11: 親子も十人十色
少し修正しました。
「ん~一人で飛ぶの久し振りだなー。」
スミスの街から外に出て、直してもらった愛車で飛び立ちはや数分、早く行って帰らなければならんからかっ飛ばして進んでいると、左前方の川と森の境目に熊の魔物の親子が水を飲んでいるのが見えた。
(げッ!? 今はヌルボットいないし、子連れはさらに狂暴だから戦いは避けよっと。)
あまり刺激しないように、その場を避けて行こうとハンドルを動かすが、更に森側の木の上に巻き付いて、熊の親子を狙っている蛇の魔物も見えてしまった。
(…子供を狙ってるな。)
……、最近弱いんだよな、親子系。
確実にヌルボットに影響されてる俺、助けてもキリがないのに見過ごせなくなってる。
自ら危険に飛び込むなんて、しかも今日は一人だし余計に…、だが……
徐々に低速していきエンジンはつけたまま、上空で停止する。
高度に飛べない愛車、魔力をだいぶくわれるのであまり留まりたくないのだが…
辺りを警戒しながら魔物の様子を眺める。
蛇の方は熱を感じると飛び掛かってくるから近づかずにする。
それに触発されて熊までこっちを襲ってきたらシャレにならない。
シャーー!! Σグヴォーン!!
俺がそんな事を考えていたら、 始まってしまった。
死角から蛇の魔物が子供の熊の魔物に襲い掛かり、胴体を巻き付かせて頭と尻尾の先を残し締め付けながら、親熊を威嚇する。
不意を突かれて反応が遅れた親熊は子供を助けようと、仁王立ちになり威嚇を返して突っ込むが、敵の尻尾が川に浸かっていたのを振り上げて、水を親熊の顔面に飛ばして怯ませた。
(…蛇の方は戦闘馴れしてるな。不意のつけ方がうまい。これは、熊は人質いる分も含めて劣勢か…)
怯んだ親熊に蛇の魔物は好機と観たのか、腕に噛み付き毒をだした。
グアーン!
目には水で、腕は噛みつかれ、体内には毒を受け親熊は苦しげに膝をつく。
蛇の魔物は、したり顔にシャー! と鳴き尻尾を振り挑発している。
子熊は締め付けられてか、こころなしグッタリしてきた。
親熊は毒がまわりフラフラしながらも、子を助けんとばかり、目に怒りを宿し敵を睨めつけている。
(…ハァ、潮時だな。)
俺は腰のポーチから投擲用のナイフを2本出して右手の人差し指と中指、薬指の間に挟んでから飛行バイクを飛び降りる寸前に仕舞うと、空中で構え、蛇の魔物に1本を上から投げて頭に、もう1本を尻尾に向けて、わざとずらして投げた。
上から攻撃が来るとは思わず二匹とも怯むが、直ぐに立ち直り飛んできた上空へ視線を向ける。
だが、そこには何もいない…
(それは、…木に飛び移ったからッ!!)
ーガサガサ ヒュン! バシッ!! Σジュラーー!!
「…ッ…! 硬ってぇなッ、クソッ!」
二匹が上空を見た瞬間に木の枝に着地して、トリックボックスから棍棒を取り出し瞬時に蛇の魔物に向けて横から枝を蹴って飛びだし、頭に目掛けて棍棒を振り上げた。
皮膚の固さに手が痺れたが、攻撃が入り隙ができた。
その隙に、上で先に準備していた魔法を撃ち込む。
「大地の拘束!」
ーガガッ シュルシュル ギチギチ
シューシュー!! Σガンッ!!
蛇の魔物の頭と尻尾を土で拘束し、グネグネと暴れているのを頭を殴って昏倒させる。
子供を絞め殺そうとしたので、危なかった。
この戦闘時間僅か10秒だ。
「……ふぅ。」
(囮作戦なんとか成功ッ、今の内に頭潰すか。)
「…潰れろッ! 落ちる岩石。」
ーゴガンッ!! グチャッ
頭を潰されて、しばらく痙攣してから力尽きた。
「よし!」
止めを刺した俺は、まず何もしてこない親熊を見る。
親熊は毒で意識が朦朧としているのか動けず、焦点が合ってない…、だが新たな敵が来たと分かっているのか闘争心は無くなってない。
(すげぇな。…解毒と回復のポーションあげてやりたいが、近づいたら危ないか、刺激して暴れでもしたら余計に毒がまわる。光魔法が使えないのが痛まれる。…動けないなら先に小熊を見に行くか。)
小熊の方に向かうと、締め付けがなくなりはしたが巻き付かれた状態のまま気絶しているのか、死んでるのか、動かない。
子供でも立派な熊だ、襲われたら大怪我は免れないので、棍棒で一先ずつついてみる。
ーツンツン ……クォーン…
「…生きてはいるな。」
力が入らずグターとしているので、少しずつ近づき様子を伺いやもえず、小熊を背後から抱き抱える。
体に力が入って無いから余計に重い、抵抗も出来ないようだが、目は少し開いて親熊を探している。
「今、親熊の所へ連れてくから、安心させてやれ。」
「…クー。」
「……返事したみたいだな。」
よっこいしょっと持ち上げてズシズシ親熊の所へ歩く。
親熊は今はもう、完全に動けないのか横たわってゼイゼイ呼吸がおかしい。
急いで小熊を親熊の近くに降ろす。
鼻をヒクつかしグォーンと鳴き、臭いで小熊近づくのが分かったのか大人しい、少し安心したのだろう。
(肺までいったか。ヤバいな、急がないと!)
