黒い正義と流動する者その8
読んでいただきありがとうございます!
「くっ……」
あまりの熱気に、才賀は手で顔をおおった。
このサービスエリアのトイレは、あまり広くない。
個室4つに小便器が7つ程。狭くはないが、白金の炎はその室内ではあまりにも大きい。
気付けば白金に向かって発射された黒鱗は、全てその身をさらに黒く焼け焦げ、床に散乱していた。
その様子を白金は少し眺め、再び才賀との距離を詰め始める。
(どうやら……、細かい攻撃で止まる相手では無さそうだ……)
才賀は黒鱗の全方位攻撃で白金に致命傷を与える事は難しいと悟り、壁の中に仕込んでいた黒鱗の一部を本体に戻させる。
「黒鱗……。接近戦だ」
「ったく……。はいはい、分かりやしたよ」
そう言うと黒鱗は自身の球体の体を崩し、薄く広げていく。
そして2メートル程の正方形の形になったかと思うと、一瞬で才賀の体を風呂敷の様に上から包み込んだ。
端から見れば全身が真っ黒に染まった様に見えるそれは、数秒すると才賀の体の形にそうようにして変形していき、最終的に才賀の全身を守る全身鎧になった。
色は変わらず一切の光の無い黒。余計な装飾は一切無く、見た目は質素な物だが、放つ威圧感は、その鎧が並大抵の固さでは無いと素人でも分かるほど。
「………」
そしてその威圧は、迷わず突き進んでいた白金の足を止めるほどでもあった。
(ちっ……、これは中々……。侮っていた訳じゃねぇがここまでの戦闘が順調に進みすぎてて忘れてた……)
「……そう言えば、名乗るのを忘れていたか。俺は才賀日向。大門桜様のボディーガードだ」
いまや才賀の顔は兜にすっぽりと被われ、表情を見ることは出来ない。だがその声は、驚く程落ち着いており、余裕のある物だった。
「知ってたぜ。……だから手ぇ出してんだよ。……ちなみに俺は名乗らんがな。どうせ知ってるだろ?」
白金が挑発するようにそう言うと、それに乗ったのかは分からないが、才賀が動いた。
右手に黒い両手剣程の大きさの剣を生成し、それをヒュンと振る。
かなりの重量があるはずのそれを軽々と使いこなせる事を確認すると、才賀は床を蹴り、一瞬で白金との距離を詰めた。