10: 甘えんぼ
少し修正しました。
俺はヌルボットをもう一度背負って、宿に帰る事をモンジに伝える。
「じゃあ帰るわ。また明日、朝に寄るな!」
「なんじゃあ、もう帰るのか。」
つまらなさそうにモンジが言う。
今は、目に毒だから猫耳を封印してもらった。
「明日も仕事で早いからな。寝る!」
「そうか、まだまだ話したりんかったが、仕方ないか。」
「俺もモン爺には聞きたい事あるし、また仕事ない時に寄るよ。」
「うむ。あい、わかった。じゃあの、おやすみ。」
「おやすみー。ギンジさんにもよろしく。」
お互いに手を振って別れの挨拶をし、俺は出口に向かって行き、アルチザンをあとにする。
相変わらず、ヌルボットは爆睡している。
背負ってみると改めて、小さい…、重いなと思う。
あれからもう半年たった。
博士からの連絡はおろか、ヌルボットがいた研究所の襲撃事件がなかった事のように、研究所は綺麗だった。
俺はヌルボットを預かると決めた日の夜に、研究所がどうなっているか確認の為、近くまで行ったんだが…話を聴いた限り、ドカーンは爆発しているし、なにより魔物がいた形跡があるんじゃないか、博士はどうなったか手がかりを探しに行ったけれども、何事もなかった様子に戸惑った。
守衛に聞いても「そんな事はありえない」と否定されて追い返された。
町外れに建っている為か、人は研究所の関係者と警備の人以外は近寄らないから目撃情報が見当たらない。
次の日、新聞にもニュースにもならなかった。
何かの陰謀がからんでるのか?
とにかく、博士の安否だけでも分かればいいのに…、初めの頃ヌルボットは、よく悪夢を見て博士、博士と呟いて涙を流していたから。
今は、馴れて落ち着いたのもあって、俺が触っても起きない位熟睡するようになった。
本当によかった、俺は少しでもこいつの居場所になれてるのかな…。
夜道を歩きながら悶々と考えていたら、宿屋に着いた。
ーチリン
「すみません、遅くなりました。」
「おかえりなさいませ。…リシャ様ですね? キーをお渡し致します。」
予約をとった時のおばちゃんじゃなく、今受付してくれてるのは燕尾服が似合いそうなお爺さんだ。
「あ! 朝御飯を弁当にお願いしたいんですけど。」
「はい、承知致しました。宜しければ、部屋までご案内させて頂いても?」
「ヘッ?」
お爺さんが両手を背中に持っていき背負っているジェスチャーをしてきて、ピン! とくる。
両手が塞がってるから、部屋のドアを開けましょうか? と言ってくれてるのだ。
俺は笑顔で、ありがたくお願いした。
「宜しくお願いします。」
「かしこまりました。ご案内致します。」
ニコッと微笑んで部屋へと案内してくれるお爺さんは、部屋に着き、キーでドアを開けて扉を押さえたまま「どうぞ、ごゆっくりお休み下さい」と言い、俺が部屋に入るとゆっくりと会釈してドアを閉めて去っていった。
ここの宿屋にしてよかったー。
神対応ハンパねぇ。
改めて部屋を観察すると、一人部屋にしては広い、さすが高いだけはあるね。
ダブルベッドにソファー、ドレッサーテーブルに冷蔵庫、風呂付き、トイレと充分だな。
ードサッ
「ふう、疲れたー。」
ヌルボットをベッドな寝かせ、俺はソファーに足をグッと伸ばして寛ぐ。
今日もなかなかハードだったから、眠たくて瞼が下がってくる。
風呂入ってさっさと寝よ。
◇◆◇◆
ーユサユサ
「相棒~頭が痛いゾ。腹減ったー。」
「んぅー? ……はよヌル、頭が痛いのは…お前の自業自得だ。…反省しな。飯は下に行けば弁当用意してくれてる…はず…眠い。」
眠くて目が開かずに答えて、力尽き再度ベッドに沈む。
「んぬー! これが二日酔い…吐き出す物はないけど、気持ち悪い。うぷッ」
「…おい、俺の顔の真上で吐くなよ。」
目の前が暗くなったのを感じたので薄目を開けると、ヌルボットが頭に両手をあててグリグリ痛みを和らげているのか、口は開いたまま俺の前頭部の方から覗きこむようにして、うぬうぬ唸ってる。
どこに吐く用意してんだ…動きたくないのは分かるけど。
「ううー抱っこッ、背中撫でて~うぷ…」
ヌルボットが両手を俺に伸ばして甘えてくる。
「なら、もう酒飲むなよ。辛いだろ?」
ーコクコク
「…ハァ、ほら来い。」
ーヨジヨジ グテー
返事もできない位気分が悪そうだ、頷いてヨチヨチと近寄って来たので脇に手を伸ばし掴んで抱き、お尻と背中に手を置きかえると、ヌルボットは頭を肩に乗せてグテッとなる。
リクエストに答えて背中を擦ってやると、いくばかして呼吸が楽になったのか、更に体重を預けてくる。
こりゃダメだな、アンナに預けて俺だけで仕事に行くか。
今は、…7時か、微妙だな…。
抱いてモン爺のとこ行って飛行バイクを回収してからアンナとこ寄るか。
用意をするために一旦ヌルボットを寝かせてから着替えやら朝の仕度をする。
◇◆◇◆
仕度ができると、ヌルボットを抱き下におりる。
「おはよう。あら、まだ寝てるのかい?」
「おはよ。いや、気分が悪くてさ。何か薬とかある?」
「大丈夫かい!? 薬…何の症状だい? あれだったら医者に見せた方がいいんじゃ。」
おばちゃんが心配して言ってくれるが、コイツ二日酔いですと言いづらい…。
頭痛って言っとこう、間違ってはいないし。
後で本当の理由をアンナに言って薬もらお。
「頭痛なんだけど、後で知り合いの所へ行くよ。」
「そうかい、ならいいけど。待ってな頭痛なら薬あったから持ってくるよ! ついでに、弁当もね。」
「ありがと! 助かる!」
そう言っておばちゃんは奥に行ってしまった。
ここの宿の人、お人好し多いな。
ースタスタスタッ
「お待たせ! お弁当と薬だよ。」
「わざわざありがとう。いくら?」
「そんなのいいから、早く行ってやんな!」
「…本当ありがとう。また、来ます!」
「こちらこそ、また、おいでくださいな。」
ーチリン
「ヌル、起きれるか? 宿のおばちゃんが頭痛薬くれたから飲んでみな、少しは楽に…なるのかな?」
ヌルボットに薬は効くのか?
