以上のお話
遥か未来、知っている者は、彼女のみ。
『呪い』から始まったお話は、やはり『呪い』で締めくくられた。
それらを解く為に『法則』を破り、そして『法則』となった彼女のお話。
以上でお話は、おしまい。
「サヤ」
声が掛けられた。
何年も経とうと変わらず、呼ばれて落ち着く声。
声を掛けたのは、黒い衣服の女性だった。
光を飲み込むような漆黒の髪をはじめ、漆黒に染まった女性。
「はい、ヤオさん」
サヤと呼ばれた女性は、ヤオと呼ばれた漆黒の女性とは正反対だった。
肩口ほどで切られた髪は、光を発するような白髪。
まるで死装束を模すように白い、しかし汚れ一つない和服。
「お参りは済んだ?」
「はい。今、終わりました」
「律儀ね。何年経つと思ってるの?」
「…約束、しましたから」
「約束、ね」
そう言われたヤオと呼ばれた女性は、何か思案するように目を瞑った。
数秒経ち、目を開ける。いつか見た、夢を思い出していたようだ。
「…私が言えた義理じゃない、か。まるで『呪い』ね」
「そうかも、しれません」
「けどまあ、いいじゃない。最後の縁よ。この世界に戻ってくる、ね」
「…はい」
スタスタと歩き去るヤオと呼ばれた女性。
サヤと呼ばれた女性は後を追い、最後に一度振り向いた。
「またねシキミ。来年、また必ず」
表面は削れ判読不可能となった墓石。
覆うように生える白い花を咲かせる木。
線香の煙だけがゆらゆらと、宙に漂っていた。
・サヤ
設定:
肩口ほどで切られた、光を発するように白い髪。
死装束を模した衣裳に身を包んだ、白い青年。
年に一度、もはや訪れる者が絶えた墓を参っている。
それは、今は亡き親友との『約束』であるが、同時にそれは『呪い』でもある。
亡き者との『約束』は、それが益であれ『呪い』である。
現在、ヤオと共に様々な世界を旅している。
かつて入り込んだ『並行世界』への経験を元に、無限の世界を探索している。
・ヤオ
設定:
腰ほどまで伸ばされた、光を飲み込むような黒い髪。
黒いドレス様の衣裳に身を包んだ妙齢の、黒い女。
共に旅する青年とは、何百年もの付き合い。
青年の『年に一度、再開する』という『約束』を疎ましく思っているが、それは自身が経験した事でもある為、この世界に戻る『縁』として、好意的に見ている。
・シキミ
設定:
訪れる者の絶えた墓に眠る女性。
自身の名と同じ木が寄り添うように生え、それが唯一、彼女の眠る証となっている。
そして彼女は、寿命を迎えてようやく、最愛の親友と同じ時を生きる事ができた。
理解者でもあった幼馴染を早くに亡くし、以降は唯一の弟子に全てを教え、一線を退いた。
そして生前、年に一度、消息の途絶える日があったという。
彼女の周囲の者は訝しんだが『業界』の重鎮であった彼女に、それを問える者はいなかった。
唯一親交のあった一人の弟子は『なんだか嬉しそうな、寂しそうな顔をしていた』と述懐した。
先祖が眠る墓所へ納められる事を拒み、彼女は見晴らしの良い粗末な墓を望んだという。




