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竜を辿った幼き帝と、小猫が探した仲間の噺  作者: 朝霞ちさめ
第一章 葬送の灯、凶の死月
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葬送の灯、凶の死月 (三)

 ここで整理しておくと、メイル・ジ・ウォムスという少年は、茶色の目に、黒い髪をした少年である。

 そしてその少年とほとんど同じような姿形の帝室従者がおり、その少年の名はクラク。

 二人目の従者として渡された少年は金色の目に茶色の髪で、少し身長が高く、落ちついたたたずまいをしていて、名前はティヴ。

 最後に、三人目の従者としてやってきたのは黒色の目に金色の髪で、身長は最も低く、どこか幼さが強く、名前はムーニと付けられた。

 およそ百年ぶりに、メイル・ジ・ウォムスは三人の従者を同時に手に入れたのである。

 通常、それは外交政治的な意味合いが強いのだが、メイルのそれらの場合は国内の政治的な意味合いが強かった。

 あの日、メイルがティヴと出会い、三人目――後にムーニとなる少年――を要求したその日に発覚した事実はそれほどまでに根深い問題だったのである。

 即ち、『特務機関ナーメンロースによる王子殺害未遂』。

 当の本人は『不運な事故だ』と言ったが、事故だったとしても大逆であり、ナーメンロースが元々確立していた独立性と秘匿性がここで問題視された。

 実際に起きた事件としては、メイルがある時調べ事をしていたら、本棚が倒れてきて大変な目に遭ったと言うもので、メイルは精霊魔法を行使することで無傷だったので、ナーメンロースには本当に責任らしい責任はないのだけれども、それでもアーチは許そうとしなかった。

 そこで、メイルからの要求である三人目を提供し、恭順の意としたわけだ。

 これによってメイルは改めてナーメンロースに責任が無い事を皇帝アーチに伝え、無事に仲直り……したのだが、それで収まるほどアーチは優しくなかった。

 というか、アーチのみならず、兄姉皆が許さなかったのである。

 結果、ナーメンロースには監査役として皇帝の血族、つまり帝室の中から一人が出向する事になり、しかしその一人には大量の情報が入るわけで、それが継承権の優劣に関わってしまう点を考え、出向者からは実質、継承権をはく奪する……という形で決着。

 但し、ナーメンロースという組織の存在それ自体は秘密であり秘匿されているため、表向きは今まで通りで、裏向きの実質的な部分にとどまるとされた。

 さて、では誰が出向者なるべきか?

 安全を取るならば長男ガントレー、もしくは次男ベルティンである。前者は単純に優秀な王子であり、後者は軍人であるが故に実直だ。

 が、ガントレーが継承権を事実上放棄したとして、それを周囲に悟らせないことが可能だろうか? 恐らくは難しい、そう遠からずに露見する。そしてその流れでナーメンロースの存在までもがバレかねない。よって却下された。

 次にベルティンだが、ベルティンは軍人として一定の地位についている。そんな人物が出向できるわけがない。もし出港するならば軍人を退役しなければならないが、その流れでナーメンロースが以下略。

 となると残ったのはリングスとメイルの二人で、この二人にもやはり問題はあった。

 まずメイルについては言うまでもないが、幼すぎる。八歳そこそこで監査役を果たせるか? そのあたりがまず疑問視された。

 次にリングスだが、これは控えめに言っても無理である。リングスは一応皇帝の血を引いて生まれたが、なんというか、享楽的な側面が強いのだ。だから少なくとも彼女が皇帝になる事態だけは避けなければならないし、ならば今回の監査役に押し込むことで継承権を消滅させるのも手ではないかと思われたが、監査役という立場に置いても、メイルのほうが百倍はマシだという理由で疑問視と言うか絶望視された。

 その後も色々な確認や方針を決定するための行為を経て、結局彼らが下した結論は、次の通り。

 ガントレー、ベルティンが公の場において帝位継承権を高く持つ事は周知の事実であり、これを放棄したかのようなそぶりを見せるわけにはいかない。よってこの二名を除外する。