「多分…飲んだことないケド。ちょーだい。」
「ん、口開けな」
ーゴクン
「オヤスミデス。」
「ああ、おやすみ。」
薬を飲んだヌルボットはまた眠り、俺はトリックボックスに水筒を戻す。
そして、ラボ目指して歩き出す。
◇◆◇◆
ラボに着き、入り口からギンジさんを探す。
「おはよございまーす。飛行バイク貰いにきましたー。」
ーカンカンカン
「おお、おはよう」
2階から降りてきたのは、モンジだった。
「はよ! モン爺、ギンジさんは?」
「ギンジは昨日のガレージの方に居るだろう。ん? どうしたんじゃヌル坊。」
「二日酔いでダウン。」
「あーやっぱ悪酔いしたか。悪いことしたのう。」
モンジが心配そうにヌルボットを見る。
「これはヌルの自業自得だから気にしなくていいよ。」
「そうかい。リシャそういえば、今日仕事じゃろ? ヌル坊連れてくんか?」
「いや、それは流石に無理だから知り合いに預けようかと。」
「そうか、知り合いのが安心するしのう。」
……。うん、そうしよう。
多少は俺もモンジの事、信用できるし、あっちは昨日で少しトラウマができただろうから、これ以上追い詰めてもな…
それに、ヌルボットじたいがモンジの事を信用してた。
なら、大丈夫だろう。
「なあ、モン爺。ものは相談なんだが…」
「ん? なんじゃ?」
「ヌルボットを今日預かることって出来るか?」
「? 知り合いに頼むんじゃなかったのか?」
不思議そうに俺を見てくるモンジに、軽く昨日の出来事を教えると、なるほどと頷いた。
「ワシは今、仕事がたて込んどる事は無いから良いが、一応ギンジにも聞いてみるわい。おそらく、賛成してくれるだろう。」
「図々しくて悪いけど、お願いします。」
「おう、帰ってきたら話でもしようの。」
「ああ、そのつもり!」
顔を合わせてニカっと笑いあい、ギンジさんのいるガレージへ二人で向かう。
すると、ギンジさんはこちらの話が聞こえていたらしく、目が合った時に右手の親指と人差し指の爪先をくっつけて、マルを作り俺に見せてきた。
「…どういう意味?」
「なんじゃギンジ、聴こえとったのか!」
ギンジがコクコクと頷く。
「あれはいいぞ! という意味でのマルじゃよ。」
「え…聴こえてたの? すごいな。」
ギンジがフルフルと首を振り、人差し指でガレージの入り口の近くをさす。
またも、解らなかったのでモンジを見ると、心得たッと頷く。
「多分じゃが、近くまでいたがわし等が話しこんどるから出るに出れなくて、そこにいたのじゃろ。」
「ああ! それで聴こえてたんだ…でも、俺達が来た時ギンジさん奥にいましたよね?」
ギンジはハッと目を見開いてから、焦っているのか目が泳ぎだした。
「おそらく、慌てて位置に戻ってスタンバってたんじゃろ。」
「なにそれ?!かわいらしい!」
ギンジを見ると、モンジが言っている事が当たってたのか、両手で顔を隠していた。
かわいいな!!
「まあ、そうゆう事でヌル坊は任せなさい。」
ーコクコク
「よろしくお願いします!」
ヌルボットをお願いするのにあたって注意点を伝え、メンテ代より多目に支払いする。
食事が大変だからなー。
今は、どれだけ食べれるかわからないが不足はないと信じたい…
それから、ギンジに飛行バイクを返却してもらい、トリックボックスに一旦仕舞い、ヌルボットのお昼寝用クッションを出す。
クッションをソファーに置いてその上にヌルボットをうつ伏せでに寝かし顔を横に向ける。
「ヌルー、お前は今日留守番だ。モン爺が居るから頼れよ!」
「……すぐに帰ってくる? 置いてかない?」
「おう、大丈夫。荷物を届けたらすぐに帰るよ。お前は自分の体調をちゃんと治しな。」
「……グッドラック。」
体調不良でいつもより弱気になっているのか、寂しそうな顔をしていた。
「じゃあ、ヌルをお願いします。」
「おう、気をつけての! 行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい。」
「…い、行ってきます。」
後ろ髪ひかれつつも、三人に挨拶をし、ラボから出て街の外へ目指し街中を歩く。
久しぶりの一人仕事だ、気を引き締めて行こう!
リンドル村へ。