14: 誰もが一度は憧れる!
少し修正しました。
秘宝のトロピカルベリーを全部食べられて泣き崩れたモンジは、開き直って『こんなの飲まなきゃやってられるかーー!!』と叫びながら倉に走って行き、ギンジが隠していたという秘蔵の"鬼神殺し"の酒を笑いながら出してきた。
怒られて頭痛や吐き気に悩まされるモンジの未来が見える…。
その後、ヌルボットも起きてまた宴が再開された。
完全復活したヌルボットは食欲がわいてきたのか、今あるツマミだけでは足りなくて、途中で素面の俺が買いに行かされたり、そのまま夕飯に突入して料理を作らされたり、ギンジが床に転がった空っぽの瓶を見てモンジを絞めてたり、こっそりギンジに取っておいたトロピカルベリーを渡したり、それが見つかってモンジが『ワシのは!?』と懇願してきたが、最後のだとギンジが持っている一粒を指すと、その場でギンジが素早く口の中にほうばり舌をだした。
意表返しだな…グッショブ!!
そんなこんなで、夜もふけてきて、『帰んのか?! イヤじゃ、イヤじゃ!!』と駄々を捏ねる爺さんによってそのまま泊まらせてもらい、朝になった。
モンジとギンジは二階の自室へ、俺とヌルボットはソファーを貸してもらって寝ていた。
上半身にヌルボットを乗っけて寝ていたから、体勢が変えれず腰が痛い…。
春先の気候だからか肌寒く目が覚めた俺は、まず胸元にいるヌルボットを落とさない様に起き上がり膝に乗っける、寝惚けた頭でボーとここ何処だっけ? と考えて、モンジの所に泊まったんだったと思い出す。
色々内容の濃い話を聞いたし、話したなと染々と思ってヌルボットを見る。
「……失いたくないな。」
今が一番楽しい、充実していると思うぐらい俺の人生の中でヌルボットはもう大切な相棒だ…
ならこれからどうすれば良いか、常に狙われる可能性があるその組織から隠れるのか…
(何でワケ解らない連中のせいで! そんな窮屈な人生はまっぴらだッ!!)
目標を立てないとこのままじゃ駄目なんだろう、モンジは『分からん事ばかりだろうが、知りたくばもっと成長せい、身体的にも精神的にも、の。』と言った。
未熟なままでは守れない、後悔したくない、ならどうする?
(守れる様に鍛えなければ、身体も精神も。…また同じ事を思うなんてな。)
アンナみたいに経験がものをいう様に……。
「早く大人になりたい…か。」
自嘲気味に笑う。
◇◆◇◆
「お主ら今日はどうするんじゃ?」
皆が起きて、朝食中にモンジが俺に聞いてくる。
案の定、顔色が最悪な爺さんが出来上がっていた。
ギンジと目を合わせサムズアップしあう。
「ペロに行くよ。」
元々、仕事でこの街に来て滞在日が延びにのびてたから、本来の計画を経ててたペロの街に行って花見をするのと、知り合いに会いに行くつもりな事を伝える。
「…いいのう、花見…。」
「…アンタは仕事だ。」
「モン爺まだ飲みたいの? 懲りないな。」
「ないなッ!」
「ぐぬぬぅッ!!」
羨ましそうに見ていたモンジに、ギンジと俺、真似てヌルボットが追い討ちに攻撃発言したら、唸って恨めしそうにこっちを見てきた。
「お主が全部食べなければー!!」
「自業自得じゃん。」
「うぬー! なぜワシは残して取って置かなかったッ!!」
「それこそ自業自得…ぷッ。」
「そこ! 笑うなーー!?」
頭が痛くて制御が出来ずに頭から猫耳が飛び出すモンジに俺は堪えきれなくて笑ってしまう。
自分で叫んでダメージを食らっているモンジの顔が、酸っぱい物を食べた様にクシャっとした変顔だったのも笑いを誘っている。
もはや、モンジの味方はいなかった。
「ご馳走さまー。」
「ゴチソサマー。」
俺とヌルボットは手を合わせて言う。
「お粗末様じゃったの。」
「…ごちそうさま。…じゃあ俺は仕事に行く。」
ギンジが立ち上がり作業場のガレージに行こうとする。
「ギンジさん、お世話になりました。また、飛空挺の話を聞かせて下さい!」
「ああ、またな。」
そう言ってギンジは仕事に行ったのを見送り、モンジに向き直る。
「モン爺もありがと、聞けて良かった。」
「なんのなんの。」
「ピィ何の事だ?」
ヌルボットが首を傾げているのをモンジと二人で笑い人差し指を口元に持っていく。
「「内緒だ/じゃ。」」
「ずるいゾッ!!」
頬をふくらがせて地団駄をふむヌルボットを抱き上げて視線を合わせると、不思議そうに見てきた。
「これからも一緒に経験して強く成長してこうな。」
「ピィ? …おう、一緒にいるゾッ! しょうがないから、オレが相棒を助けてやる!! 虫からッ!!」
オレが守ってやる宣言をしたヌルボットに、色々確信ついてくるなと思って気が抜けていたから、虫からかよッ!! とズッコケてしまった。
