16: プライスレス
少し修正しました。
「改めましてこちら、とある変た…じゃなくて、知人から預かっているAIのヌルボットだ。」
間違えた、いらんこと言う所だった。
スレイニーが微妙な視線で俺を見てくる。
「…ねぇ、今変態って言おうとしなかった?」
「空気読めよ、知人だ。スルーしろ。」
「今も…ちょッ、顔怖い!?」
口答えするスレイニーに鋭い視線を向けて威嚇したら、怖がってきてので乱雑な言葉をなげかける。
「うるせーな、いいから自己紹介しろや。」
「口悪いなあー。わかったよ、モフリー隊長! 「誰がモフリーだッ!!」ちょ、やめッ! DV反対!? ……ごめんねえっと、初めましてヌルボット、俺はスレイニー。よろしくね!」
ふざけた事を言ってきたのでテーブルの下で足を踏もうと攻撃を仕掛けるが、危険を察知したのか避けたスレイニーに苛つく。
更に攻撃を続けた俺に文句を言いながらも避け続けながらヌルボットに自己紹介をするスレイニー。
器用だな。
テーブル下の戦場など気にせず、片手を上げてキメ顔をしているヌルボットは準備が整ったのか、ポンチョをバサッと音を出して払い話し出した。
「ドーモ、つぶらな瞳で相手を魅了し、艶やかな毛で相手を誘う、キュートな尻尾で相手を離さない!! もふもふで可愛い、略して、モフカワがキャッチフレーズのオレ! ヌルボットだゾッ!! 相棒がいつもお世話してます。」
キマったぜ、みたいなドヤ顔ヌルボットにため息をはく。
俺と初めて会った時に言ってたキメ台詞なんだが、初対面で俺の知人には大抵このフレーズを言う。
俺の知り合いに可愛がってもらうため、いい関係をきずこうと云う作戦らしい…あざといな。
「 そのテンプレいつまでやるんだ…それと、お世話になってますだ、いや、お世話してますであってるか。迷惑かけてんのスレイニーだし。」
「なんで二人に貶されてんの!?」
俺とヌルボットはキョトンとして顔を合わせる、なんでって……
「「? …間違ってる?」」
首を傾げて二人でスレイニーを見る。
すると、心当たりがあるのか一度は狼狽えるが、俺の方にキッ! と睨み頬をふくらがす。
「ウッ、けどヌルボットは純粋な顔むけてるけどさ、リシャのは計算した顔だろッ!! 詐欺師の陰険め!」
バレたかと内心思いながら顔には出さずに無表情をスレイニーに向けて、一本の指を立てる。
「ふーん、①10才の時、ガジルに頼まれて薪割りしてた俺に、蝶を追いかけて前を見てなかったお前はぶつかってきて、斧を落として危うく足がおさらばしそうになった件、②ガジルの酒を飲んで胃の中ぶちまけて寝てたお前を俺がベッドに運んで床を掃除してやった件、③メカニカで迷子になったお前を施設へ迎えに行ってやった件、他にも数えきれない程あるが…俺に文句が言えると?」
「ピィ、論破!」
順番に指を増やしていきエピソードを語る俺に、頬をふくらがしていたスレイニーは、ばつの悪そうな顔をして視線を反らすが、最後ヌルボットの援護射撃に頭が下がり体が椅子から崩れ落ちた。
「すみませんでしたッーーーー!!」
所詮、土下座である。
◇◆◇◆
昼に近い時間帯で小腹が空き、スレイニーが出してくれたクッキーをつまみながら話しかける。
「そういえば、お前今日仕事は? 休みなの?」
「ああ、非番だよ。それで丁度人手が欲しかったんだ。本当は早朝のが良かったんだけど、寝坊しちゃって、まいったまいった。」
全然まいってなく、反省の色がないスレイニーにマイペースな奴だなと呆れつつ、そういえば何をするのか聞いて無かったなと聞いてみた。
「んで? 人手が欲しいってなにすんの?」
「ピィ?」
繁殖した魔物の討伐か? と思考を巡らせていると、スコップを手にしたスレイニーが笑顔で答えた。
「ん? 芋掘りだよ。」
「「芋掘り!?」」
驚く俺達に『はははッ!』と笑うスレイニー。
「…何でまた?」
俺が聞くとスレイニーは笑いを止めて説明してくれた。
「じいちゃんが知り合いに手伝いを頼まれたんだけど、ほら、腰をやっちゃったから俺が代わりにってなって…」
「なるほど…そんで丁度良い時に俺達が来たと。」
「そう♪ ナイスタイミング!! ってね。」
バチンとウインクして此方を見るスレイニーに苛つく、似合ってて腹が立つ。
イケメン滅びろ!!
