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娘の顔


 約一週間ぶりにセントラル・シティにある我がコロニーに帰り着いた。ジュリアはそのままクロアリのコロニーに行こうと言ったのだが、流石に色々ありすぎて疲れたのだ。なにせ、いつの間にか王になり、そして蜂族を結集。最後にはエルフの集落を殲滅したのだ。疲れないはずがない。


「おかえりなさい、ゼフィロス。」


 部屋で出迎えてくれたのはメルフィ。もうすっかり尻尾が膨らんで大きくなっていた。


「ただいま、メルフィ。ヴァレリアは? 」


「今は子どもたちに蜜を。すぐ戻りますよ。」


「へっ? っていうか、産まれたの? 」


「ええ、卵からは孵りましたよ? 」


「ちょっと見てくる! 」


「駄目です! お風呂に入ってキレイにしてからでないと。」


「そっか、そうだよね。」


「そういうこった、ゼフィロス。さ、行こうぜ。」


 うん、と答え、ジュリアと一緒に風呂に向かった。


「あっ、ジュリア、ここではマフラーは? 」


「いらねえよ。ここにいるのはみーんなあんたの一族だ。それにアタシたち以外はサード以下だから発情することもねえさ。」


「そっか、良かった。」


「あっちじゃあんたは男風呂だったからな。キレイに洗えてねえんじゃねえかと心配だった。アタシが隅々までキレイにしてやるよ。」


「あはは、ちゃんと洗ったつもりだけどね。」


 ジュリアに体を流してもらっていると、風呂場にヴァレリアが現れる。


「ゼフィロス、すまないな、出迎えもしないで。」


「子供の世話じゃ仕方ないさ。ね、ジュリア。」


「ま、そうだな。妻は三人もいるんだから手が開いてるやつがゼフィロスの事はするさ。」


「それよりさ、子供の顔、早く見たくて。」


「顔? 赤子なんかみんな一緒さ。なあ、姉貴。」


「まあな、正直私も見分けがつかん。」


「ははは、そんなはず無いじゃん。」


「見てみりゃ判るって。それより姉貴、向こうじゃ色々あってな。」


 俺の体を流し終えたジュリアはヴァレリアと並んで自分の体を流しながら向こうであったことを語り始めた。


「なるほどな、ゼフィロスを通して蜂の王国を作り上げたと。お父様らしいやり方だ。」


「ともかくもだ、この辺の蜂はみんな眷属になっちまった。そしてゼフィロスは蜂の王ってわけだな。」


「ゼフィロスにはそのくらいの地位に座って貰わねばな、捨てさせたものに見合わない。」


「それでな、また、親父が張り切っちゃってよ。東側の昔っからあるエルフの集落、知ってんだろ? 」


「ああ、それがどうした? 」


「そこにみんなで攻め込んで、あそこは滅ぼしちまった。女王の揃い踏みでな。」


「ほう、思い切ったことを。」


「で、当然そこには機甲兵がいるわけだ。」


「そうだろうな。お前がやっつけたのだろう? 」


「いんや、そこは王様の出番だっていって、ゼフィロスが。かっこよかったぜ。」


「……ジュリア、お前がいながら何をやっている! 」


「アタシだって止めたんだ。けどな、親父が。」


「お父様が? 」


「女王たちの前でゼフィロスがいいとこ見せりゃ王国は安泰だって。」


「まあ、わからぬ話ではないが。」


「結果としちゃ万々歳ってわけさ。母様をはじめ、女王たちは自らゼフィロスの前にひざまずき、頭を下げた。」


「わかった。ジュリア、少しゼフィロスと話をしたい。」


「ま、どっちみち今日は姉貴の日だからな。んじゃゼフィロス、アタシは先にあがってんぜ。」



