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「やだやだやだ! 行っちゃやだぁ! 」


 翌朝、アエラは自ら夫たちを連れて俺の部屋に乗り込んできて、手足をバタバタさせながら抗議する。


「姉さん、わがまま言ってんじゃねえよ、ガキか! 」


「だって、ゼフィロス様はここで、あたしたちとずうっと一緒に暮らせばいいじゃない! ジュリア、あんただってここで。そうすればヴァレリアもアリの女もいないのよ? あたしとジュリア。二人で十分、そう思わない? 」


「自分のコロニーを捨てるわけねえだろ? それにな、この後もキイロスズメバチのとこや、気に入らねえけどアシナガバチのとこだって行かなきゃならねえんだ。」


「あは、良い事考えちゃった! そんなのみーんな、殺しちゃえばいいじゃない。そうすれば蜂族はオオスズメバチだけ。お母様とヴァレリア、それにあたしだけ。ゼフィロス様はその三つのコロニーを回ればいいの。それならどう? 」


「あのな、姉さん。エルフと戦うには数がいる。アタシたちだけじゃ足りねーんだ。それに戦えばやられちまう奴だって。」


「ふーん、つまり死に役がいるって事? 」


「簡単に言やぁそうなるな。」


「アエラ、勇者グランのお考えです。抜かりがあろうはずも。」


 いや、勇者グランは抜けだらけだからね。


「むう、おもしろくなーい! 」


 ぷーっと膨れたアエラはその顔のままでソファに座り込んだ。ちなみに俺は歯磨きをしている最中だったので、それを終え、ジュリアに髪を整えてもらっていた。


「ね、ゼフィロス様、あたしがやってあげよっか? 」


「いいから姉さんは座ってろ! こういうのは妻の役目だろ! 」


「ずーるーいー! ジュリアばっかり! ばーか、ばーか! 」


 そう言ってアエラは尻尾を引きずりながら部屋を出て行ってしまった。残った二人の夫は実に晴れやかな顔をしていた。


「いやぁ、マイロード! 何十年かぶりにする一人寝、実にいいものでした! 」


「誠に、我らはすでに我が君の恩恵を。愛するアエラもあのように生き生きと。」


「ははは、そうだな。女王ってのはけだるそうな顔で寝っ転がってんのが常だからな。」


 ジュリアがそう言うと二人の夫もはははっと笑いあう。


「じゃーん☆ アエラちゃんがみんなにコーヒーを淹れてきてあげたよ! 娘ちゃんたちにやらせてゼフィロス様に惚れられても困っちゃうからね! 」


 アエラはテーブルにコーヒーを並べていく。その所作は思ったよりも丁寧だった。


「懐かしいですね、アエラ。独立したころは良くこうやって私たちの世話も。」


「ですね、この味。実に懐かしい。」


「えへへ。ずうっと卵産むことばかりに集中してたからね。君たちのお世話も昔みたいにしちゃうんだぞ。」


 二人の夫は感涙にむせびながらそのコーヒーを飲んだ。


「あたしね、今、すっごく充実してるんだ! ずっとたくさん種を貰って、卵をいっぱい産んで、このコロニーをおっきくする事しか考えてなかったのに。今はね、君たちの事とか、娘の事とか、してあげたい事がいっぱい! てへへ、これもゼフィロス様のおかげかも。」


