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竜を辿った幼き帝と、小猫が探した仲間の噺  作者: 朝霞ちさめ
第一章 葬送の灯、凶の死月
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葬送の灯、凶の死月 (二)

「帝室従者は、一人につき最大で三個まで与えられることは知っているな」

「はい、ガントレー兄様」

「そこで、と言うわけでもないのだがな。ナーメンロースから通達が来た。お前に新たな帝室従者を与える、だそうだ」

「…………」

 さて、ここは宮廷二階の会議室。

 そこには四人ほどの影。但し、そこにいるヒトは二人だけ……。

 方や青年、ガントレー・ジ・ウォムス。現皇帝の長子にして男子、継承権第一位を持つ。

 方や男の子、メイル・ジ・ウォムス。現皇帝の末子にして男子、継承権は第四位。

 残る二つの影は、それぞれの帝室従者である。

「この前、お前がナーメンロースとなにかをやり合っただろう。その和解の証としたいそうだ」

「和解の証ですか……。まあ、もらえるものはもらっておきますけどね。僕も友達は多い方が良い」

「呆れたな。お前、まさか次もそっちのと同じように扱うつもりか」

「んー。まあ、実際に会ってみてからですけどね」

 苦笑しながらメイルは答える。

 それを見てガントレーは何かの裏を感じたが、それがどのような裏であるのかまでは読みとれていない。

 ガントレーにとって、弟妹の中で最も不気味な存在、それがメイルだった。

 他の弟妹は、それらが何を考えているのか、それとなくわかるが……メイルは。

 メイルが何を考えて行動しているのか、その考えを読むことが出来ない。

 だから、不気味だとガントレーは思う。

 自分の半分さえもまだ生きていないような子供だ、比較的大人の倫理的な思考ではなく子供の考えだからという、そんなオチが付いたら万々歳だ、とも。

「でも、二人目ですか。三人目ももらえるのかな?」

「さあな。ただ、これまでの帝室で、三人の従者を生きている状態で与えられているのはたったの二人だけだ」

「なら、僕もそうなれば三人目ですね。ふうむ」

 生きている状態で。

 最大で三人、その本質は帝室従者がその所有者たる者を護ったりして死んでしまった際の補充としての側面なのだ。

 生存中に次の従者が与えられるケースは希ではあるが、皆無ではない。とはいえ三人同時にとなれば流石に珍しい。そんな状況である。

 尚、ガントレーの妹にしてメイルの姉、リングスにも二人目の従者が与えられることになったが、それは死亡に伴う補充だった。

「ま、こんなところかな……世間話は。そういうわけでだ。メイル。お前に頼みがある」

「何なりと。僕に出来る事でしたら」

「ヴェスで発見された迷宮の話は聞いているな」

「ええ」

 迷宮(ダンジョン)