 ジュリアが先に風呂から上がると、ヴァレリアは湯船に体をつけて俺にしがみついた。


「すまない、また私の一族のために。」


「なにいってんだ。みんな俺の一族さ。」


「けれどエルフはあなたの。」


「エルフなんてね、みーんな死んじゃえばいいと思うよ? くさいし、むかつくし。声を聞くのも嫌だ。」


「あはは、そうだったな。あなたはエルフが。」


「大っ嫌いだ。話をしようとも思わない。それにね、あっちじゃいいことだってあったんだ。」


「そうなのか? 」


「ああ、女王全員の蜜を吸ってやった。みんな味も感触も違ってさ。」


「――ほう、それは興味深い話だ。」


 ヴァレリアの視線がちりっとうなじを焼いたような気がした。


「ふふ、だからね。」


「なんだ。」


「子を産んで女王となった、お前の蜜はどんな味かなってずっと気になってたんだ! 」


「ば、ばか、やめろ! 私は怒っているんだぞ! 」


「いいから蜜を吸わせろよ。怒るのはそのあと! 」


「やめろ! 浮気者! 私に触るな! や、やめろ! あーっ! 」


 尻尾を掴んじまえばこっちのもの。へへ、人間学習しないとね。そのヴァレリアの蜜はやっぱりとろんとして、少し粘度のあるゼリー状。存分に蜜を吸い、びくびくと痙攣するヴァレリアにいろいろしながら問いかける。


「まだ怒ってる? 」


「お、怒ってなんかにゃいれす。」


 そのヴァレリアにむちゅっとキスをすると幸せそうな顔で笑ってくれた。


「もう、あなたはずるい。あんな事してごまかして。」


「ごまかしてなんかないって。本当のことを言っただけだろ? 」


 ヴァレリアは俺の体をタオルで拭きながら尻をぎゅっとつねった。


「いだだだだ! もう、何すんだよ。」


「ごみかと思ったらほくろだった。気にするな。」


 嘘つけ!



「しかし、あそこのエルフたちは獅子族が。評議会でもそんなことを言っていたようだが? 」


 風呂の隣の休憩所でヴァレリアは冷たい飲み物を用意してくれながらそう言った。


「うん、俺もそれをグランさんに言ったんだけどね。獅子族の言うことなど気にしなくていいって。」


「まあ、そうなのだがな。だが評議会が黙っているとは思えない。」


「そのへんもさ、エルフを倒して文句を言うならそっちが筋違いだと思うよ。エルフとは共存できない。だから戦ってる。議長のカルロスは確かにそう言ったんだし。」


「そうだな。」


「それにさ、そのエルフの集落の跡地にはキイロスズメバチが巣分けしてコロニーを作るって。獅子族も取引相手が欲しけりゃ彼女たちとすればいいんだし。そんなことより子供の顔を見せてくれよ。どっちに似てる? 」


「あはは、見てみればわかるさ。」


 冷たい果実水を飲み干して、ヴァレリアと共に、産室に向かったそこにはジュウちゃんたちがいて、子供の世話をしてくれていた。


『あ、ゼフィロス。おかえりなさい。ほら、見なさいよ、あんたの子よ。』


 ハニカム構造の中に寝ていたのはぶよんとした白いもの。時折うねうねと動いている。それが三つだ。


「なにこれ。」


「決まっている、あなたと私の子だ。」


『そうよ、なあに? その顔。』


「あ、いや、子供っていうか、幼虫? 」


「あはは、そうか、ゼフィロスは私たちの赤子をみるのは初めてだったな。私たちはな、卵からこうした姿で生まれる。そしてさなぎになり、羽化をするんだ。その時には私たちのような姿になっている。今はどれがどれかわからんが、羽化すればどっちに似てるかもよくわかるさ。」