「…ああ、頼んだ。」
「ピィピィ! しょうがないからなッ!」
「ホホッ、なんじゃあヌル坊! えらいご機嫌じゃのう。」
「ピィー♪ あ、ねぇモンジィ見てみて! 相棒とお揃いなんだゾッ!」
「んん? ほぅ! よく似合っておるぞ。」
「でしょでしょ! アンナが作ってくれたー!」
「アンジェリーナがか!? 器用なもんじゃの…」
初めて会った時に見たことあると思うが、感想を聞いてなかったからかヌルボットがモンジに衣装を見せびらかしているのを見て、微笑ましく思う。
「さてと、そろそろ行くか。」
「ピィ、行くの?」
「行くのか…。」
いつまでも続きそうだったので、二人で話していたのを中断させて出発を告げる。
「ああ、また来るよ。」
「うむ、…お! そうじゃった、ちょっと待っておれ。」
そう言って椅子から立ち上がり、二階へと上がっていくモンジに隣に座っていたヌルボットと一緒に首を傾げて戻ってくるのを待っていた。
少ししてから降りてきたモンジの手には、先端が鞘に入った一本の槍が握られていてそれを俺に渡してくる。
「なんだ? 配達希望か?」
「違うよ、お主にじゃ。」
「えッ! くれんの? …有り難いけど、何で槍?」
「お主の手を見てな、その武器が一番合ってると思ったからのう。違うか?」
「……いや、合ってる。誰にも教えてないのに…」
職業柄飛び道具の方が効率が良かった為、得意の槍は封印していたのだ。
アンナと旅をしながら一通りの武器を試して、一番自分がしっくりきたのが槍だったからモンジに当てられて吃驚した。
まあ、一応ある程度なら、どの武器でも使えるのだが…
「神殺しの聖槍と云う。詳細は後で見なさい。」
「…なんか凄そう…、モン爺ありがとう! 大切に使わせてもらうな。」
「うむ! 鍛練を励むようにの!!」
素直に嬉しくて武器を見ながらニヤニヤしてしまう。
「良かったなー相棒!」
「ああ。」
「面白い仕掛けをしてみたんじゃギンジと一緒に。それと、ヌル坊にもあるぞ。」
「ほんとかー!」
期待の眼差しでモンジを見るヌルボットに、モンジはポケットから腕輪を取り出す。
「これじゃ! なんと! ここに魔源を流すと…」
ービーーーーービリビリッ!!
「このように相手を油断させて痺れさせる事が出来る!!」
「「ビーーームじゃん!? すげー!!」」
ドヤ顔でモンジが説明しているのに対して、ヌルボットは腕輪を装着し、ビームを出して興奮していた。
聞いてないのが分かって、しょんぼりしながら俺の方に寄ってくる。
「あれは発信器でもあるから迷子防止じゃぞ。」
「!? 助かる…。」
小声で伝えてきて、俺が昨日渡したゴーグルが返ってくる。
ヌルボットがどこにいっても分かるようにギンジが改造してくれたのだ。
「それと、お主の槍の方だがの…この魔石に自分の魔源を登録すると自分だけにしか使用出来なくし、収納できる。ほれ、やってみい。」
言われた通りに持ち手の一番下にある魔石に魔源を流すと、槍自体が光り馴染んでいき、槍の姿が崩れて魔方陣に変わり、人差し指の第三関節の甲に向かって小さくなり吸い込まれていく。
光が止み手の甲を見てみると、先程吸い込まれた場所に小さな魔方陣のタトゥーが出来ていた。
「その魔方陣の中に槍が入っておるから直ぐに取り出せて攻撃に移れるぞ!どうじゃ、面白いじゃろ。」
「すげー!! 脱帽したよ。トリックボックスより断然早く行動に移せれる。」
「まあ、その槍専用のだから他は入らんがな。」
「それはそうだよ、収納の魔方陣を刻もうとすると、容量が大き過ぎて人体に影響して体が吹き飛ぶぞ普通。だから、空間魔法かトリックボックスじゃないと収納なんて出来ないのに…」
今、世界の革命を見ている気がすると、しかも自分にだ!
さっきのビームより興奮する出来事だった。
「よし、準備万端じゃな! 忘れ物はないか?」
「ああ、ありがと。」
「ないゾッ!!」
「じゃあの…気をつけて。花見も楽しんでのう!」
「お世話になりました。またな!」
「ペコリ、ありがとなーモンジィ! バイバイ!」
挨拶をし、モンジに背を向けてラボから俺とヌルボットは出て行き、スミスの街も後にしてペロへ向かって旅立った。
「……頑張って精進せいよ、リシャ。」
居なくなってから静かに激励をしてくれていた事は、俺は知らない。
◇◆◇◆
そういえば、モンジがこの槍の詳細を後で見ろって言ってたと思い出してゴーグルを着ける。
名称:【ロンギヌス】
装備:【攻撃力+10 術攻撃力+10】
【命中力+10 集中力+10 体力+10】
属性:【聖】
特殊:【破壊・譲渡不可】【成長※】
※装備者と一緒に成長していく槍。
強弱するにもあなた次第の一品。
「…成長!? てか強ッ!!」