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スズメバチの世界


 我が家に帰ったその日、ジュウちゃんは約束だからと俺を地下の巣に連れ込んだ。通路は丁度立って歩けるぐらいの高さと幅があるが角度は急。俺はジュウちゃんにしがみついて奥に入っていく。


『『ゼフィロス様、ようこそ我らが巣へ。』』


 下に降りた、いや、落ちたところには広間があってそこにみっしりと眷属のみんなが詰まっていた。


「はは、お邪魔します。」


『何言ってんのよ、あたしたちはあんたの眷属。ここはあんたのものでもあるのよ? 』


 ジュウちゃんは上に俺を乗せたままみんなをかき分けて奥へと進む。地下だから真っ暗かと思いきや天井にヒカリゴケが張り付けてあってそこはかとなく明るかった。


『ここが卵と幼虫の部屋よ。』


 そう言われたところは壁一面がハニカム構造になっていて、その六角形の穴の中に、卵がひとつづつ入れられていた。その卵から腑かした幼虫に眷属の蜂が餌を運んでいる。


『あの幼虫たちは餌を食べると蜜を出すの。それがあたしたちの食べるもの。あたしたちはね、大人になると腰が細くなって固形物が食べられなくなるの。だから幼虫の出す蜜か、木の樹液なんかが食事ね。』


「なるほどねえ。」


『ここが卵でいっぱいになったら奥に同じ部屋を作るのよ。で、みんな大人になったら空いたところに卵を産むの。』


「ジュウちゃんたちが狩りをするのは自分たちが食べるんじゃなくて幼虫に食べさせる為か。」


『そう言う事、だからあたしたちは幼虫がいないと長くは生きられない。樹液はおいしいけど栄養が足りないのよ。だからここは巣の中のメインブロック。子育ての場でもあり、食堂でもあるって訳よ。』


「なるほどねえ。」


『そして、その卵を産む女王がいなくなればその巣は終わりってわけ。』


「ジュウちゃんたちが女王になるんじゃないの? 」


『そうなると雄しか生まれないのよ。雌が増えなきゃ働き手が足りなくなるでしょ? 』


 ジュウちゃんは俺を乗せたままさらに奥へと進む。巣の中は通路がなく、俺が歩くのには適さないのだ。その奥の部屋には女王サーシャがいて、ぽこん、ぽこんと卵を産んでいた。


『あ、ゼフィロス様! やだ、姉さん、来るなら来るって言ってよ! こんな姿見られたら恥ずかしいじゃない! 』


『うるさいわね。いい? ゼフィロス。女王はここで卵を産んで過ごすのよ。』


「それは判るけど雄蜂は? 」


『雄蜂は交尾するとすぐ死んじゃうのよ。ミツバチの雄なんか、あそこがもげて死ぬらしいわよ? 』


「えっ、マジで? 」


『もう、姉さん? そんな風にいったら誤解されるじゃないですか。』


『本当の事じゃない。』


『ゼフィロス様、私たちの雄はインセクトの殿方とは違って、子を残す以外の役目がないのです。ですからその命は交尾するためだけにあり、それを果たした後は満足して亡くなってしまいます。私たちが殺すわけではありませんよ? 』


「でも、あそこがもげるって。」


『ミツバチは体が柔弱にできていますからね。ちょっと噛んだだけでも首が取れますし。』


『そうね。でもそれは他の蜂も変わらないわよ。キイロスズメバチもそのインセクトだって、あたしたちにかかればイチコロよ? 』


『ですね。私たちはどんな蜂にも負けませんから。』


『あたしたちが勝てないのは同じオオスズメバチのヴァレリア達くらいのものよ。クロアリだってあたしは負けないし。』


『それはファーストの姉さんたちだけよ。私たちではなかなか手こずりますもの。』


『ま、いいわ、面白いものが見れたでしょ? 奥に行くわよ。』


『もう、姉さんったら! 』


 ジュウちゃんはそのままさらに奥に行く。そこはすっぽりと体が収まるような横穴が空いていた。ジュウちゃんは俺を抱くと、そのままバックでその穴に入っていく。


『あーやっぱり落ち着くわ。ここは。』


「ここがジュウちゃんの部屋? 」


『そうよ、あたしたちは服も着ないし物ももたない。だからこれだけのスペースがあれば十分なの。で、どうだった? あたしたちの巣? 』


「うん、予想以上にしっかりした作り出し、それにすごく清潔だよね。」


『きれいにしておかないと変な虫が湧くもの。アリもそうだけどあたしたちも綺麗好きよ? 』


「そう言えばジュウちゃんの体はいつもピカピカだもんね。」


『当然よ、いつも互いに舐めあってきれいにしてるもの。って、あんた、そう言えばきったない服のままじゃない! お風呂もまだでしょ?』


「そう言うことする前にジュウちゃんが連れてきたんだろ! 」


『いいわ、綺麗にしてあげる。』


 のそのそと穴から這い出たジュウちゃんは比較的広い女王サーシャの部屋に行くと俺を立たせた。


『ちょっと使わせてもらうわよ。』


『ええ、私も卵を産み終わりましたから。』


 サーシャが産んだ卵は綺麗にどこかに運ばれていた。ジュウちゃんはあごと前足を器用に使って俺の服を脱がしていく。


「もう、自分で出来るから。」


『いいから大人しくしてなさい、いつもやってもらってるくせに。あたしは全部知ってるんだから。』


「えっ! パンツも? 」


『当たり前でしょ! 』


 俺はジュウちゃんに素っ裸にされてしまう。やだ、なんてお仕置き? 


