三つ巴・オーサカ-ブラック・ジェリーその9
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「はっ!ははぁっ!」
黒瀬は笑いながら地面に落ちた黒烏を左手で広い、狂気の宿った両目で時雨をジロリと見た。
「今の攻撃ぃ……、中々効きましたよ。右腕が無くなってしまった。早く病院に行って無理矢理にでもくっつけてもらわないとヤバそうですねぇ……、しかし」
カチリ、と黒烏の刃が鈍く光った。
「こんな楽しい勝負を捨てて逃走なんて……、私には出来ませんからぁぁぁあぁぁ!!」
黒瀬のスピードが、また速くなった。
右腕の痛みで脳のリミッターが外れ、一時的に超人的な力を引き出しているのか、それとも今までただ単に本気を出していなかっただけなのか。
(だが……、動きが直線的っ。何のひねりもフェイントも無い……。これならば迎撃出来る。さっきの私の能力がどういう物なのかも段々理解してきた……)
「この能力……、名付けるならば「消え行く雨」……。雨粒はやがて雲の隙間から現れた太陽の熱気に当てられ水蒸気として空へと帰る……。そして私の能力は、私の地面に落ちた「鉄砲雨」を水蒸気に変え、性質をそのままに相手にぶつける事の出来る能力……」
現在、この繁華街一帯の地面には、どこもかしこも時雨の鉄砲雨の水滴で濡れている。
「消え行く雨」を使えば、それらの「鉄砲雨」としての性質を失った雨粒達が再び行動を始め、黒瀬に襲いかかる。
つまりこの状況は、どこから敵が来ようともほぼ確実に敵を撃ち抜く事の出来る、時雨にとっての無敵領域に近いものであった。
「ここで終わりだっ!!黒瀬ぇ!!」
そう言って勝利の雄叫びを上げる時雨の視界に入ったのは、上空から崩れ落ちてきた、ビルの看板であった。
「おあああっっっ!!!!」
「ひゃはぁぁぁはぁぁっっっ!!!」
時雨が黒瀬の電撃を受けた少し前。
時雨達がいる繁華街から少し離れた大通りでも、掃除人とギタイの戦闘が行われていた。
一方は、巨大化した四肢と顔面を持ち合わせた、おおよそ人間とはかけ離れた姿をした生物。
両肘、両膝に巨大な目を付けたその生き物は、ある一人の人間から己の身を守るため必死の交戦を行っていた。
「はっはっぁっ!!」
そしてその巨大な両手の隙間を掻い潜り、隙を見せれば噛みつかんとする勢いで走り回る、全身を重い拘束器具で縛られた男がいた。
全身を一つの武器の様にしならせ、一撃で命を全て刈り取ろうとするその姿は、死神をも連想させる。
巨大な右手が振るわれれば、コンクリートで舗装された道路に穴が開き、グラグラと振動で地面揺れる。
しかし、拘束器具を付けた男……白木原は、その揺れの中でも一切姿勢を崩さず、巨大な体の部位で構成された巨人との距離を詰める。
そしてその巨人を操るギタイ、玄は能力の反動で動かせなくなった体の本体を巨大化させた顔の口の中に入る事で隠し、必死に動き回る白木原を叩き潰そうとしていた。
(くそっ……!まさか全ての部位を使わされることになるとは……!それもこれも時雨の野郎が単独行動したせいで……)
一緒に大阪に入った同僚に心の中で毒づきながらも、視線と思考は常に目の前の白木原に向けている。
(白木原のパワーとタフネスは尋常じゃねぇ……。並のギタイよりも身体能力は格段に高いだろう。現に俺のこの能力でも苦戦している……!)
玄の巨大化した部位の攻撃は破壊力、攻撃範囲ともに一級品だが、細かいコントロールが効かず大味な攻撃しか行う事が出来ない。
それに気付いているのか白木原の動きは常に巨大な拳をギリギリまで引き付け、紙一重でかわす。玄に拳の操作を自由にさせない動きだった。
「うおおおっっ!!くそがぁっ!!」
玄は半分やけくそになりながらも、拳の回転率を上げ、ドカドカと白木原に打ち込み続けた。
「ひゃははっ!!やけくそかぁ!?そんな物当たらなっ……」
白木原の言葉が、途中で途切れた。
「うおっ!!」
道路が玄の拳の威力に耐えきれず、亀裂を走らせ一気に割れたのだ。
今まで蓄積していたダメージを一気に解き放つようにして訪れたそれは、厚い道路の地面を貫通し、その下にあった地下鉄のレールが顔を見せた。
さすがの白木原も、この衝撃には耐えきれず、体勢を崩しながら地下鉄のレールの上に落ちていく。
そして、この状況を待っていた者がいた。
玄だ。
先程のやけくそにも捉えられた乱打は、白木原を狙った物ではなく、ダメージの蓄積した道路を崩壊させるための、最後の一押しだったのだ。
「うおおおおっ!!!」
空中で上手く体勢を立て直すことの出来ない白木原を、巨大な玄の剛腕が襲った。