【los.Ethan】01「I'am……」
男には昨日の記憶が無かった、思い出す努力はしたのだがそれはアルコールの残り香で弱りきった脳に頭痛を起こすだけの報われない徒労に終わった。
男は思い出す事を放棄すると小さなうめき声をあげ自分が寝転がって居た酒場の床から身を起こすと深く息を吸い込んでからゆっくりと吐き出そうとしたが吐き気で軽くえずき口元を押さえる。
「やっと起きたのか、この飲んだくれ野郎」
店のカウンターから声をかけたのはこの店の主人のジョエルだ、彼は男が苦労しながらヨロヨロと立ち上がる一部始終をどうやら見て居たらしく笑いを堪えている。
「おはようジョエル、今はもう朝だよな?」
男は半ば呻くようにそう問うとカウンター席の丸椅子に腰掛ける。
「ああ、朝だぜ?時計見てみろよ、真面目な人間なら働き始める時間だ。こんな時間に酒場の床にぶっ倒れてる男なんてお前ぐらいのもんだぜ」
と言ってジョエルは豪快に笑う、笑い方には性格が出ると言うが、この男の性格は快活そのものだと断言できる、実際ジョエルの性格がこうで無ければ男と友人になる事は無かっただろう。
「ああ、そうだろうさ、この街で時間を気にせずに居られる気楽な奴は俺ぐらいだからな」
男もそう言って笑う。
「なあ、昨日いくら分飲んだか覚えてるか?そしてツケがいくら分溜まってるか知ってるか?友よ」
「さあ?それが思い出せなくなるぐらい飲んだことしか覚えてないな、友よ」
「金額を聞いたらそんな呑気な事を言ってられなくなるぐらいの額とだけ言っておくぜ」
「悪いなジョエル…用事を思い出したんだ、その話はまた今度にしないか?」
バツが悪そうにそう言うと男は席を立ち両開きのスイングドアを目指して歩き出す。
「今回の分はどうするんだ?友よ」
「…………」
男は答える
「ツケにしといてくれ……」
スイングドアと備え付けのドアベル、そして店主の深い溜め息の音だけを静かな店内に残して男は店外への一歩を踏み出した。
俺が初めて書こうとした小説。