 リングスには能力が不足していると判断せざるを得ない。よってリングスを除外する。

 現皇帝アーチは、皇帝としての執務をしなければならない。よってアーチを除外する。

 これにより、メイル・ジ・ウォムスを監査役に任ずる……。

 尚、ここでは触れられていないが、彼らの決定を後押ししたのがクラクら、メイルの従者たちの存在だった。

 第一にクラクはよくメイルと間違われるほどに似ている。つまり公務の中でも発言が不要である謁見の同席などにおいて『替え玉』が可能である。

 勿論その『替え玉』を使用する場合、メイルとクラクは別行動をすることになるだろうが、ここで第二の理由。

 クラクがそういった理由で動きを制限されていても、ティヴとムーニがまだ居るのだ。

 クラクの横にはティヴを『メイルの従者』としておき、本物のメイルの横にはムーニが居れば、まあ、両面ともに誤魔化しがきく。

 もちろん、ムーニとティヴは臨機応変に入れ替わることになるだろう。

 以上の決定が為された日の夜、随分と賑やかになった自室で、メイル・ジ・ウォムスは鼻歌交じりにベッドの上で寝返りを打っていた。

 誰が見ても超ご機嫌。

 ここまで機嫌のいいメイルは珍しい。

「なあメイル。いろいろと突っ込みどころがあるんだけどさ……。今回の一件、どこまでがお前の想像通りに進んだんだ?」

「んー? 想像通りになったことは殆ど無いよ、クラク。でもね」

 笑みを浮かべて、メイルは三人の『友達』に視線を送る。

「予定通り、三人を揃えることは出来たし、ナーメンロースにも入れるようになった。これからはもっとやりやすいだろうね」

「…………。確かに俺、最初の頃に『二番』と『三番』の話はしたし、できればこいつらも一緒に暮らしたいなあとか言ったけどさ。特に苦もせず実現する奴が何処に居るよ」

「ここに居るけど?」

 ああ言えばこう言うという例である。

「ま、今後はクラクも大変になるよ。僕の替え玉になるってことは、仕種をトレースしないといけないってことなんだから」

「そうですよ。私がみっちりとお手伝いしますから、頑張ってくださいね、クラク」

「うへえ……」

「あははは!」

 ここで無邪気に笑い声を挙げたのが、『三人目』。

 ムーニである。

「でもでも、大変だって言うならメイルだってそうじゃないかな。おいら、可能な限り手伝うけれど、おいらはクラクやティヴと比べて、事務的な事は駄目駄目だからね」

「確かに、そっち方面はティヴの専売特許みたいなところがあるしな……」

 ムーニの言葉にクラクが同調し、ティヴはどこか誇らしげに頷く。

 そう。この三人は同じ『モノ』として作られたとはいえ、微妙に異なる個性がある。

 クラクは特にバランスのとれた個性であって、大概の事を無難にこなす。

 ティヴは特に事務的なことを得意とし、戦闘はあまり得意ではない。

 ムーニは特に戦闘的なことを得意とし、事務は苦手。

 そんな感じだ。

「まあもっとも、事務的な処理という意味ならば、メイル様が私とほぼ同等です。数字上の戦力で言えば大差ありません」

「そういうこと。だからムーニ。僕の事をしっかり守ってね」

「もっちろん!」

 もちろん今のところ、特に戦いに出る予定はないのだけれど。

「で、一応確認しておきたいんだけど。メイルはこの後のこと、どうするつもりなんだ?」

「そうだねえ。当面の目標は達成したって感じもするし……、ナーメンロースの成り立ちとかを調べてみようかな」

「成り立ち……」

「創立者がナヴェンローゼ=ガイストだってことは知ってるんだけどね。そっから先はまるで知らないんだ。調べても出てこなかった」

 これまでは、少なくとも。

 だがこれからは、監査役としてナーメンロースに立ち入るようになる。

 おのずと得られる情報の量と質は跳ね上がるだろう。

 得られるであろう新たな情報を、メイルは心の底から楽しみにしているのだった。

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