「あ、おいしい。」


 そう思わず声をあげてしまうほど、アエラの淹れてくれたコーヒーは味がよかった。


「でしょでしょ? あたしね、コーヒーの淹れ方には自信があるんだ。ね? ジュリア。」


「ま、姉さんはプリンセスとして育っただけあって、なんでも上手だからな。ルカ姉にも劣らないくらいに。」


「へえ、あのルカさんにもねぇ。」


「母様だって何でもできるさ。出来ねえのは姉貴ぐらいのもんだろ。」


「ヴァレリアはね。昔っから乱暴で、あたしやルカが作ったお人形もすぐ取り上げてさ、もういっーっぱい喧嘩したんだよ? 」


「そうそう、よくケンカしてそのたんびに姉さんが泣いてたっけ。」


「あ、あの頃はね! けど女王になった今なら負けないんだから! ヴァレリアなんかぎゃふんって言わせちゃうんだからね! 」


「その姉貴だって女王だ。喧嘩すんのはお勧めできねえな。」


「う、でも、負けないんだから! 」


「姉貴に育てられたアタシは幼いころからそんなところばっか見て育ったって訳だ。こうなっちまうのも仕方ねえだろ? ゼフィロス。」


「ううん、そんなことないよ、ジュリアは頭も良いし、優しいし、強いし。ヴァレリアなんかとは大違いなんだから! 」


「あはは、でもそのヴァレリアも今じゃ、ずいぶん女っぽくなってるよね。」


「うそっ! あのヴァレリアが? 」


「それがよ、姉さん。姉貴は女になったとたん、すっかり少女趣味になっちまって。部屋なんかひどいもんだぜ? 」


「うん、ぬいぐるみとか置いてるもんね。」


「あはは! 何それ。やっだ、笑わせないでよ! 」


「ま、とにかくこれからもうまくやっていこうや。」


「やっぱり行っちゃうの? 」


「季節に一度は顔を出すって母様とも約束してる。それにゼフィロスはエルフとだって戦ってんだ。あんまりわがまま言うんじゃねえよ。」


「しょうがないなあ。ね、ゼフィロス様、今度来るときにはもっと、ね? 」


 すっかり活動的になったアエラとその夫たちに見送られ、俺は次の目的地、キイロスズメバチのコロニーに向かった。



「それにしてもアエラがあそこまで変わっちゃうなんてね。最初はちょっと意地悪っぽい感じだったのに。」


「女ってのは満たされちまえばああなるんだよ。な? アイ。」


『そうでありますな。ですが中にはメルフィみたいにバカになるのも。』


「あはは、ありゃ特別だろ。」


『クロアリの恥でありますよ。アレは。』


 途中、小川の流れるところで休憩し、アエラが持たせてくれた弁当を食べた。


「さって、アタシは一足先にキイロスズメバチのところに行ってくる。あいつらとは念が通じねえからな、突然訪ねちゃびっくりするかもしれねえし。」


 そう言ってジュリアは飛んで行ってしまった。念、つまり触角を介したテレパシーのようなものは同族の間でしか通じないものらしい。それはそうと困ったことがある。アエラは弁当は持たせてくれたが飲み物は持たせてくれてない。と、いう事はだ。


「アイちゃん。」


『な、何でありますか! 』


「もう、判ってるくせに。」


 そう言ってアイちゃんの尻を抱え込む。


『嫌ぁ! 嫌であります! こんな、こんな! 』


 そう言いながらもアイちゃんは蜜を出してくれた。



『もう、もう、ひどいでありますよ! ゼフィロス様。』


「そんな事言って、好きなくせに。」


 俺はアイちゃんの体に寄りかかりながら食後の一服を楽しんでいた。


『す、好きなはずないのであります! あんな恥ずかしい事! 』


 そのあとねちねちとアイちゃんとセクハラトークを楽しんでいると、空からジュリアと10人ほどのキイロスズメバチの小隊が飛んでくるのが見えた。その一人は着陸するや否や鎧を解いて俺に抱き着く。


「ゼフィロス殿! 」


「あ、ジュン! どうしたのさ、セントラル・シティにいたんじゃないの? 」


「ゼフィロス殿が旅立たれたと聞いて、いてもたってもいられず! 」


 ジュンははちきれんばかりの大きな胸を俺に擦り付けながら頬ずりした。


「こーら、アタシの前でべたべたすんじゃねえよ! 」


「ジュリア、すみません。自分を抑えきれなくて。」


「アタシならいいけど姉貴やメルフィの前じゃ十分に注意しろよ? 」


「ええ、メルフィにはひどい目にあわされたし、ヴァレリアにも殴られました。注意します。それよりも、これよりは私たちがゼフィロス殿の警護を。母も首を長くして待っております。御同道を。」


「あ、うん。」


「散開! どのような些細な事も見逃さないで! いいわね! 」


「「はい! 姉さん! 」」


 ジュンがそう指示し、キイロスズメバチのソルジャーたちが、わっと広がり俺たちを囲んだ。


『大層な出迎えでありますな。』


 アイちゃんはそう言ったが、本番はコロニーの前に着いてからだった。その入り口の前には左右、それぞれ数十人のソルジャーたちが立ち並び、下には赤く、長い絨毯が。


「捧げ―銃! 」


 号令がかかるとソルジャーたちは手に携えた槍を体の正面に持ち替える。銃ではなく槍なのはご愛敬だろう。俺はアイちゃんから降り、左右にジュリアとジュンを従えて、空を飛ぶワーカーが散らす花びらの中を進んでいった。


