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小竹の短編小説

ダンゴムシ

作者: 坂町 小竹
掲載日:2015/07/06

 私はダンゴムシになる予定だった。小さく、丸いダンゴムシに。


 十年ほど前の冬のことである。私はまだとても小さかった。その日はとても寒かったのを覚えている。

 ヒーターの前に丸まった。凍えた小さな手をお気に入りのピンクのセーターの袖に入れ、顔をうずめる。すると、真っ黒なセーターを着た母が、ヒーターの前の集会に参加した。

「寒いね」

「うん」

「毛布持って来よっか」

「うん」

 母は立ち上がり、近くにあるソファーからまたもや真っ黒な毛布を持ってくる。

 黒いセーターを着、真っ黒な毛布で全身を包み込み、さらには黒く長い髪のせいで上から下まで黒一色となった母を見た私は、少し恐怖感を覚えたのであろう、首をすくめた。それを見た母に、いたずら心が芽生えた。さすが子供の頃からのいたずらっ子である。そして私に言った。

「お母さんはね、ダンゴムシなの。あなたも大人になるとダンゴムシになるのよ」

 ダンゴムシ。いつも庭で遊んでいるお友達だ。大人になればダンゴムシになると聞けば、喜ぶべきではないだろうか。しかし小さな私はそんなことを考えている場合ではなかった。自分の母がダンゴムシだと聞いて恐れない子供がどこにいるだろう。なにせ、今の母はダンゴムシそっくりに見えたのだ。

 母への純粋な信頼が、私に涙を流させた。いや、流すどころかたちまち私の顔は大洪水となり、わあわあと泣きわめいた。いやだ、お母さんがダンゴムシだなんて、絶対にいやだ、こんなのはいやだ。

 それを見た母はさすがに悪いと思ったのか、

「嘘よ、お母さんはダンゴムシじゃないわよ」

 と言ったが、泣いた子供が泣き止むまでの時間は、短くはない。しばらくの間私は“母をダンゴムシに変えた”世界を恨んだ。


 勿論、今はもう世界を恨んではいない。逆に感謝しているほどだ。それほどに世界は素晴らしいものだと思えるのである。その理由の一つに、お母さんがダンゴムシじゃないからというのもちゃんとある。大人になっても人間のままでいるから、という理由もある。

 でも、あの頃の私はきっとダンゴムシになる予定だったのだろう。いや、私は小さく丸いダンゴムシであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ユニークなお母さんですね! きっと明るい家庭なのでしょう! これからも執筆活動を頑張って下さい!
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