『あたしは上に行って着替えを取ってくるから。』


『ならば私がゼフィロス様のお世話を。』


『そうね、頼めるかしら。』


 ジュウちゃんは俺の脱いだものをくるくると丸めるとそれを抱えて出て行ってしまう。残るは裸の俺とサーシャだけ。なんかすっごく恥ずかしいんだけど。


 サーシャはのそのそと俺に近づくとそのまま上にのしかかる。そして俺の顔を舐め始めた。


『ああっ、なんて素敵な匂い。これが私のご主人様の匂いなのね! 』


 そんな事を言いながらサーシャは俺の耳のひだや小鼻の周り、全てを余すところなく舐めていく。それがまたすっごく気持ちいのだ。特に耳の裏、それにうなじ、腋の下などは興奮したかのようにすっと舐めていた。


『素敵、素敵、頭がとろけそう! 』


 サーシャは我慢できなくなったかのように俺を六本の肢で抱え込み、その大きなおなかを擦り付ける。そしてごろごろと横に転がった。


『ああ、ゼフィロスさまぁ! 私のご主人様! 』


 そして俺に口づけて、俺の口の中に蜜を流し込んだ。それは味はいいのだがいかんせん濃かった。けほ、けほ、っとあまりの甘さにむせているとジュウちゃんが帰ってきて口移しで水を飲ませてくれる。


『もう、あたしの蜜を薄めてあげるつもりだったのに。』


『だって、我慢できなかったんですもの。』


 そのジュウちゃんはバスケットを抱えていてその中に食べ物や着替えを詰めてきたという。


『さ、早いとこ綺麗にしちゃいましょ。』


 サーシャは前から、ジュウちゃんは後ろから、二人ともうっとりとした声を上げながら俺を舐めていく。いかんいかん、このままでは眷属のジュウちゃんたちに欲情してしまいそうだ。それは人として非常に良くない気がする。


『うふふ、交尾、しちゃう? 』


 だぁぁぁ! 今そんな事言っちゃダメ! 自分との戦いに負けちゃうから!


『まあ、これほどに大きく。ゼフィロスさまぁ。』


 そっちもダメ! 俺は、俺は!



 ジュウちゃんが持ってきてくれた食事を済ませ、裸のまんまで巣穴ではなく、女王の部屋でサーシャとジュウちゃんに挟まれて眠った。


『さあ、これを着てくださいな。』


 翌朝、俺はサーシャに服を着せてもらうと、ジュウちゃんが舐めて髪を整えてくれる。


『うん、これでいいわ。』


『もう、いってしまわれるのですか? 』


『上のクズどもがうるさいのよ。ちょくちょく来てもらえばいいじゃない。ね? ゼフィロス? 』


「そうだね、ここもすごく快適だし。水を持ってくればジュウちゃんたちの蜜もおいしく飲める。今度はそうしよっか。」


『絶対ですよ? 』


『ちゃんとあたしが連れてくるわよ。ほら、あんたは卵産む時間よ? 』


 サーシャは名残惜しそうに俺に頬ずりした。



『ね、あたしたちと暮らしても何も困る事はないでしょ? 』


「けど食べ物がなぁ。」


『幼虫の蜜を舐めればいいのよ。味も薄いし、栄養だってあるんだから。慣れよ慣れ。』


「そうかもね。」


 部屋に帰るとぶすっとした顔でヴァレリアが待っていた。ジュリアは外で巡回、メルフィは労働に駆り出されていた。


「ジュウ、今回はお前の手柄に免じて許してやったが。」


『何よ、文句あるわけ? あたしたちはゼフィロスの眷属なのよ? 主との時間だって欲しいに決まってるじゃない。』


「だがゼフィロスとは生活の仕方が違うだろうが。主に不便をかけるのはどうかと思うぞ? 」


『全然問題なかったわよ。ね? だからあたしたちの日を決めなきゃね。あんたとメルフィ、そしてジュリア。その次の日はあたしたち。』


「そんな事は認められん! せめて十日に一度にしろ! 私たちには子を授かると言う崇高な使命があるのだ! 」


『いやよ。あんたたちだって、種を溜めて置けるんでしょ? それを使って卵を産めばいいじゃない。あ、もしかして、出来損ないのプリンセスだから上手に卵産めないの? 』


「ふ、ふざけるな! そんな事はない! 」


『だったらいいじゃない。欲張りすぎなのよ、あんたは! 』


「なんだと! 言わせておけば! 表に出ろ! 」


『上等よ、出来損ない! 』


 あーあ、またもや大喧嘩。懲りないよね、二人とも。俺はやれやれと肩をすくめジュリアの部屋で葉巻を吸った。窓の外では戦う二人と下の畑で文句を言われながら働かされているメルフィの姿が見えた。



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