スリー・マンと液状男(ザ・ジェル)その2
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「………」
自分の出した人形の、メラメラと燃える手を見た速水は、ゆっくりと視線を白金に戻す。
その目は自分の分身とも言える人形が燃えている人間の目にしては、落ち着いていて、冷ややかな物だった。
(この様子からしてあの人形と本体の速水にはダメージは共有していない……。それか速水が異様に忍耐強いか……。いやこれは無いな。手燃えてて無表情の人間がいたらさすがに怖い)
「……滑稽だな……、白金。この人形にダメージを与えても全くの無意味だ。なぜなら……」
速水がそこまで言うと、白い人形は蝋のようにドロドロに溶け、消滅した。
そして数秒後、人形は再び固まり、全く使って無い蝋燭の様に、固く、芯の通った人型に戻った。
そこには、先程まで溶け、消滅しかけていた指も完全に戻り、5体満足、「5指満足」と言った所だ。
「この通り、人形は1度消滅させ、再構築すれば無傷で復活する……。「火傷」ぉ……。関係ないな、全く」
(……っ。マジで嫌らしい能力だな……。さすがボディーガード)
「けどな……」
「?」
「こっちにはそれ以上に嫌らしい能力持ったやつがいるんだよ!」
「!?」
速水の体が、大きく横に吹っ飛んだ。
速水が自発的に跳んだ訳ではない。何か予想外の方向から衝撃を与えられたため、受け身も取れず、踏ん張ることも出来なかったのだ。
「何……!?」
速水が揺れる頭を何とか持ち上げ、ボヤける視界で、自分をこの状況に追いやった「犯人」を探す。
「………」
そして速水が見たのは、空中に浮かぶ、「右手」。
いや、浮かんでいる訳ではない。何か透明な液体が手首の部分から出ている。そしてそれは、屋上の隅で転がっていた男……、日田の右手首に繋がっていた。
(あの男……。何者かと思っていましたが……。既に白金に懐柔されていましたか……)
「よぉ、気分はどうだい」
耳元で白金の声が聞こえる。それと同時に、速水は少し息がしづらくなった。おそらく、白金の手が、自分の首を掴んで居るのだろう。と、速水はほとんど勝利を諦めた脳で考えた。
(………そう言えば、すぐ諦めるのも、大門さんに悪い癖だと言われていたか……)
「で、何か言い残す事はあるかい?速水」
白金の問。そこには油断は無い。首を押さえる手の力は全く緩んでいなかった。
「……白金君。君は間違えている……。桜様は、まごうことない「正」の道を歩いている……。君は後悔するだろう。桜様を殺そうとしたことを。そして自分が「悪」だったと言うことを、痛感するが良い。……以上だ」
「………そうか。まぁ、心に留めとくぜ」
そう言うと白金は、能力を発動させ、一瞬で速水の顔面を首から焼き付くした。
後には、焦げ臭い匂いと、床に黒ずんだ焦げあとが残っただけで、そこに速水の顔は無かった。