 人工的であれそうでなかれ、それが突如として顕れることはまれだ。

 大抵は昔からあったものが何かのはずみで発見されたと言うもので、迷宮だと思ったら廃坑跡だったというのもよくある話である。

「けれど、報告された位置的に、あそこは昔のルタルナ金鉱ですよ。廃坑跡じゃないですか?」

「うん。俺もそう思う。が、一応見つけてしまった以上、調査はしなければならない。そこで、俺の名義で冒険者に依頼を出した」

「名義だけですか?」

「父上には好きにしろと言われたからな。一応、実利も俺のものだ」

「それはそれは」

 いいですね、無駄かもしれませんけど。

 メイルは言外にそんな感じに伝えると、ガントレーは肩をすくめた。

「それで僕に頼みとは?」

「明日、依頼を受けた冒険者との接見がある。そこに同席して貰いたい」

「立場は」

「俺の弟としてだな」

 なるほど、とメイルは頷く。特に断る理由も無かったからだろう、いいですよ、とあっさりメイルは承諾した。

「けれど、その場にはクラクも同席させます。構いませんね?」

「ああ。構わん。……が」

 一度言葉を区切ると、ガントレーはメイルとクラクを交互に眺めて続ける。

「服に差は付けろよ。お前たちは似すぎている」

「わかってますって」

 意味があるならばともかく、無意味に混乱させたくはないですからね、なんてメイルは嘯いて。

 その後、集合の時間などを決定し、その日は解散と相成った。


 翌日、その冒険者との接見を何事もなく終えると、メイルは父親たる皇帝、アーチから呼び出され謁見の間に向かうと、そこには見慣れぬ少年が一人佇んでいた。

 どうも落ち着いた様子の少年である。身長はメイルよりも少し高く、その表情はなんとなく、温度が低そうだ。

 髪の色は茶色。純人だろう、特にこれと言った違った要素は見受けられない。

「父上。僕をまたもお呼びと聞きましたが」

「うむ。既にガントレーから話を聞いているとは思うが、お前に新たな従者が与えられることになった。その譲渡をしたくてな」

「…………。なるほど。じゃあ、その子が?」

「そうだ」

 す、っと。

 音もなく静かにその少年はメイルの前に跪く。

「ふうん……、僕より背が高いんだ。いいなあ。それに、落ち着いた様子だし頼りになりそう。いいね。君、名前はあるの? 喋って良いよ」

「はい。ありがとうございます。ですが、名前はありません、王子」

「そう。クラクと同じか……。じゃあ、今日から君はティヴ。ティヴって呼ぶことにしよう。で、モノである君に、最初の命令ね。『僕の友達になって』。以上。僕はこれからティヴ、君を友人として扱うから、君も僕の事を友人として扱うように」

「友人……」

「そのくらいの概念は知ってるでしょ?」

「はい。では……こほん。メイル様」

「なにかな?」

「あなたは馬鹿ですか。せっかく鋭く研がれた刃を、をわざわざ錆朽(デチューン)させるなんて。大体、この帝国の王子ともあろうお方がそのような態度では困ります」

「あ、あれ?」

 と、メイルが珍しくも困惑する。

 息子のそんな困惑は久方ぶりに、というより、殆ど始めて見たらしく、それを眺めていたアーチは妙な気分を覚えた。

 ああ。息子も人間なのか、と。そんな気分である。

「大体帝室従者という制度は、御身をお守りするための剣にして鎧なのです。それを友として扱えば、刃はなまくらになりますし、鎧も機能が落ちてしまいます。嘆かわしい。せっかく一級の装備を手に入れたのです。一級の装備は一級の装備として扱ってくださいませ。よろしいですね?」

「は……はい」

 剣幕に押し負けたようで、メイルが敬語になってしまっている。

「えっと……。僕、友達になって、ってお願いしたんだよね? あれ?」

「はい。私はメイル様のお友達です。が。友達と言うのは間違った道に進もうとした時、それを引きとめるものです。私は一人の友達として、メイル様、メイル・ジ・ウォムス第四王子殿下を支えなければなりません」

「はっはっはっはっは!」

 妙なやりとりに大声で笑ったのは、当然アーチ皇帝だった。

「メイル、らしくもなく大誤算のようじゃないか」

「……僕だって、何でもかんでも思い通りってわけじゃないですよーだ。まあ、これも友達の形か……?」

 拗ねたような言い草で、それでもメイルは新たな従者、ティヴに手を差し伸べる。

「これから、よろしくね」

「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

「不束者って……結婚するわけじゃないんだから」

 はあ、と今度はため息をつき、メイルは身体をアーチに向けた。

「父上。一つお願いがあるのですけど」

「言ってみなさい」

 この時、アーチが推測したのは、ティヴに関するお願いである。

 たとえば衣服だとか。もっとも、そのあたりは既に手配を終えている。メイルがその従者もまた友達として据えるだろうことは明白だったからだ。

 だから余裕を持ってアーチは答え、メイルは思いがけぬボールを放った。

 即ち。

「三人目も下さい」

 である。

「…………」

 思いがけぬ要求にも程がある。

 いや、三人目までならば前例はある。あるが、そもそも従者の補充を決めるのは国王では無い。

 ナーメンロースの連中だ。

 そのことを知らないメイルでもあるまい。

「ええ、知っています。けれど、いざとなれば勅命でなんとかなりますよ、たぶん。それに、ナーメンロースは僕に対して貸しがありますから。たぶん、それを解消する意味合いでティヴを渡してきたんだと思いますけど」

「何?」

「どうせここで会話していることは、ナーメンロースの皆さんの耳にも入っているんでしょう? 音や風の精霊が多すぎる。だから敢えてここで口にしますけど、ナーメンロース。僕はこの程度じゃ諦めませんよ。三人目をよこしてくれれば、まあ、和解も考えますが」

「……和解だと? メイル、お前、ナーメンロースと何があった?」

「あはは」

 笑ってごまかそうとして。

 しかし、アーチの視線が鋭かったからか、追及を逃れきれないと察するや否や、メイルは真剣な表情に戻って言うのだった。

「ただ、殺されかけただけですよ。ま、不幸な事故と言えば不幸な事故でしたけど……ね?」

 しばしの沈黙の後、場を包み込んだのはほかならぬ父親による、子供を想っての怒号だった。

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