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ホラーっぽい

ジョキン(第2稿)

作者: 風見烏

これは結構前に短編の練習として書いた物です。自分でもジャンルが分かりません。

第2稿になっています。

 あるところに、エリオットと言う若者がいた。

 このエリオットという若者、大変な不精者で、仕事に就いても長くは続かない。しまいにはそれ楽をしたいなんてことばかり喋るものだから、誰も相手にしなかった。


「あーあー、何処かに楽して稼げる仕事はないものか」


 そうすると、何やら変な物が見えた。

 それはぬいぐるみのようでもあり、泥人形のようでもある。

 ずんぐりむっくりとした手足に、のっぺりとした顔。それなのに口だけは右から左に、じぃぃと避けているという有様だった。


 もはや口だけの人形。

 それが人通りの多い道で、じっと突っ立て居るのだ。


 エリオット、なにやらおかしな物がいるものだと眺めていた。

 そうすると、おかしなことが起きていると気づいた。

 すぅぅっと、あの泥人形の身体を人が通り抜けたではないか。

 いや、驚いたとエリオットは、腰を抜かさんばかりの勢いだった。


 だけど、何にも動かないそいつを見ていると、妙に興味が湧いてきて、彼は近づいてみることにした。


「おい、俺が分かるか」


 そんなことをエリオットが言うもんだから、近くに通りかかったパン焼きのジョニーに、


「お前はグータラのエリオットだろう。誰が見ても分からぁ」


 と返されてしまった。

 エリオットはその泥人形に指を指してこう言った。


「おい、これが見えないって言うのか?」

「お前さん、グータラだと思っていたけど、グータラで変態だったんだな。はあ、これが見えないのかって、見えるに決まっているだろう」

「おお、そうか、このずんぐりむっくりの」

「ずんぐりむっくり? 大きくて丸いの間違いじゃないのか?」

「確かに丸っぽいが、そうじゃない。こんなにも大きくて、不格好で、気味の悪い物はないよ」「おいおい、そんなこと言うもんじゃない。とても綺麗で可愛いじゃないか」


 エリオット、どうも話が噛み合っていないと思った。

 そして、横からこんな声が掛かってきた。


「やい、グータラのエリオット。さっきから聞いていればなんだい。そんなにあたいの胸が不格好で、気味が悪いっていうのかい?」


 エリオットの指の先、それは泥人形――に向けられてはいたのだが、その泥人形の後ろには、踊り子のマルグリッドが友人と談笑していたのだった。

 これにはエリオット大慌て、なんとかマルグリッドの機嫌を取らないと、今度酒場に行ったときに冷たくされてしまう。


「そんなことはないよ。きみはぁとてもべっぴんさんじゃないか。誰もきみのことを気味が悪いなんて口が裂けても言わないよ」

「ええ、あたいの胸のことを、ずんぐりむっくりっていったじゃないか」

「いや、確かに君の胸は大きいが、それは違う。それにこれが――」


 と、エリオット泥人形に指輪を指す、当然後ろにいるマルグリッドにも指が向けられることになる。


「不格好で、気味が悪いっていったんだ」


 そうすると、マルグリッド。怒り心頭、怒髪天を突くってな勢いで、かんかんと怒り出した。そうして思いっきりエリオットに向かって。


 ――ばしばしばしばしばしばし。


 って、ビンタをしてしまったのだった。

 これにはエリオットもたまらなくダウン。泡吹いて倒れてしまった。



 数日が経つと、エリオットはまたあの泥人形の前まで来てみた。

 こいつのせいでひどい目にあったと思ったが、触れもしないし、動きもしない。おまけにエリオットにしか見えていないならどうしようもない。

 エリオットは釈然としない気持ちになった。

 それから、時折泥人形の前に行っては、誰もいないことを見計らって文句を言ったりした。


 それから更に数日が経つと、泥人形がいなくなっていた。

 ありゃ、ついに消えてしまったかとエリオットは思った。

