黒い正義と流動する者その2
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ピー、ピー!と、日田の手元にあった小型の機械に取り付けられたランプが点滅し、笛のような高い音が鳴る。
どうやら、日田が注文していた「肉うどん・大盛」が出来上がったらしい。
「うっし……」
日田は軽い四脚のプラスチック製椅子から立ち上がり、カウンターに向かう。
あいにく、食堂の店内はあまり広く無く、そんな店内に大量のテーブルと椅子が無理矢理押し込められている為、注意して歩かないと、座っている他の客にぶつかってしまう。
「っと……すいま…、あ、また同じ方に、本当にすいません!」
そして、注意すればするほど、何故か椅子に当たってしまう。
日田は、カウンターのすぐ前に設置された椅子の足にぶつかってしまった。
そしてその椅子に座っていた主は、先程日田が券売機の前でぶつかってしまった、おかっぱの男だった。
「いえ……、こちらも不注意でした、すいません」
「……?は、はぁ……」
日田はおかっぱの男の言い回しに少し違和感を覚えながらも、カウンターに急いだ。
「……取り敢えず、彼に頼むことにしたよ。2度も顔を合わせている、偶然でもなんらかの「縁」があるのだろう」
男の視線の先にあるのは、日田の後頭部。
若い男性の、手入れをせずとも健康的な髪の毛の1本に、細い1センチ程の糸に姿を変えた「黒鱗」が、髪の毛に擬態するような形で張り付いた。
「これで15人目……、十分かな」
そう言うと、男は目を閉じ、静かに椅子にもたれ掛かった。
パーキングエリアに一定時間以上留まりそうな人物を選び、そこに「黒鱗」を張り付けた。これで、白金と黒鱗がすれ違う程度でも接触すれば、黒鱗から連絡が男……、才賀にやって来る。
才賀はそれを、好物の食事をレストランで頼んだ少年の様に、少し高鳴る鼓動と共に待った。