ep.1
どうして、僕はこんな姿になってしまったのだろう。わからない、わからない、わからない。あの日からずっと理由を探し続けていた。でも今、ようやくその答えを見つけた。
全てはこの時、この瞬間のために起こった出来事だったのだ。
走れ
走れ
走れ!
彼女が待っている。
次の瞬間、勢いよく真っ暗な草原に転がり落ちていってしまった。
石ころににつまづいてしまったのだ。
僕の周りでは虫達が大演奏会を開いているようだ。
とてつもなくうるさい。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
空で美しく輝く月が僕を照らしている。
「必ず、届けるから…!」
月に向かって叫んだ僕の言葉は
人の言葉にもならず、
必死にもがく猫の鳴き声として
暗闇の中へ消えていった。
その日、僕は死んだ。
僕の予定としてはあと50年くらいは
いきるつもりだったんだが、
ある日突然、街中で身知らぬ男性に胸を刺されてそのまま死んでしまうという運命にあった不幸な青年は、運命に逆らえなかったらしい。
刃物で胸を刺された瞬間、ものすごくびっくりした。
だが、それより大いに驚くべき出来事がおこってしまったのだ。
...何だ、これは?
全身には黒い毛が生えていて、
お尻の上には尻尾まで付いている。
手を広げれば、一般的には肉球と呼ばれるものが広がっている。
我ながらさわり心地はすばらしい。
ふんふんと言ったつもりだったが、
にゃあにゃあー
ん?
なんだこの鳴き声は。
これではまるで、僕が猫になってしまった夢を見ているようだ。
しかも、黒猫…。
よりによって、何故不吉だと有名なあの生き物なのか。
どういう事だ。
意味がわからない。
僕が一体何をしたというんだ。
わからない、わからない、わからない。
「わからない!」
と叫んだつもりだったが、僕の言葉はまたもや、にゃーという弱々しい言葉へと変わり、晴れ渡る青空へと吸い込まれていった。
夢だという希望を胸に
何度も自分の頭を地面に打ち付けたが、
ただ、ただ痛いだけだった。
殺されたことによるパニックにより、ついに僕はおかしくなってしまったらしい。
夢なら早く覚めてくれ。