 文句も言い足りないし、仕返しも出来ていない。

 あれから、マルグリッドはすねてしまって、つっけんざんにエリオットにだけは冷たくあしらうのだった。

 エリオットは、ぐーたらに変態がついてぐーたら変態のエリオットなんて呼ばれるようになった。


 さて、泥人形のことだが、端的に言うと、居たのだ。

 そこから数十メートルといったところにぽつんと立っているではないか。


 エリオットはびっくりして、これは生き物なのかとまじまじと見た。

 すると、なにやら様子がおかしい。

 この泥人形。身体から糸を伸ばしているのだ。

 それもずぅぅぅぅぅぅぅぅぅと長い糸が。


 これはなんだとエリオットは触れようとしてみたが、すっと通り抜けるだけで、触る事なんて出来やしなかった。


 そこで、試しにこの糸がどこに繋がっているのか辿ってみようって考えた。

 よいよいと歩き出し、糸の先が見えた。

 そこは嫌われ者のロベルト爺さんの家に繋がっているようだった。


 このロベルト爺さん大層嫌われていて。

 口を開けば文句ばかりだし、声もでかい。あげくに人の悪口ばかり怒鳴り散らかす。ひどいときにはやれ馬鹿野郎って言って叩いたりもする。

 だけど機嫌が良いときは、安いエールなんかを奢ってくれる爺さんだった。


 さて、この糸は一体なんなのか、エリオットは知りたくなったが、手がかりも足がかりもなんにもない。

 とりあえずは時々見に来ればいいだろうと軽く考えていた。


 更に数日が経った。

 あの糸の正体は分からずじまいだったが、あの泥人形が近づいて来る度に、ロベルト爺さんの体調が悪くなっていったのは分かった。


 こないだまで、やれお前が死ぬまでワシは死なん、なんてエリオットに罵声を飛ばしながら言っていた。

 それが今はどうだろうか、寝たきりになってしまって、あの口うるさい爺さんだとは思えないほどおとなしくなってしまった。


 やれ、これはどうしたものかとエリオット。

 あれが近づいて来ると、爺さんの体調がおかしくなる。

 ぼんやりとした考えだったけど、そういうことだろうと思っていた。


 それも、爺さんの家の前まで来ると確信に変わってくる。

 じぃぃぃと不気味に突っ立っているじゃないか。

 これは危ないとエリオットは思って、なんとか出来ないかと思った。

 確かに口うるさくて嫌われ者の爺さんだが、知っている人間が死んでしまうのも目覚めが悪い。


 家の人に知らせようとするが、誰もこんな泥人形なんて見えてはしない。


「エリオットじゃないか。なんだい、うちの爺さまになんかようかい」

「いや、そのな、糸が……」

「なんだって糸? 確かにこないだお前さんの服の糸を引っ張ってお釈迦にしてしまったが、まさかその仕返しに来たんじゃないだろうね」

「そうじゃないんだ。爺さんに糸が繋がっていないかって思ったんだ」

「おかしなことを言うねぇ、糸。一体なんの糸だって言うんだい。爺さまにそんなもの付いてないよ」


 そこで奥から声が聞こえてきた、


「まあ、お入りなさい。なあんもおもてなしはできんけどねぇ」


 か細い声で喋るのは、あの口うるさいロベルト爺さん。

 エリオットはこのままでは収まりが悪いので、そっとロベルト爺さんの横まで行った。


「おまえさん、糸があるって言っているんだって」

「はい、爺さんに糸が繋がっているのが見えるんですよ」


 そうすると、ロベルト爺さんが急に泣き出した、驚いたエリオットはどこか痛いんじゃないかと大慌て。


「これはな、違うんだ。嬉しくて泣いているんだ」

「なんで嬉しくて泣いているんだ」

「糸が繋がっているからだよ」

「なんで糸が繋がっていると嬉しいんだ」

「おいおい、それはおまえさんが言うことじゃないよ」


 要領を得ない言葉にエリオットは頭を傾げた。


「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、糸をなんて、縁が繋がっているって言いたいんだろう。粋なことを言うねぇ、おまえさんのことちょっとは見直したよ」


