう説明するか《正義》は頭を悩ませる。
「パラレルワールドというのは、同じ世界が二つ以上存在しているという考え方だ。例えば、一つの世界での俺は勇者であるが、もう片方の世界では勇者でない俺が存在している訳だ。《恋人》お前の場合だと、お前が女婬夢族である世界と、そうでない世界が存在してる訳だ」
「うーん、つまり…………全く同じ世界が複数存在しており、そこにはそれぞれ違う運命を辿った自分がいると?」
「おぉ、流石だな。まぁその通りだ。それで俺は、あの現"剣の勇者"━━━━いや、例外はあるが今現在の勇者達とは異なるパラレルワールドから来た訳だ」
勇者召還が行える時点で複数世界があってもおかしくはないが、同じ世界で同一人物が存在していても大丈夫なのかとジブリールの頭に不安が過る。
昔に本のタイトルは忘れたが、同じ世界に同一人物が存在すると歪みが生じ世界が壊れてしまうと読んだ覚えがある。
「それは大丈夫だ。《恋人》が言ってるのは、過去・現在・未来の自分が同時期に存在してる場合だ。パラレルワールドなら大丈夫のはずだ」
ジブリールは、ホッと胸を撫で下ろす。世界が壊れてしまえば、これからの《正義》と……………将来あんな事やこんな事をしたいと思ってるのだ。壊れては困る。
「そうなの。我の名前も教えた方が良いかしら」
「いや、大丈夫だ。先程【鑑定】で確認済みだ。ジブリールであろう?」
「……………?!」
【鑑定】を使われた気配がしなかった。精神系魔法が得意なジブリールは、その対処方も一通りマスターしているはずだった。そこら辺の輩の【鑑定】では、ジブリールのステータスは見る事は出来ないはずだ。
それなのに何の素振りもせず、ジブリールのステータスを看破するとは、どれだけ《正義》の【鑑定】レベルは高いのか予想すら出来ない。余程レベル差がなければ、出来ない芸当だ。
「す、すごいのね」
もし、《正義》が敵だったなら何も感じる事もなくあの世に旅立ってる事だろう。
改めて《正義》との実力差を実感出来たジブリールは、恐怖による冷や汗と………………これから《正義》と一緒にいられる嬉しさ半々の中で《正義》の隣を歩いて行けるのかと不安を抱かずにはいられなかった。