「うわぁ、すごいね。」


「我々はそれだけゼフィロス殿をお待ち申し上げていた、その表れです。」


「こいつらはさ、こういう儀礼事が大好きなんだよ。はははっ。」


「それは否定できませんね。」


『すごい、すごいであります! 』


 後ろに続くアイちゃんが感嘆の声を上げた。アイちゃんもこういうの好きそうだもんね。


 いつものように襟巻を巻かれた俺はどことなく派手目のコロニーの中を進む。オオスズメバチのそれに比べて装飾が多いのだ。体の色も派手なら、住むところも、と言う訳なのだろうか。


 女王の部屋に入るとそこには片膝をついた女王、その後ろにはその夫たちが同じようにかしづいていた。


「ようこそ我がコロニーに。光栄でございますわ。」


 そう言って頭を上げた女王はまさに女王。宝石の散りばめられたドレスを着て、髪は複雑に編まれた金髪だった。その顔は少しきつめだが高貴さにあふれている。


「これなら話は早そうだな。」


 そう言ってジュリアがマフラーを取り去った。そして俺はその女王の前で変質者のごとく、コートの前を開いた。


「なっ? 」


 定番の台詞を吐く俺を女王は目を丸くして見ていた。どうせ脱ぐことになるのだからとジュリアに言われ、コートの中は下着一枚。

 うん、完全に変質者だよね。その女王は息を鼻からすぅぅっと吸い込むと「はぁぁん! 」と声を漏らしてパタリと倒れた。


「はは、効き目がありすぎたようだな、こいつは。」


 鼻血を噴いて倒れた女王をもじもじしながらジュンが介抱する。その間にその夫たちを相手にジュリアが交渉を進めていく。ここにいるのは四人の夫。やはりみんなイケメンだ。


「なるほど、つまりは蜂族としての団結、それに、我らには季節ごとに十日の休暇。」


「素晴らしい! 」


「いいじゃん、いいじゃん、すげーじゃん! 」


「んっ、ナイスですねー。」


 満場一致で可決した。


「あ、お母様! 」


 目を覚ました女王は鼻血を拭くと恥ずかしそうな顔で俺の前に立った。


「お恥ずかしい所をお見せしました。私はこのコロニーの長、ミサと申します。」


「あ、どうも。」


「ジュリアさん、私は夫たちの判断に従いますのでどのようにでも。あとはお任せしてもよろしいかしら、私は所用が。」


 早口でそう言い立てる。ジュリアが「ああ、」と頷くと俺を抱えて大急ぎで奥の寝室に引き込んだ。


 無論そのあとは討論だ。「んほぉぉ! 素敵ー! 素敵ですの! 」 そう言ってミサは俺の論に賛同してくれた。



 討論での勝者となった俺は、その勝者の権利を行使する。ミサの大きな尻尾を抱えてそこから蜜を味わうのだ。


「はぁぁぁ! 私、吸われておりますの! 」


 シーツに爪を立てながらミサはそんな感想を漏らした。女王の蜜はゼリー状。ミサのそれはドロンドロンだった。



「なるほど、我らは伯爵に、そしてゼフィロス王に忠誠を、と言う訳ですね。」


「ま、そういうこった。あんたの夫たちは賛成だそうだぜ? 」


「ええ、私にも異存はございません。それよりも季節ごとに一度、これは間違いないのですね? 」


「エルフの動きによっちゃズレが出るかもな。それが嫌ならエルフ討伐に協力しな。」


「判りました、ジュンの預ける手勢を増員いたしましょう。爵位に恥じぬ働きを。いいですね? ジュン。」


「お、お母様! 私、私! 」


 そのジュンは我慢できぬ、とでもいうように俺に抱き着くと「あぁぁ!」と叫びをあげてプリンセス化を始めてしまう。


「まあ、ジュンったら。」


 元から長い髪はさらに伸び、腰のあたりまで長くなる。そしてどちらかと言えば乏しかった表情はすっかり女らしくなった。その様子を興味深げに見ていた夫たちはおぉぉっと感嘆の声を上げる。


 そしてジュリアを見て、そのジュリアが皮肉っぽい笑いを浮かべ、頷くと俺を攫って奥の部屋に。


「はしたない、と思われても構いません! 妻にせよ、とも申しません! ですから私を一夜限りでも! 」


 その日、俺はジュンと熱い睦言を交わした。でっかいおっぱい。その性能は驚異的だ。


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