三つ巴・オーサカ-ブラック・ジェリーその5
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「集中豪雨」を発動した時雨は、両足の筋肉を総動員して即座に後ろに跳び、黒瀬の刀の間合いから逃れた。
(まだ見せてなかった私の未知の能力……。警戒で一瞬動きが止まるのは容易に想像できた……)
そして時雨は「集中豪雨」で操作した鉄砲雨の雨粒を、いっせいに黒瀬の顔面……。1番雨粒が侵入する隙間のある場所に突撃させた。
「死ねぇえ!!黒瀬ぇっ!!」
空気中に浮かんでいた雨粒が大量に集まって1点に突撃する姿はまるで魚の魚群の様で、しかし1粒1粒が軟弱では無い。決して侮れない威力を秘めていた。
そしてその標的となっている黒瀬は、腰を深く下げ、刀の柄に手を添えている。力を溜めている様だった。
フードのせいで時雨から黒瀬の表情を確かめる事は出来なかったが、何かをしようとしている事は明らかだった。
(「死線」は、ほとんど僕の顔面に集中していますね……。やはり、勝負を決めに来ている……)
黒瀬は自分に降りかかる死の圧力を一身に受けながら、しかし冷静に、雨粒が自分の刀の射程に入るのをじっと待つ。
そしてその時は、1秒と待たずにやって来た。
「……!それでは、「起動」……」
黒瀬がそう小さく呟くと、「黒烏」の柄から長さ5センチほどの針が大量に飛び出した。
そしてその針は、柄に置かれていた黒瀬の右手に深々の突き刺さった。
「うぐっ……!」
黒瀬は小さく呻いた。
大量の針が右手に刺さったからではない。確かにその痛みもあったが、それ以上だったのが、その針から体内に注射された特殊な薬品が体の細胞に無理矢理ねじ込まれ、形質を塗り替えて行く。その今まで感じた事のない痛みに、黒瀬は声を出さずにはいられなかった。
(やれやれ……、注射、ただでさえ嫌いなんですよ……。でも)
その痛みが治まり、黒瀬の体が内側から完全に組変わるまで、0.5秒未満。サンプル品にしては、十分な速度だった。
「しぃ!!」
そして、黒瀬は刀を腰から解き放ち、雨粒を払う様に横に薙いだ。
これが、ただの横薙ぎならば、雨粒の表面を少し撫でただけで終わり、黒瀬は顔面を雨粒に貫かれ、レインウェアの中に脳ミソをぶちまけ絶命していただろう。
バチッッ!!
閃光が、町を包んだ。
一瞬、町の色が白く塗り潰され、目の奥の神経が異常をきたしたような感覚に、時雨は襲われた。
「ッッ!!」
時雨はとっさに目を腕で被い、あまりにも眩し過ぎる光から逃れようとする。
(……この光は……、まさかっ!)
この音の前のバチッ、と言う何かの破裂音。
その音と同じ物を、時雨は昔、聞いた事があった。
(妹がコンセントにシャーペンの芯を入れたときの……電気っ!!)
次の瞬間、時雨の体に激烈な痛みが走った。
文字どうり、体を一瞬で駆け抜け、通り過ぎて行った痛み。
(これが……、電撃っ……!)
「かっ………」
視界だけでなく、脳神経まで焼かれたのか、時雨の頭は真っ白になり、容易に機能は復活しそうにない。
「こっ……はっ……」
脳だけではない、全身の主要器官から骨や筋肉、神経までもが異常をきたしていた。
体に力が入らず、上手く立つ事の出来なくなった時雨は、膝から地面に崩れ落ちた。
だらしなく伸びた舌先に、地と雨水で出来きたうっすらと赤い液体が触れる。
血の濁った味を雨水が溶かしたそれは、焼かれた時雨の全身に触れ、ゆっくりとその体を冷やして行った。