黒い正義と流動する者その3
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初めてそれを見たのは、何時も通り、人間に混じってゴミ拾いのボランティアをしていた時だった。
ふと路地から顔を上げ、時間を確認しようと携帯端末を開くと、1つのニュースが表示されていた。
「ギタイ「大門桜」、人間とギタイの共存を呼び掛ける」
初めてそれを見たとき、才賀は思わず吹き出してしまった。
あまりに馬鹿げた「見出し」。
ギタイと人間が共存することなどありえない。
誰もがそう思っていた「常識」に、喧嘩を売るような、誰も信じようとはしないだろう、そんな言葉。
しかし、そんな馬鹿げた見出しだったからこそ、才賀はそのニュースを開いてしまったのかも知れない。
そこに写ったのは、美しい金髪の女性。
かなり若く、下手をすれば学生にも見える彼女の容貌から出る言葉は、決して若者の戯れ言とは思えないような、そんな「気品」と、「覚悟」があった。
こんなことを、当時彼女より2歳程しか年上でなかった才賀は、思った。
彼女の行っていることは間違いなく「正義」。ただギタイを虐殺し続ける掃除人とは、違う物があった。
そしてその彼女の「正義」が、誰にも邪魔されず、正しく進んでいくための手伝いをする事も、また「正義」。
そう思った才賀の行動は早く、ゴミ拾いのボランティアが終わってすぐ、誰が作ったかわからない「ガブ」のホームページから大門に連絡をとり、その異様な熱意が認められ、ボディーガードとなった。
以来、才賀の人生は順風満帆。自分の行動が、間違いなく「正義」と思える場所に身を置けた。
「ああ……、満ちている。俺の体に、「正義」が……」
自分の、そして大門桜の歩んでいる道は、絶対的に正しい道。
ゆえにその道の障害となる調整人ごときに、才賀は自分の負ける姿が想像できなかった。
「ふふ……」
思わず、笑みが溢れた。
油断した訳ではないが、どうしても押さえる湖とが出来なかった。
絶対に勝てる勝負にこれから挑むのだ。負ける確率はほとんどない。そのあまりの素晴らしさに、自分の想像以上の「正義」の恩恵に、才賀は酔いしれていた。
その酔いを冷ますかのように、才賀の手を何かがつつく。
見れば、糸状にして放っていた黒鱗の1体が、才賀の元に戻って来ていた。
つまりそれは、調整人を見つけたと言うこと。
「くく……」
才賀は放っていた他の黒鱗に戻って来るよう命令を出すと、椅子から立ち上がり、軽い足取りで調整人の元に向かった。
机の上では、料理が出来た事を伝える電子音が、才賀を呼び戻すように鳴っていた。