29: お腰に着けたきびだんご~(犬?)
「クロウェルさん! おかえりなさい。」
おかえりなさいって……こいついつから?
「うむ。小娘、みやげだ。」
「わあ~ロック鳥!! ありがとうございます。ババ様ー、クロウェルさんがロック鳥取ってきてくれたよー!」
「…ああ、いつもすまないね。」
いつも?! …つか、めっちゃ馴染んでね?
「構わぬ、これでうまいものを食べさせてくれるなら、お安いご用だ。多目に頼むぞ!」
「はい! いつもの大盛ですね、まかせてください!」
「働かざる者食うべからずとは…よく言ったもんだね、それにくらべて、飼い主ときたら…。」
「……ん?! 違う違う!」
「ヴォン! 主のために働くのも俺の役目…助けていただいて感謝する。」
おい! だれが主だッ、お前キャラ変わってね? 脳筋どこいった!?
「いいコですね~今日は肉をたくさん出しますね!」
「!! アオアオーン♪ 海藻も! 小娘、昨日のやつも頼む!ヘッヘッヘ。」
アオアオって、しっかり餌付けされてんじゃねーかッ!! なに、海藻って…栄養バランス気にしてんの?!
「わかりました、少し待っていて下さい!」
「うむ。焼き加減もミディアムでな! 生は好かん。俺は台所の前で見張ろう。安心して調理してこい。」
「はい、ありがとうございます。」
忠犬かッ!! 何から守ろうとしてんだ! ちゃっかり焼き加減も頼んでんし、おまえぜってぇ生でも食ってただろッ、味しめやがったな!! 餓えた野獣めッ!
俺がこの状況についてけずに驚いていたら、ババ様がやれやれと薬草が散らばる作業場へと戻りながら俺に顔だけ向けてきた。
「百面相してないで、あんたも犬を見習ってサボらず働きな、飼い主さん。」
「いや?! だから違うってばッ…」
「何でもいいさ、危害を加えないなら。それと、焦って生き急ぐんじゃないよ……バカな真似はやめな。」
見透かした目で言ってきたババ様に、俺は息をのんだ。
「…そんな光のない暗い目をして、どこ行こうってんだ。急いでは事を仕損じるって言葉を知らないのかい。」
「……。早く、早く行かないと…もう会えない気がして、…怖いんだよ。」
「だからって、あんたが行ってなんとか出来るもんなのかい? あんなにボロ布にされて、今度こそ死ぬよ。」
もっともだ……でも
「大切…なんだ……、」
初めて…家族と思える存在に出会えて……
「心配で、堪らなくて…」
どんなに嬉しかったか…、全てが新鮮で、だから…こんな出来事がおきて、失うかもしれない恐怖を知った。
「アイツを助けたくて、会いたくて、早く行けって心が焦る…」
依存してると自分でも分かってる、でも、しょうがないだろ……
なあ、ばあさん……俺
「どうしたらいい…?」
思い通りにいかないジレンマで、つい懇願するように聞く俺に、ババ様は無表情で近づいてきて額に、バチコンッ! と手からでた音とは思えないデコピンをしてきた。
ウグッと言って、衝撃で後ろに傾いたのを手を後ろについて防ぎ、もう片方の手で額を押さえながら悶絶する。
枝みたいに細いくせして…威力が……ッ、こんなギャップいらねぇ…
「…とりあえず、飯食って、寝な…話は明日だ。ピコ! あたしゃ今日は籠るから軽食で頼むよ。」
「……ッ、…。」
「分かったー!」
そう言ってババ様は部屋に入っていった。
俺は打ちひしがれながらその日はボーっと過ごし眠った。
◇◆◇◆
朝日が昇りきらない薄暗い時間に起きた。
「……ッ、いてぇ…。」
初めの時よりかはマシだが、まだ包帯はとれずにいる自分の体に嘆息する。
こんなんじゃろくに戦闘も出来ない、スライムには勝てると思うが、ゴブリンが集団で来たら下手したら殺られるかもな…とネガティブ思考になって三角座りで膝に顔をうめる。
ベッドでうじうじしていたらだいぶ時間がたっていたのか朝食の臭いがしてきたので、起きるかっと顔を洗いに部屋から出た。
「あっ、おはようございます! おにーさん。」
「おはようピコ。……おまえまだそこにいんのか。」
台所の前に居座っている番犬に言うと、ちらっと片目を開いて俺を見てから尻尾を一回パタンと振りあいさつをする。
「もうすぐ出来るぞ、主よ。」
「主じゃねぇッ。……いつのまに着いてきたんだお前、鼻ヤられてただろ。」
「フフン、あんなのは一時的なものだ。すぐに追いかけて寝ている間にフードへ入って忍んでいたのだが、出るタイミングが分からないでスタンバっていたら、いつの間にか海に落ちてぐるぐるされて死ぬかと思ったぞ。いやー流石にあの攻撃は防げん!」
「攻撃じゃないけどな……、なんか最初の時よりサイズが小さいと思ったら自由自在なのか…。」
「今は普通の犬サイズだ! 人間が受け入れやすいだろ。ところで小娘、ミルクはあるか?」
「え!? ミルクですか? 少しですがありますけど…」
「アオーン♪ 朝はミルク派なのだ。」
「…子供かよ…。」
「そうだったんですか!? すみません、知らなくて…今まで肉を…、」
「いや、構わん。少し胃がもたれただけだ。」
「おっさんかッ!!」
朝から疲れる…
「まあ、獲物の臓物や真っ赤な血液でも前菜にはなるが…」
「朝っぱらからグロい話だすなッ! あと、子供のまえでも!」
