1: 相棒はこのオレだゾ!!
少し修正しました。
帝都は今日も沢山の人が行き交っている。
市場エリアでは道の両側に並んで建っている、たくさんの店から客を呼び込む声が聞こえていて賑やかだ。
今日はコレが安い、取りたてで旨い、今から商品のタイムセールだ! 早い者勝ちだよ、とかお互いの店を牽制して競いあっている…
市場は毎日商人達の戦場だな…、客を取られては次の客へと狙いを定めて声をかけていく、逞しい商人達…。
日用品エリアでは普通の服や靴など、戦闘用の武器や防具とかの身につける物、機械魔具(魔法を機械に付与した道具)などの家庭用機械魔具や、外で使う乗用機械魔具の店に人が集っていた。
そして、一番人が混雑しているエリアが、仕事探しや依頼、魔物の討伐を主に受け持っている冒険者が集う場所、通称"冒険者ギルド"だ。
鎧や、盾を装備している強面の者や、ローブを羽織って顔を隠している者、なかには魔物と一緒に歩いている者まで、色んな職業に就いた老若男女の者達が、我先にと仕事を探しに冒険者ギルドへと向かって歩いている。
そんな中、カーキ色のツナギに黒のポンチョを身につけ、靴は赤くてゴツいブーツを履き、頭に黄色のゴーグルを着けた人物が冒険者ギルドの受付で話をしていた。
ーガヤガヤ
「やっほー。ミリーヌ。今日は何か仕事入ってる?」
「おはよう、リシャ。 今日は……2件かな、どっちも近隣の町と村ね。詳しくはこれに書いてもらったから確認お願い。」
「おおー了解。……ふむ、今日はついてる♪ 早く終らせて買い物行こっと。」
近隣のスミスの町とその隣のリンドル村か、飛ばして行けば夜の19時には戻って来れるだろ。
帰ったら、愛車を労ってやろ。
「近隣は近隣でも結構距離あるわよ? まぁリシャには関係ない事だったわね…。何、なんか欲しいものがあるの?」
「うん。最近愛車の調子が悪いからさー、メンテナンスしに行くついでに、機械魔具の掘り出し物を物色しようかと。」
なんかいいもんあったらいいなー、体が透明に消えたら仕事も楽になるのに……、邪な気持ちはないよ。
「あら、飛行バイク調子悪いの? ダメよ、こまめに点検しなくちゃ。あのコ意外と繊細なんだから。高いし。」
「いやー、分かってるんだけどさ。色々あってね…。」
そう、色々あったんですよ…
例えばだ、仕事で飛行中に魔物に襲撃されてはそれを撃退したり、これはいつもの事だ。
そのまま進むと今度は違う魔物、しかも大型に追いかけ回されては蹴り飛ばした隙に、逃げ回って撒いたりと、一日の遭遇率が高すぎる。
魔物の暴走化か? でも近くにダンジョン無いし…、おかしいなー、という事が何回かありまして。
数々の戦闘で俺の愛車を酷使しすぎて、キズが多くなったり、最近ではプスッ、ガガッとか変な音が鳴るようになった。
これはヤバイ! でも仕事が溜まってて期限が短い…、俺の計画性のない所に反省する。
だから今日を最後に一旦仕事を休もうと、今にいたる。
働きすぎは体にも愛車にも毒だな。
ニッと口角をあげて曖昧に笑いながら、ミリーヌの話を聞いていた。
「色々ねえ…リシャって運び屋よね? そんな危険は多くはないと思うのだけれど。」
「ああ、なんでだろうね…ハハッ。」
「まぁ、アナタ厄介事多いしねぇ(笑)、なにごとも若い内に経験しときなよ。」
「しすぎな気がするけどな。」
経験ねぇ…ミリーヌの言う通り、今まで平穏に過ごせたことってあったか、……やっぱないな。
特に最近は厄介な"相棒"のせいってことが分かり、危険な旅路となってて休まる日は皆無だ。
なんで鬼気迫る戦いの経験が増えてんの。
俺はあくまで運び屋であって、戦闘専門の職業じゃないのに…
他の同業者の方より窮地にあってる気がする。
「チッ、あのペンギンモドキの毛玉めッ!」
「ん? 何か言った?」
「…いや、何でもない。」
グッと握り締めた手をほどき、返事をかえす。
頭の中ではクソ毛玉もとい、相棒の"ヌルボット"に悪態をつきながら、出会った頃を思い出していた。
◇◆◇◆
~(回想)~
「目的は、博士との約束で今は言えないんだ。とりあえず、オレを匿って下さい。 飼ってくれるならサービスする! お願いしゃすッ!」
ーペタンッ
土下座する黒いモフモフを見て、俺は片手で頭を抱えながら溜息を吐いた。
「……あーもう、本当なんなの。」
「ピィ…」
なぜ来たか今は言えない、匿ってくれ…てか、無茶苦茶だな。
だが、土下座までして必死に頼み込んでくるコイツにほだされつつある。
「取り敢えず頭あげろ、それから自己紹介な。」
ーバッ
「…! ピィピィッ!!」
頭を上げ、希望に満ちた目を向けてくる相手に苦笑いして、自己紹介をする。
「俺はリシャ、ここの運び屋を営む店主だ。で、お前は?」
ーデンッ!