「親熊、子供は無事だ。だがアンタがヤバい、俺は絶対危害を加えないしお前を救いたい。今だけでいいから、信用して解毒ポーションを飲んでくれ!」
言葉が通じないと解っていても喋らずにはいられなかった。
頼むから死ぬなよ、親が子供から親を奪うような事をしないでくれッ!
俺は、解毒ポーションの蓋を開けて近づく…
だが、やはり人間の臭いがしたのか、牙を見せて威嚇してくる。
(クソッ! いっそ意識を奪うか?)
そんな考えが浮かんだ。
すると、ブルブル小熊が立ち上がり親熊に寄り添いながらクー! クォーン! と鳴き出して、親熊が威嚇を止めた。
そして、小熊が俺の方に向き直りクゥ! と鳴く。
俺は反射的に近づき、持っていた解毒ポーションを親熊の口に持っていくと、口を開けたのでそのまま流し込んだ。
ついでに、腕の傷には解毒と回復のポーションを振りかけ、警戒されないよう二匹から離れる。
数分経つと、薬が効いてきたのか呼吸が楽になり目の焦点も正常に戻った親熊は、一度俺を見て、直ぐに小熊を見詰めてすり寄る。
小熊も嬉しそうにすり寄り甘えている。
(ふぃー。…なんとかなった。よかった…。)
安心した俺は、冷や汗をぬぐいつつ、今の内にずらかろうと目線は熊の魔物の親子に向けたまま、後退りをして、ある程度距離が空いたら素早く飛行バイクを出して跨がる。
ーブロロッ クォーン!?
「んじゃ、お大事にー!!」
二匹が音で気が付き、小熊が何か鳴いていたが構わず俺はエンジン全開で別れの挨拶を飛ばしながら言い、エスケープした。
◇◆◇◆
「お通りください。ようこそ、リンドル村へ!」
住民証を門番の人見せてやっと村に着いた。
なんとか、午前中には着いたな。
この村は花の街ペロに近いだけあって、土の状態が良く作物が育てやすい。
なので、畑やら果樹園などの農家の職業の人が多かったりする。
それで、荷物を届ける場所はというと、水車の小屋がある村長の家だ。
そう…村長の家なのだ!! (最悪だ。)
なぜ、最悪なのかと言うと、村長の家には娘がおり、その娘と俺はお互いに嫌い、《犬猿の仲》だからだ。
理由は単純で、結婚出来なくてイライラしてる時に偶々仕事で俺が村に居て、見かけない若い男に食い付き、会って初めてでプロポーズをされ、即答で断ったら顔を真っ赤にして怒り罵倒された。
良く知りもしないのに結婚なんて出来るわけない、それに…
言い方が、『私この村の村長の娘で、引く手数多なのだけど、あなた顔は良いし私にピッタリだわ! 結婚したらこの村をいずれ好きに出来るわよ、だから婿に来なさい!!』だぞ。
誰がお前と! と即答で断ったら、悪口のオンパレード。
『性格最悪ね! 良く見たら女顔じゃないッ、私の方が可愛いけど!』やら『フってあげる。後から言っても、もう遅いから!』など…
散々で俺わるくないじゃん! すげー上から目線のうえに、僻みかよ!