 エリオットはそんなこと思っていなかったが、確かに、これを伝って来たのならご縁と言っても間違いじゃない。

 はいと頷いて、ロベルト爺さんを励まして帰った。


 次の日。

 ロベルト爺さんは息を引き取ってしまった。

 最後はなんだか穏やかな顔をしていた。

 エリオットは、爺さんの家の人から穏やかに逝けたと言われた。


 これはやはりあの泥人形の仕業だとエリオット。

 なんとかして糸をどうにか出来れば、良いことが出来るんじゃないかと考えた。


 それから、こんどはあのパン焼きのジョニーが経営している店に繋がっていた。

 店主であるジョニーが倒れて、まだ若いのにと嘆かれていた。


 そこでエリオット。

 どこからか取り出したるはなんの変哲もない鋏。

 なんでも奥さんと亭主が喧嘩したときに、亭主のある部分をこれで切ってしまったと言う曰くが付いている。


 亭主いわく「なんて恐ろしい女房だ。俺の大事な髪を全部切り落としやがった」

 女房いわく「大事って言っても三本しかなかったじゃないの。これに懲りたら浮気なんてするんじゃないね」


 それからその鋏は『大事な物ほど良く切れる鋏』なんて揶揄されるようになった。

 エリオットはそれを借りてきたのだった。


「さて、これで切れるかどうかだが」


 ――ジョキン。


 試しに鋏を入れてみると、さあ大変。

 あれだけ触ることも出来なかった糸が、物の見事に切れてしまったのだ。

 それからは、なんとパン焼きのジョニーが元気になった。

 今では倒れている前よりも元気に働き出す始末。


 エリオット、これは良い物だと味をしめた。


 それからは泥人形が現れる家に行って糸を切って回った。


「私はあなたの旦那を治すことが出来ます。私を信じて下さい。え、お前はグータラのエリオットだろうって、いやぁ、へへへ、俺は今心を入れ替えたんですよ。俺なら旦那を治すことが出来ますぜ」


 そう言ってエリオットはぶつぶつと呪文を唱え始める。

 呪文自体に意味はないが、なにもせずに助けてしまえばただただ不気味だ。


「アブラカ。ダブラ。チチンプイプイノ、ホイ……」


 なんて適当なことを言って、鋏で糸をこっそり出す。


 ――ジョキン、と旦那に付いていた糸を切った。


 すると、どんなに医者や牧師にだって見せても治らなかった病気がすっと治ってしまった。

 エリオットは謝礼をたくさん貰って、楽して稼げるようになった。


「へへ、これは良い。人助けも出来て、俺も儲かる。泥人形様々だ」


 それからは泥人形が現れる旅に、


「アブラカ、ダブラ、オッペケペーノ、ソーレソレ……」


 なんて言いながら、鋏で糸を切っていった。

 そんなことを繰り返しているうちに、今度は自分の身体から糸が伸びているのに気付いた。

 これはどうしたものかとジョキンと糸を切っていたのだが、切っても、切っても、糸はエリオットの身体から伸びてくるではないか。

 これはおかしいと思って、原因である泥人形の前までやってきた。


「これは、あいつの根本から切ってしまえばいいんだ」


 そうすると、突然泥人形が口を開いた。


『お前が、糸を切ってしまうから。私は商売があがったりだ』


 この世のものとは思えない低い声だった。

 怖くなったエリオットは、早速ジョキン、ジョキンと糸を切っていった。


 しかし、それでもなくならない。


『それは、目印だ。お前は死ぬはずの人間を助けてしまった。その分お前の寿命が縮まっていったのだよ』


 その泥人形。

 お迎えが近い人間は糸が伸びて、それを辿って、魂を貰い受けるのだと言った。

 エリオットは怖くなって、


「ならこんな目印切ってやる。それで、二度とお前なんかに見つかるものか」

『そんなに縁を切りたいなら、こうしてやろう』


 そうこうしているうちに、ゆっくりゆっくり泥人形が近づいて来る。

 やがてエリオットの前までやってくると、鋏を手から奪ってしまった。

 そして、おもむろに、彼の身体から伸びている糸を掴んで引っ張ると。


 ――ぬるぅぅぅ。


 どういうことだろう。もう一人エリオットが出てくるではないか。

 それは、エリオットの魂だった。


 魂が抜けると、泥人形は自分の糸を消し去って、代わりにエリオットとエリオットを結んでしまった。

 そして、泥人形は驚くエリオットに鋏を返すとこう言った。


『ほら、切らないのか?』


 これにエリオット、やれ助かったと思って、自分の身体に繋がっている糸に鋏を入れる。

 そしていつもやっているように呪文を唱え始めた。


「アブラカ、ダブラ、チチンプイプイノホイ……」


 ――――ジョキン。

ここまで読んで下さってありがとうございます。

誤字脱字を修正しました。

一部読みやすいように、改稿いたしました。

キーワードの設定が迷子になっています。

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