二人の出発:run
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田舎の夜は、とても静かだ。
狭い道に人通りは無く、ポツポツと設置された街灯に、小さな虫がパチパチと群がっている。
そんな静寂に包まれた道を歩くのは、右肩にバッグを背負った日田だ。
(さて……、もうそろそろ……)
道を横に曲がると、そこにあるのは日田が普段通っている高校だ。人で溢れる昼間とは全く違う、少し足を踏み入れただけで魂を持っていかれそうな、怪しい雰囲気で溢れていた。
そしてその前の道に、旧型の小さな車が、ボッボッボッとガソリンの煙を吹き出しながら待っていた。
(電気自動車が主流になったのに……、全く、環境保全関係の人間が見たら激怒しそうな見た目してんな……)
少し呆れた目で日田が車を見ていると、車の右前の窓がウィーンと下にスライドし、そこから白金が顔を出した。
「よぉ!時間ピッタリだな!乗れよ!」
白金は昼間より何故かテンションが高い。後で聞くと昼より夜の方が白金は気分が上がるらしい。
「さってと……、行くぜ、日田。なるべく人通りの少ない夜の内に東京までぶっ飛ばして行くぜ!」
日田が乗り込むと、早速白金はアクセルを踏み、車を出発させた。
「………」
隣を見ると、白金は巧みにハンドルを操作しながら、耳に付けたイヤホンで音楽を聞いている。
「……ん?どうかしたか?日田」
どうやら、日田は自分でも思った以上に白金を見ていたらしい。
白金が日田に気付き、イヤホンを外しながら日田に聞いた。
「あ……いや……」
特に質問を用意していなかった日田は変な声を出しながら、少し考える時間を稼ぐ。
そして、
「あぁ、いや、何か俺、このままで良いんかなぁって。これから「ガブ」のボディーガードっつー、日本でもトップの実力者共と戦うのに、俺は多分実力不足なんだろうな……って」
日田は心の中にあった小さな不安を無理矢理話題にし、白金に叩き付けた。
「ん……おぉ、それ、俺も少し言っとく事があったんだわ。……確かに、日田、お前ぇはボディーガードと戦うにはまだ実力がたりねぇ。多分死ぬ」
「あぁ!?」
「だから日田、お前には1つ「技術」を教えてやる」
「技術……」
「ああ、名前は「死線」。攻撃の流れを読んで、相手の「死」につながる攻撃を正確に感じとり、打ち込む技術。ある程度極めれば、相手の弱点と言える場所に攻撃を叩き込める道筋が「線」になって見える様になる。」
「おぉ……。凄いな、それは……。」
「だが、普通に習得しようと思ったら半年以上はかかる。……っつーわけで、お前には実戦の中で直に身に付けてもらうから、そのつもりでよろしく!」
そう言うと白金はビシッ、と日田を指さし、質問は受け付けないと言うかの様に再びイヤホンを付け、音楽の世界に逃げてしまった。