黒い正義と流動する者その7
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白金がトイレに入ると、そいつはいた。
手洗い場の角に腰をかけ、こちらを見ている、おかっぱの男。
そしてその横には、中心に大きな目の付いた、黒い球体が浮かんでいる。
間違いない。この男が自分を「黒い何か」に襲わせた人物なのだと、白金は瞬時に悟った。
そして同時に能力を発動、白金の右半分に炎が点火した。
「ぎゅい!?ぎぃぃぃぃぃ!!!」
それと共に白金の膝下の辺りで、白金の体に侵入した黒鱗の1部が燃やされ、断末魔を上げる。
「あーこりゃ、左に入れた方が良かったかなー。燃やされちまった」
「それはしょうがない。運の問題だ。……それよりあの調整人は自己紹介もせず殴りかかるのか。それは「正義」なのか?」
「いや……、殴りかかる時いちいち名乗らないと思うんだけど……。多分戦国時代くらいでその文化止まってるから……」
「黒鱗」
「俺の話聞いてた……?はいはい」
才賀が黒鱗に指示を出す。
すると次の瞬間、白金の後ろからバギッ!と壁の割れる音が響く。
その音の正体は、才賀がトイレの壁の中に仕込んでおいた黒鱗の一部が壁を突き破った音。
壁から飛び出した黒鱗の一部は針の様に体を鋭く加工し、日田の後頭部めがけて突撃する。
が、その攻撃は、白金にとって不意討ちでも何でもなかった。
首を少しひねり、頭の位置をずらすことで、最小限の動きで飛んできた「黒鱗」に視線すら向けずかわす。
そしてそのまま、白金は才賀との距離をつめる。
一歩、また一歩と、けして速くは無いが、油断も隙もない。その姿は才賀を威圧するのに十分な物だった。
しかし、その程度の威圧、不意討ちが一つかわされた所で動揺する才賀でもない。
(この程度の攻撃がかわされるのは想定内……ここから!)
才賀の視線を受け、黒鱗は即座に才賀の意図を汲み取る。
「があっ!」
黒鱗が短く咆哮を上げる。
すると、床のタイルの隙間、水道の蛇口、天井の電灯、あらゆる場所から、白金を狙う黒鱗の牙が発射された。
正確には、事前に黒鱗がトイレの床や壁の中に仕込んでおいた黒鱗の一部を、鋭利に加工し、トイレの形を崩さない場所から白金に発射したものだった。
その光景は白金から見れば、黒い雨が全方位から一気に自分めがけて雪崩れ込み、視界が真っ暗になってしまった錯覚に陥る程。
だが、そんな光景を前にしても、白金は落ち着いていた。
「ふぅ………」
白金は目を閉じ、小さく深呼吸し、体の力を抜く。
次に、自分めがけて飛んでくる黒鱗から発せられる「死線」を全身で感じとり、当たれば致命傷になる物、かわせる物、炎で防御出来る物と見分けていく。
その間は、1秒にも満たない。高速の思考。
「おおおっ!!!」
そして、白金の炎が牙を剥く。
ライオンの鬣の様に燃え盛る炎が、黒鱗を飲み込んだ。