「オレは アルティール博士作成の人工知能、名は"ヌルボット"!!」
そう言って手を腰にあて仁王立ちし、大きく見せようと頑張っている。うん、可愛い。
「訳あって、破棄されそうな時に、研究所に魔物が襲撃してきたらしくて。」
「研究所? 町の外れにあるやつか。なんでまた…、警備どうなってんの。」
「オレ、意識が薄かったから解らないけど、博士が助けてくれたの覚えてる。」
「でたッ! 博士!!」
あの偏った教え方をした例のッ!!
「それで箱に詰められながら博士が『ヌルルン大丈夫よ~、これからアナタのパートナーになる子のもとへ送ってあげるから、養って貰いなさい♪ そして…ゴニョゴニョ… 約束よ♥』って言って、蓋を閉められてドカーンっでビュビューンできたんだゾ。」
「まてまて! 本人知らんが無駄にクオリティ高いモノマネだなッ!」
それと色々ツッコミたい! 最後の擬音で何があったんだ。
まぢで厄介事かよ。
「マテ? マテとは目の前に餌があるのを、飼い主の気分と都合でもて遊び、せせら笑い、中々餌を与えてくれないドSの諸行のことか?! なんというプレイ! 流石人間だ。博士、オレ初体験してしまったゾ!」
ただ単に可愛い反応を見たくてやってるだけだと思うぞー、プレイじゃない、それより!
「博士だろ教えたのッ、こんな子供に! とりあえずお前は黙っとけ、話がややこしくなる。」
博士の話が強烈すぎで疲れる…。
「んで、えっと、 ヌルルン…? 違う、ヌルボット、だっけ? 大雑把にまとめると、破棄されそうな所を、ちょくちょく話に出てくるクセの強い親、アルなんとか博士に助けられーの、箱詰めされーの、魔物に襲われーの、運送されーの、今に至ると? んで、親は生死不明ってか…なかなか波乱盤上だな。」
「アルティール博士だゾ! ちゃんと覚えろよ頭悪いなー。 オレでも直ぐ覚えるのに、人間は博士以外馬鹿なのか? 」
イラッとする俺に「そうそう、波乱番長! オレ番長なんだゾ!! 敬えよ。」と後から思い出したように言う奴に米神が膨らむ。
よし、おちつけ俺、馬鹿が何か言っているが知らん。
相手は小動物(見た目は)でまだ子供なんだから、可愛いいもんだ、大人になれ俺ッ、話を進めてお帰り願おう。
ーーヤツの尻尾をギュッと握りながら……。
やっぱ無理だ、俺はまだ大人にならない! ずっと少年でいいッ!
ーギリギリッ
「悪い、アルティール博士な。で? 何でここに来た。俺、会ったことも、話したこともないけど。なのに、なんもゆかりのない運び屋にさ。変わった依頼の仕方か? あ?」
ギリギリ手形がつくくらい握り締めた尻尾にヌルボットが悶絶しながら返事をかえす。
「Σイタタタッ!? そこ敏感ッ、おさわり禁止の所! 違うゾ依頼じゃない!」
「じゃあなんだ。」
「博士が、相棒の傍に居れば…Σピギャッ…や、約束も守れるからと!」
「約束ってなんだよ。」
「内容は喋ったらダメって警告されるんだ。そうだ!! 説明書貰ったんだった。Σピィ! だから離して~;;」
ヌルボットがついに泣き出したので、しょうがないから離してやる。
「秘密おおくないか? 説明書? とやらは今あるのか。」
「あるゾ! ゴソゴソッ、…はい。」
ヌルボットの毛の中からA4サイズのファイリングされた物が出てきて、体の大きさと合ってない、何処から出たんだと、ビックリしつつ、説明書のファイルを受けとる。
ページをめくり、概要が箇条書きになって説明されている項目を読んでみる。
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『ヌルボットの取扱い説明書♥』
・ヌルボットとは、人工知能の繊細な物であるからして、決して雑に扱ってはならない。
(敏感肌だから刺激はご法度。優しくお願い♥)
・ヌルボットの毛皮は、清潔に! 手入れを怠ってはならない。
(不潔はメッ! 女の嗜みとして、艶やかな毛皮目指してね♥)
・ヌルボットは天才博士、渾身の最新の人工知能であり、スキンケア、特に食事が必要。
(美容は大切♥)
・ヌルボットの知能は、一緒に暮らす事で学び、知能を増やしていくので、アナタの相棒にゆくゆくは育っていきます♪
知識をたくさん与えてあげてください。
(貴方好みに調教して可愛がってね♥)
・製作者に何かあった場合は、保護者(仮)のリ◯ャにヌルボットを差し上げます。パフパフゥ~
(ダーツで"リ行"に決定! まぁ~渡す人の目星は決まってたんだけど、運命よね♥)
※ 返品不可、ヌルボットの設定はトップシークレットの為、秘密を暴いちゃだめ、破棄もしちゃだめ、したら~◯シャちゃんにイタズラしちゃうぞ♥ 気を付けてねぇん♪
作製者:アルティール.レブロン博士
ps,ヌルルンがんばッ! 約束守ってね。
リンリン~♪ 不束者ですが、宜しくね♥
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ーΣビリビリッ
「宜しくじゃねェ~!!」
勢い余って説明書の紙を破いてしまった。