「芋掘り、芋掘り、おやつ時~♪ ピィ!」
……小躍りしているヌルボットにリシャの卑しい心が浄化され、精神が10あがった。
冗談はおいといて、
「……。そんで給金でるの?」
「いやいや、手伝いだから! 善意でだから!」
労働には給金不可欠これ鉄則!! 見返りなしとか俺の辞書にはないな。
「ハッ! しけてんな。善意でとか腹の足しにもならねー。」
「ピッ! ならねー!」
「こらッ! その顔ヤメロ! 二人とも口が悪いぞ!? リシャ、ヌルボットが真似するから駄目だよ直さないと。お兄さんは心配です、ついでに守銭奴な性格も直そうね。」
二人で口を歪ませ見下した顔をしてブーイングしていたら、俺だけ頬をグイっとつねられ伸ばされた。
ついでに性格も直せとな…余計なお世話じゃ!? 金の亡者で何が悪い! 盗まず働いて稼いでんだ、せびっても罰は当たらんだろッ!! コノヤローーー!!
「うっへ、はにひふらふんは!」
「ピィー! アニキィ♪」
「ははッ、何言ってるかわかんなーい。おっと、危ないなー。それとお金は出ないけど、収穫した芋とかは貰えるよ。」
馬鹿にした笑いでわかんないと言いぐさるスレイニーの手を外させる為にグーパンと金的攻撃を連続でするも、軽々と避けられて悔しがる俺にニヤニヤするスレイニーに殺意をいだく。
だが、見返りが貰えると聞こえた瞬間、殺意はさっぱりなくなり芋に切り替わる。
食料なら尚更歓迎いたしますッ!! 食い意地はってるんで、はい。
「「なにーー!? それは行かねばッ!!」」
「切り替え早ッ!! ……二人いいコンビだね。」
二人でスレイニーへとテーブル越しに詰め寄ると、ツッコンだのち何故か生暖かい視線で褒められた。
「そういや、どこで収穫すんの? 芋とか時期だっけ?」
「ああ、"ハーベスト"だよ。いつも秋でしょあの国。」
ハーベストとな? …隣国じゃねーか!?
俺も2回ぐらいしか行った事ないし、遠くね? 夜に帰って来れなくね? 花見また延期かよッ!!
「え…まぢ? 今から!?」
「ピィ? 何処だ?」
「うん、街の特急便、飛行馬車に乗って運んでもらえば差ほど時間はかからないよ。リシャのは高所で飛べないし魔源の燃費悪いしね。」
流石都会、特急便あったのか…。
愛車の事を軽くディスってくるスレイニー。
「悪かったな、ポンコツで。愛着あんの!」
「まあ、飛行バイク乗れるだけ良いよなー。俺は魔源力が少ないから乗れないし、魔法もからっきしだからさ。」
「その分、剣の腕はたつけどな。そっちのが羨ましいわ。俺、筋肉つきにくいから。」
「…無い物ねだりだね、お互い。」
「…そうかもな。」
傷の舐め合いをしていて、ヌルボットの事を忘れていた俺達に裁きの鉄槌の制裁がおちた。
ーバチバチー!! シュウ~
「「うわッ?! 危ねー/ない!!」」
「無視よくない! 仲間外れよくないゾッ!」
質問を答えずに存在感を無視した事で怒ったヌルボットが最近覚えた必殺技をくりだし、俺とスレイニーは慌ててその場から離れた……ちょっと髪が焦げた。
「ああ、ヌル悪かったって! けど、スグに暴力ふるうのはいけません!」
「…人の事言えないんじゃ…「お前は黙ってろ。」理不尽だなぁ!?」
自分でも思ったが人に指摘されるとムッとなる。
うん、確かに理不尽だ、流石だ盟友よ! 俺の事分かってるー! 数分前は違うがな。
そんな事を思っていると、ヌルボットに反撃された。
「反面教師だゾッ!!」
「!? ……モン爺だな、余計な事教えやがって!」
「…正論じゃないか…「うるさい、黙れ。」ドコの暴君!? …もう、ヌルボット! 悪い所は真似したら駄目だよ、良い所を盗みなさい!」
「ピィ? 良い…所?」
教師みたいな事を言っている奴はスルーして、問いかけられたヌルボットが眉を寄せて考えるポーズで俺を見てくる。
「…何、そんなの有るの? みたいな顔してんだ。いっぱいあんだろー。ほら、格好いいとかイケメンとか美男子とかさ。」
「全部外面、んー? 顔面だな! …自分でも内面で探せなかったのか……。」
そうだよ、全部願望だよ……シクシク。
「ピィー良い所…いいトコ……ピィ~難題。」
「そんなに!?」
俺ってそんなにいいトコないの!?
