三つ巴・オーサカ-ブラック・ジェリーその3
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黒瀬の「鉄砲雨」対策は、単純なものだった。
レインウェア……、防水具を着る。それのみ。
コンビニの隅に置いてあった上下セットの赤いレインウェアを制服の上に羽織り、フードを目深に被って万が一顔に雨粒が被弾するのを避ける。
(小さい頃雨粒をよけるゲームなんてものもしたが……、まさかこの年になってもう一度似たような事をすることになるとは……)
ふふっ、と黒瀬は小さく笑い、体勢を低くしてコンビニの小さな屋根の下から飛び出した。
両手は使えるようにピッチリとしたゴム製の手袋を使い、「鉄砲雨」を無力感する。
地面は雨粒と倒れた人間の血が混ざった液体で満たされており、足を踏み出すごとに弾け跳び、ねっとりとした死臭を黒瀬の鼻に届ける。
(まぁ、おかげでこの能力の使用者が分かりやすいんですけどね……)
チラリと目線を上げ見渡した視界の中には、この「鉄砲雨」の中大きな傘をさし、全身を黒いポンチョで被った女性が1人。
どこか脱力したような立ち姿からは、剛健な格闘者とは全く違う、部屋に籠って読書している様な「深窓の令嬢」といった雰囲気が醸し出されていた。
(まぁ……、ここまでの量の一般人を殺しておいて顔色も変えない……。その時点でもう彼女は「令嬢」などでは無いことは一目瞭然ですが)
そう黒瀬が考えている間にも、時雨と黒瀬の距離はドンドン詰まっていく。
(距離を取らない……。接近されても打つ手があるということか……?)
しかし、もう既に黒瀬と時雨の距離は1メートルも無い。
黒瀬の間合いだ。
黒瀬は腰に下げた長刀、「黒烏」を抜刀し、そのままの勢いで時雨の首を狙う。
瞬きする間をも与えない、神速の一撃。
その一撃を時雨は体を捻ってギリギリの所でかわし、反撃に移る。
「「集中豪雨」」
時雨がそう呟いた瞬間、「鉄砲雨」の動きが目に見えて変わった。
今までポツリポツリと、地球の重力に逆らう事なく一直線に空から落ちてきていた雨粒の軌道が、一斉に黒瀬に向いた。
全方位から銃口を向けられたようなプレッシャーが黒瀬の肌に刺さり、それを「死線」として感じ取った黒瀬は、
(回避するか……?いや、この「鉄砲雨」の性質が今までの物と変わらないのならば……)
レインウェアで身を包んだ今の状態ならば、全くの無意味。
(しかし……、この今の状態で、無意味な事をするか……。なるほど)
確かにこれは、少し厄介。
「ならば……、少し本気を出すとしましょうか」
瞬間、全ての「鉄砲雨」の雨粒が黒瀬に向かって降り注いだ。