三つ巴・オーサカ-ブラック・ジェリーその8
読んでいただきありがとうございます。
響いたのは、硬い金属音だった。
決して、人間の肉を抉り取ったものではない。高く、耳に響く音。
そして黒瀬の右腕には、ビリビリと言い様の無い衝撃が走っていた。
「よぉ……、勝手に殺してんじねーぞ。幼稚な煽りしやがって……。そんなので私が切れるとでも思っていたのかぁ!?」
「いや、十分だ。こうして今際の淵からお前を引きずり戻せたのだからなぁ!!」
パリッ!と、黒瀬の「黒烏」が発光した。
再び、あの電撃が来る。
後1度でもまともに喰らえば、時雨の命は今度こそ確実に弾け、辺りの水溜まりの中に溶け込むのだろう。
全身は未だに痛みを振りほどけてはいない。体も自由に動かせない。
しかし時雨の心は、覚悟は先程までとはうって代わり、電撃に怯える事はなく、冷静な瞳で黒瀬の刀から溢れ出す強烈な殺気に相対するためまっすぐ向け、その体を逃走に走らせる事はしない。
(私はどす黒い悪の世界にドップリ浸かっちまってた……。今までその事実から目を背けて来ていたし、その世界から抜け出そうと足掻く事も無かった。諦めていたから、自分には当然の制裁だと……)
「しかし……、復讐の「後」……。遂行した後、どうするか……?身を投げるか?都会の隅で、泥の様に這いずり回りながら暮らすか……?せめて、1人の生物として……、誇りのある生き方がしたい。暗闇の中で、光を求めて歩くくらいの力は欲しい。だから……、「私はここでは死ねない」」
黒瀬を倒して、私は自分の未来を作る。
「おおおおっ………!!!!」
血でベットリと濡れ、機能を止めようとしていた喉に、無理矢理空気を送り込んで叫んだ。
そして再び、集中豪雨を発動する。
「だから……、私を守れよ、「私」っ!!」
時雨は自分の能力に、何か新しい「力」が加わった事を、直感で感じとっていた。
その力が、今この状況を打破しうるかは分からないが、とにかく発動してみなければわからない。
黒瀬の喉元に届きうるなら、何でもいい。
「ははっ!やってみろっ!!」
そう言って電撃を帯びた黒烏を振り下ろす黒瀬の顔は、とても楽しそうで、まるで今から自分に起こる事が気になって我慢出来ないと言う様子。
バシュウウツウウウ!!!
異様な、そして、聞き覚えのない音だった。
発動したはずの集中豪雨は、未だにその能力を見せていない。今まで集中豪雨を発動した時にはその証拠として必ず「雨」が降ってきていた。しかし今は、それがない。
だが、その現状を踏まえた上で、今時雨の目の前で起こったのは、黒烏を振り上げた黒瀬の右腕がシュレッダーにかけたかのように、細かい肉片となって消滅した……、というものだった。
「はっ……、ははっ!やっ……られたぁははははははっっ!!!」
ブフォ!と、大量の唾を撒き散らし、黒瀬は爆発するかのごとく笑った。
ひっ、ひっと息を吸い込むたび、連動するようにしてブシュ、ブシュと無くなった右腕の断面からも血が溢れ出す。
しかしそんな痛みも忘れたかの様に、黒瀬は笑い続けた。
その様子は、妹に出会い、覚悟を新たにした時雨にされ圧倒的な嫌悪感と恐怖を植え付けるに足るものだった。