スレイニーが同情の眼差しを向けてくる。
「…おいおいリシャ…。ん~これは迷宮入りか? …ヌルボット君!逆に悪い所は言えるのかね?!」
「ハッ! アニキィ悪い所でありますか?!」
「そうだッ!!」
おい、フォローする気あんのかコイツ!? 同情の目はなんだったんだ! それに、軍隊風の口調が馬鹿にしてるッ!!
「それはもうッ!! 口が悪い、目つき悪い、手癖悪い、足癖悪い、寝癖悪い、酒癖悪い、顔悪い、頭悪い…「喧嘩売ってんのか毛玉ァー!?」……言葉の暴力怖い、モフリー怖い、絶対零度の笑顔…プライスレス。」
出るわでるわと悪い所、こっちもだよ怒り顔…プライスレス。
「…ヌルボット君、よくここまで耐えた! 後は私に任せなさい!」
「ハッ! ありがたき幸せ。」
「うむ、……リシャ、育児放棄と虐待はさすがに…」
「してねーよッ!? やっぱ喧嘩売ってんだろ、毛玉にナチュラル馬鹿ッ!!」
◇◆◇◆
あれからなんやかんやで、特急便の時間がきたから急いで家を出て乗り合い飛行馬車に乗り込む三人。
馬車の中には若い夫婦と農夫の三人、フードを被った魔法職っポイ人物が乗っている。
二人は景色が見たいと言っていたから、窓に近い席に行くと推察して、俺はヌルボットにフードを被せてから一人、魔法職の人と反対側の入口近くの席に座った。
訳知り顔のスレイニーと不思議がるヌルボットだったが、馬車の動く合図が鳴ると窓側の席に座った。
「ハーベストは隣国にあるんだけど、ヌルボットは初めてかい?」
「ピィ! メカニカ周辺しか行った事ないゾ。あと、ペロな!」
「そうか、なら楽しみにしてなよ。一気に景色がガラッと変わるから。」
「そうなのか!?」
窓にかじりついて、景色を見逃してなるものかと気合いを入れるヌルボットにスレイニーは微笑みそして、人間観察中の俺の方に来て隣に座った。
「おい、さっき言っただろ。ヌルを一人にするな。」
視線を合わさず小声で言う俺に、スレイニーも同じく小声で視線はヌルボットに向けたまま答える。
「油断はしてない、この距離なら直ぐに詰められるし、攻守できる。…なあ、本当にそんな連中が国中にうじゃうじゃいるのか?」
聞こえぬ様、ヌルボットを先頭に馬車に向かって走ってる間にモンジに教えてもらった事、俺達の今の現状をスレイニーに話してあるのだ。
知らない所へ行く以上、いつ危険が伴うか警戒を怠らない様にと協力してもらう為に。
「どういう奴等なのかもわからないし、スパイらしく馴染んでんだろ…はっきりしてんのは、狂った奴等って事だ。だから、用心に越したことはないだろ?」
「…神経使い過ぎて倒れんなよ。今は俺もいるんだから、頼れよ。」
「ああ、頼りにしてるさ。…俺は弱い、だから俺が守るだの四の五の言ってられない。」
「……。素直になって、成長したなーリシャ。」
ワシャワシャと嬉しそうに頭を撫でてくるスレイニーに照れ臭くて、手をはね除ける。
「実際、色んな戦闘に強いからなスレイニーは。魔法寄り気な戦闘の仕方しかやらない俺は、ギルドの依頼とかでも護衛なんて受けた事ないからさ、経験がないから守り方が分からないんだよ。目の前の敵に夢中で護衛対象の奴をほっといて疎かにしそうだし。未熟だから…」
「まあ、伊達に治安機関で働いてないからね、…でもそれだけ自覚があるならこれから強くなっていくよ。努力して経験を積めばね。自分自身の弱点を認めない者は腐る奴が多いんだ…。だからまずは、修行だな! 協力するよ。」
「ありがと。ほれ、ヌルんとこ戻れ!」
「はいはい。」
嬉しくて、でも恥ずかしくて突き放した言葉を投げ掛ける俺に、スレイニーは苦笑いしてヌルボットの方へと行った。
信頼する協力者…これこそプライスレスだな。
ーもうすぐハーベストに着きます! 忘れ物が無いように気を付けて下さい。
御者が外から声を掛けてきた。
どうやらもうすぐハーベストに着くようだ。