ピコは気にしていないのか、黙々と料理をしている。
クロウェルも何が面白いのかフスフス鼻を鳴らしながら笑っている。
「ふはははッ、冗談だ! 信じたか主よ。これがホントのブラックジョーク! ブラックウルフだけに。」
「面白くねぇわッ!?」
◇◆◇◆
朝食を食べた後、昨日と一緒で洗濯物を干しながら、前の岩場でピコがクロウェルのブラッシングしているのが視界に入る。
すっかり、ここのワンコになってる…デレデレとまあ、ブラックウルフの名が泣くな…
ーΣバンッ
「クソガキ! ちょっとこっち来なッ」
「!! ……俺?」
「ちんたらすんな! さっさと来い!」
そう言って手招きするババ様に俺は困惑しながらも近づいて行くと、うむ言わさずに手に持っていた謎のフラスコを口に突っ込まれて液体を流された。
吃驚して抵抗する俺にババ様が鬼畜のごとく鼻を押さえてきて、涙目になりながらも謎の液体を飲み込んだら、やっと鼻とフラスコを外して噎せる俺を見て鼻で笑った。
「ゲホッゴホッグッ…ハアハア…な、なにすんだ…ゴホッ」
「体はどうだい…動くだろ。」
「ケホッ…はあ? そんな早く動けるわけ……?! なん、で…」
「アタシは薬師だ、さっき飲ませたのは"完全回服薬"だよ。その傷に対してちょっと過剰だったが…治りゃいいだろ。これでさっさと出て行きな、あんたの犬が食料をだいぶ取ってきてくれたからそれで治療代とかチャラにしてやるよ。」
「!? 生き急ぐなって…」
「…若いからこそ出来ることさ、当たってくだけたらいい。もう、知ったこっちゃないね。好きにしな。……大事なんだろ。」
「……ッ、恩に着る、ババ様!」
「フン、ああー眠い。ピコ! アタシの飯はあるかい?」
静かに俺達のやり取りを見ていたピコとクロウェルはニコニコしながら近寄ってくる。
「ふふ、ありますよー! 今温めますね。クロウェルさん終わりましたよー。」
「テクニシャンだった。よし、主よ! 手始めに殺るか♪」
「やんねぇよ! もう動けないのはこりごりだ。」
でたよ、脳筋! そのまま忘れていたらいいものを。
「なに!? 体が鈍ってしかたないだろう? ハッスルしよう!」
「鈍ってんのは進みながらなんとかする。一人でじゃれてろ。」
「ウヴー、一人無双は飽きた! 折角ついてきたのに意味がないではないか!」
「お前が勝手に着いてきたんだろッ、帰れ! ハウス!」
「アオーン! 俺は狙った獲物は逃がさないのだ!ヤダヤダ! 殺るまでつきまとうぞ!」
駄々をこねる駄犬に、青筋がうかぶ。
「我儘な犬だなッ! なんで、俺なんだよ。お前より弱いのわかんだろ!」
「アオ? なんか惹かれたから? 今の所も別に好きでいるわけじゃないからな、俺は主のとこにいると決めた!」
「はあ? ……好きじゃないのに、あそこに従ってたのか?」
「従ってたんじゃない、従わせられていたんだ。あやつは呪術師だからな。呪いだ。」
さらっと問題発言するクロウェルに一驚する。
「!? 無理矢理ってことか? なんで…お前強いだろ。」
「ウォン! まぁな。……あの時は狩りをして満足して眠っていたら、いきなり目の前に大好物のササミが現れてな、夢中で食っていたら迂闊にも呪われておったわ! アッハッハッハッ!」
アッハッハッて……バカじゃね? しかもササミ…。俺が呆れながら見ていても気にしないのか、体を揺らして笑うクロウェル。
「迂闊すぎるだろ…全然笑い事じゃないんだけど……。呑気な犬だな。んで、俺を殺しにきたってか?」
「んー? 殺しはしないぞ、半分な。」
半殺しってか…それも嫌だけど、そんな曖昧でいいのか? 呪いって従わなければ苦痛か、死ぬんじゃねぇのかな…?
「いいのかよ、そんなんで。…命令じゃないのか?」
「命令は捕らえろだからな、…だが、そろそろ呪いが解けそうだから大丈夫だ。やっと窮屈なのが終わる。」
「そう簡単に解けんのか? 呪術って。」
「いや、昔はそうでもなかったらしいぞ。あの国は呪縛が働いているからな、年とともに衰えていったんだろう。だから、俺にも解呪ができた。」
『お主にこの国はまだ早い!』ってそういう事か? 水の精霊……
この犬本当にいろいろ知ってんな…。
「呪縛ねぇ……、ふーん。で、自由だから着いてくると?」
「ウォン! ……あの珍妙なチビを助けに行くのだろう? あの組織は色々俺みたいなマガイモノが大勢いるぞ。今のお主には荷が重い。だから、俺と殺ろう!」
「……。考えさせてくれ。」
敵を知るいいチャンスかも知れない、それにこいつは戦力にもなるから今の俺には助かる。
とりあえず、着いてくるんだったら鍛えてもらおうかな……その方が効率いいし。
そう結論をして、一番重要な事を約束してもらう。
「よし、わかった。一緒に行こう! ついでに俺を鍛えてくれたら助かる……あ、殺りはしないからな。」
「キャイン!? ………キューンキューン。」
信じられないって顔から残念そうに変わるクロウェルに心を無にして答えた。
「あざと鳴きしてもやらねぇ。あくまで鍛える事が前提な。」
「フシュー、しょうがない…軟弱な主を鍛えてから楽しめばいいんだな。」
解釈の仕方がおかしいッ!? 殺らねぇっつってんだろッ!
「脳筋バカはハウスッ!」
「……キューン。」