それで、気分が降下して関わらない様に避けるのに、アッチから寄って来ては口論の喧嘩を繰り返す悪循環だ。
村長に相談しても謝罪だけで、村の皆が知っている事実。
そんな性格で結婚出来る筈もなく、売れ残り、周りに当たり散らす…。
そんなこんなで、この村に来る度に突っかかって来るので余計に村長の家に行きたくないのだ。
(まあ、仕事だからしょうがないが…。)
早く終わらそうと、スタスタ歩き村長の家に向かい、水車が見えてきた。
ートントン ガラガラー
「こんちはーお届け物でーす。」
家に着き、ノックをする。
すると、中から男性の返事がして玄関が開いた。
「はい! ご苦労様です。あッ、トラハさんでしたか! 遠路はるばるありがとうございます。」
「いや、仕事ですから。こっちが荷物で確認出来たらサイン下さい。」
結構大きい荷物を渡し確認してもらう。
「…はい。大丈夫です。」
「確かに。じゃ、失礼しましたー。」
「あ! 待って下さい、少しお知らせしたいことがッ!」
サインをもらい、さっさと出ようとしたら何故か村長にひき止められ、俺は嫌な顔を隠さず村長へ向けた。
「うぅ!?すいません。ご迷惑を掛けてるのは存じてます、今日は、いい報告というか、やっとかというか…一応知らせようと!」
「…なんですか、いい報告って。」
俺が話を聞く気になったと分かり嬉々として村長は話し出した。
「あのですね、私の娘、アリシアがやっと結婚することが決まりまして! 嫁ぐことになりました。」
「…まぢか。よく貰い手見つかったな、親に言うのもなんだけど。」
失礼な発言をしたが、俺は大変迷惑を被られたから気にしない。
村長も分かってるのか何も言わない。
「…ん? でも嫁ぐって…ここどうすんの? 一人娘だよな。」
「はい、でもあの子に村を任せるつもりはありません。村人たちが反発しますから…。」
「だろうな。」
「…はい。妻に先立たれ、甘やかして育ててしまったのは、私の責任です。せめて、村長として村には関わらせる事は致しません。これを気に退き、娘の嫁ぐ町に移住しようかと…寂しいですからね。この村は相応しい他の者へ任せようかと思っております。」
「…それもいいかもな。」
村長としての責任の取り方に別に何も思うことはない。
俺はここに住んでないし、村の為にどんな風にしてきたかも知らないから。
でも、村長惜しられるんじゃないか、いい人そうだし。
寂しいから娘が嫁ぐ町に移住って…最後までどんなことが合っても近くで見守るつもりなんだろうな。
これで、あいつが更正でもしたら、負担はへるのに…
「なんか、お疲れ様。」
「ありがとうございます。結婚する日までは頑張りたいと思います。」
村長の肩にポンッと手を置いて労ると、よく見れば疲労した顔でニコリと微笑んでお礼を言われた。
「じゃあ、帰るな。報告ありがと!」
「いいえ! 私事で引き止めてすみませんでした。お気をつけて!」
ーガラガラ
「うしッ、仕事終ーわり!昼買って帰ろう。」
今頃ヌルボット飯食ってるかな…
サンドイッチを売っている店に寄って玉子サンドとピグーのカツサンドを6人分位買ってから出口に向かう。
だんだん門の入り口が見えてきて、付近に茶髪をハーフアップに結んで、ちょっとオシャレな村人風の格好をした女も見えた。
俺は直ぐ様反対に向き直りスタートダッシュする。
「待ちなさい!? こらー運び屋!!」
なんか後ろでわめき散らしているがスルーして、逃走経路を計算する。
別の門から出てすぐに飛ぼう!! よし、終わり!
まわりの村人たちは何事だ?! と覗いてああ、またかと興味をなくす。
いや、何度も思うけど注意しろよ!? どいつもこいつも!
そして一番は、後ろで追いかけてくるあいつだ!!
「ゼイゼイッ、待てって言ってるでしょ…運び屋ッ、止まりなさい!」
「やでーす。一体何のようだ傍迷惑な奴め。」
「話すなら止まって!? 疲れたのよ!」
「知るか! 勝手に疲れてろ。俺には用がない!」
「ヒドいッ! 私が用があるって…ゼイ…言ってるのッ!」
「それこそ、俺には関係ないね。」
暫く走っていたが、いつもよりしつこい相手に最後だししょうがないと止まってやると、止まったのを見て、少し離れた所で膝に手を着き休んでこちらを見てきた。
「ゼィ…止ま、止まるなら、早く止まってよ…!」
「で、何。」
「……フゥ、近くに来て、話したいことがあるの。」
「絶対やだ。ここで話せないなら俺は帰る。…お前相変わらずだな。もうすぐ結婚するんだろ? いつまでも自分中心でまわってると思ってんじゃねーぞ。迷惑だ。」
「なんで知ってるの!? あッ、お父さんね!」
「心配してたぞ、ちゃんと労ってやれよ。」
「知らない! それより、私結婚するの! 相手は…「いや、興味ない。」ちょっと!? 話してる途中でしょ!」
興味がない事をうだうだと話そうとするこいつに、もういいかなと思って帰ろうとした。
「用ないなら帰るな。」
「!? …逃した魚は大きいわよッ、ざまーみなさい!!」
と、アイリスは捨て台詞を言ってきたのを呆れて聞いていた。
最後まで、どうしようもない奴だ、まぢ旦那さん更正できんのかな。
ま、もうそう簡単に会うことはないだろと清々しい気分でリンドル村をでた。