「ははは、そうなんだ。」


『インセクトの子の出す蜜はおいしいのよ。ほんと役得よね。あんたもなめてみなさいよ。自分の子なら抵抗ないでしょ? 』


 そういわれてそのうねうね動く幼虫のそばに行く。これがわが子って言われてもな。


『ほら、ここよ。ここからじわっと出てくるでしょ? 』


 あまり気が進まなかったがわが子と思えば、そう思って、幼虫の出した蜜をなめてみる。


「すっげえうまい。ナニコレ。」


『でしょ? 』


 俺は三人の子、いや、幼虫の蜜をそれぞれなめていく。個人差、というものは感じられなかった。


『インセクトはね、この蜜をなめないのよ。もったいない話よね。』


「私たちは子のものに限らずあまり蜜を吸ったりしない。羽化したての子供でもなければな。それじゃジュウ、ここは任せてもいいか? 」


『ええ、任せといて。』


 ジュウちゃんたち眷属はすっかり上機嫌だ。


「だとするとさ、ヴァレリアはあそこで何を? 」


 下に降り、ヴァレリアの部屋に入った俺はベットに寝ころび、そばにあったぬいぐるみをいじりながら聞いてみた。


「あの子たちには日に何度か、私の蜜を与えている。最初の子、ファーストにしか与えない特別な蜜だ。」


「へえ、さっき俺が飲んだのは? 」


「あれもそう。最初の子を産んだ時にしか出ない蜜だ。」


「ならセカンドからは? 」


「ワーカーたちが蜜を。ジュリアたちが生まれた時には私たちが蜜を与えたがな。」


 そっか、と言いながらヴァレリアの手を引いた。ヴァレリアは含み笑いを漏らしながら耳元でささやく。


「この一週間、嫉妬で狂いそうだった。女になるというのも辛いものだな。」


 その心の歪みを埋めるようにヴァレリアは強く俺を抱きしめた。



 翌朝、目を覚ました時にヴァレリアはいなかった。子供の世話にでもいったのだろう。俺はあくびと伸びをして部屋を出て居間に行く。


「おはようゼフィロス。今日はわたくしが。」


「おはようメルフィ。ジュリアは? 」


「ヴァレリアと一緒に子供たちのところに。」


「そっか。」


 メルフィに用意してもらった朝食を食べ、食後にコーヒーを飲む。


「ジュリアからお話は聞きました。蜂の王となられたと。」


「なんかね、そんな感じになってた。」


「それでは次はアリの王を? 」


「んーどうかな。その役目が評議会、って気もするし。」


「そうですね。でも。」


「でも? 」


「わたくしはアリの王となったゼフィロスの姿が見たい。」


「ははは、向こう次第さ。」


 さて、と、と。コーヒーを飲み終えた俺は隣のメルフィをソファに押し倒し、その大きくなった尻尾から蜜を吸った


「あはっ! だめ、だめですぅぅ! 」


 酸味のあるメルフィの蜜は後味がさっぱりしていて実にいい。



 数日後、メルフィも無事卵を産み、その卵も産室に並べられた。


「ねえ、ジュウちゃん。アリの卵も一緒でいいの? 」


『大して変わんないわよ。アリも蜂も。』


「そうだな、子供ってのはみんな一緒に育てたほうがいい。」


 そういうジュリアの尻尾はいつの間にか膨れていた。


「へへ、アタシも卵を、子を産むことに決めたんだ。二人を見てると羨ましくてな。もしかしたらできねえんじゃねえかと思ってたが、そんなことはなかった。」


「そっか、よかった。」


「ま、こっちのことは任せて、あんたはアリ族たちのとこに行ってきな。」


「えっと、一人で? 」


「今メルフィがアリの隊商の予定を聞きに行ってる。あいつらと一緒なら大丈夫だろ。アイもいるしな。」


「そうだな。」と幼虫に蜜を飲ませて終わったヴァレリアが口をはさんだ。


「あなたと離れるのは辛いが、アリのところであれば少なくとも妬かずに済む。」


「だな。蜜でもなんでも好きに吸ってくるといいさ、あはは。」



 そんな話になり、俺は一人で行くことが決定した。王様っていったい。


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