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火虎のお話

 季節は夏。七月も半ばだろうか。

 段々と気温は上がり、夜でも蒸し暑くなってきた。

 その日も榮は寝苦しい中、タオルケットを掛けて床に就いていた。

 クーラーもない部屋だ。ムシムシと暑苦しい。


 コロリと寝返りを打つ。どうにも寝られない。

 しかし眠らなければ、一限目からの授業に起きることが出来ない。

 目を瞑り、呼吸を整える。周りの音が遠のく。自分でも眠りに就くのだと分かる。

 そうして意識を失う、直前。


『おい起きろ!』


 包丁の叫ぶ声が耳に入る。

 折角の眠気が吹き飛んでしまった。


 クシクシと目を擦り起き上がる。

 冷蔵庫に閉じ込めてやろうか。


「うー…うるさいなぁ…なに…?」

『火事だよ火事! とっとと起きろ!』

「かじ………火事!?」


 自分で口に出し、ようやく事態を飲み込むことが出来た。

 パチパチと音がするのに気が付いた。周りを見ると、赤い何かに呑み込まれている。

 今まで気が付かなかったのが異常なほどだ。


『早く逃げろ! 俺も写真機も忘れんなよ!』


 跳び起きる。

 包丁の言葉通り、本棚の上に置いてあった物を鞄に詰め込み、水切りから包丁を抜いてドアを開けようとする。しかし開かない。

 引いても押してもガチャガチャと音がするだけで開く気配がない。


「開かない! 開かないよ!」

『鍵開いてねえぞ! 落ち着け!』


 ドアノブの上。ツマミを見ると横に倒れていた。

 ガチリと起こしドアを開けた。黒い煙に包まれながら外へ飛び出す。

 部屋を出た途端、中からガラガラと崩れる音がした。


 あと一歩でも遅れていたら巻き込まれていただろう。


「あ、危なかった…」


 ザワザワと人の声が聞こえてくる。野次馬が集まってきたようだ。

 遠くからは消防車のサイレンの音も聞こえてくる。


 火は建物を飲み込み、黒い煙を吐き出している。

 まるで地獄絵図だ。


 ―――せ、せっかく、集めた漫画が…


 消防隊による懸命の消火が続けられる中、呑気にも榮はそんな事を考えていた。




―――




 そんな騒ぎがあったのがその日の深夜。

 場所は大学。お昼時の食堂だ。


「榮さぁ、なんだか焦げ臭いよ。なんかあったの?」


 向こうの席でうどんを啜る岡谷が言った。

 今日のシャツには『うどんLOVE』と書かれていた。アルファベットの『O』が鉢から伸びた麺で形作られている。

 いったいどこに売っているのだろうか。


「夜に火事に遭っちゃってさ。もう眠くて眠くて…」


 ふあぁ…と、大きな欠伸をする。


 教科書の類は、大学から貸与されるロッカーにしまってあった。

 一冊何千円もする教科書が燃えずに済んだのは不幸中の幸いだろう。

 通帳は全て燃えてしまったが、財布の中にカードが入っている。金銭面でも問題はない。


「火事ぃ!? 怪我とかない!?」

「あー…なんとか気付けてね。ギリギリ逃げられた」


 包丁に起こされなければ死んでいた、などと言えるはずもない。

 誤魔化しておくのが吉だ。


 岡谷の向こう側、薄紅色の着物を着た大和撫子が榮の目に入った。

 榮は手を振り、声を上げる。


「諏訪ーこっちー」


 どうやら向こうも気が付いたようだ。

 手を振りながらパタパタと走り寄ってくる。


「さかえ~ おはよ~」


 いつも通りのんびりとした喋り方だ。火事で死にそうになった心が癒される。

 榮の隣の席に腰掛け、巾着から銀紙に包まれたおむすびを出した。


「諏訪! 榮の家燃えたんだって!」

「ホントに~!? さかえ怪我ない~?」


 慌てた様子でそう言って二の腕やお腹を触ってくる諏訪。

 なんだかくすぐったいが、心配されて悪い気はしない。

 

「うん、なんともないよ。心配してくれてありがと」

「まさか榮の家がねー…どこに泊まったん?」

「ネットカフェに泊まったんだ。寝るだけならビジネスホテルよりも割安って聞いたから」


 消防と警察に説明してから火災現場を後にし、徒歩で十分ほどの距離にあるネットカフェに泊まった。

 椅子で眠るのは初めてだったが、それでも眠ることができたのは幸いだろう。

 だが、家が見つかるまでしばらくは泊まり歩くしかないだろう。


「ネットカフェ~? そういえば~ 近くのネットカフェーで火事が起きてたみたいだけど~」


 ネットカフェで火事。

 この大学の近くにはネットカフェが何店舗かあるが、どこの事だろうか。


「『幽々CLUB』ってお店だったよ~ 随分大きい火事みたいだったけど~」


 『幽々CLUB』

 榮が昨夜泊まったネットカフェだ。そこが火事だと。

 それでは今晩は泊まる事が出来ないではないか。


「私が行ったところだ」

「榮が泊まった場所? 偶然もあるもんだね」


 やはり能天気にうどんをすする岡谷。

 偶然、なんだろうか。

 そういえば、と思い出す。火事の際、焼け出された誰かが言っていた事を。


『凄く、凄く、もやもやしてて大きかったんです! 凄く、凄く、もやもやしてて…』


 曰く、火が虎の形を取って彼方へと跳んで行ったと言う。

 虎。きっと極限の状態の中で燃え盛る火を見間違えたのだろう。

 しかし気になる。呪いの箱の一件があってからというものの、ちょっとしたことが気になって仕方がない。


「ねえ、諏訪。虎で何か呪いってある?」

「虎~? う~ん…ちょっと心当たりはないかな~」


 そうやら諏訪に心当たりはないようだ。


「じゃあ岡谷、火事で虎を見たって人がいたんだけど、何か心当たりある?」


 オカルトマスター(本人談)は伊達ではないはずだ。


「お、私を頼るなんてね。ふっふーん、もう心当たりはあるんだな、これが」


 岡谷にしては珍しく自信たっぷりに言う。

 きっと自分の領分であるからであろう。


「それはきっと『火車』って妖怪だね。虎の姿をしてるっての姿をしてるって所でピーンときたのさ。虎もネコ科動物だからね」

「かしゃ?」

「そう、火の車って書いて『火車』」


 曰く『火車』は猫の姿を取り人前に姿を見せるのだという。

 確かに虎もネコ科動物だが、それはあまりにもこじ付けではないか。


「けどちょっと気になってね。この『火車』って妖怪、死体を持っていくんだ。悪行を働いた人間の死体をね」


 死体を持っていく?

 しかし、現れた(と思われる)現場は火事場。

 まるで、自ら死体を増やしているようだ。


「自分から火をつけるとか火を吐くなんて伝承はないんだよね。だけど、妖怪の伝承なんて曖昧だからね。もしかすると、そういう個体もいるのかも」

「『火車』か…ありがと。何か対処法ってある?」

「対処法? 私が知るわけないじゃんか。退治は諏訪の専門。私は知っているだけだからさ」


 全く、オカルトマスターの名が聞いて呆れる。

 対処法の一つや二つは知っていてよいではないか。


「ま、お金が無くなりそうだったらウチにきなよ。幸い、って言っちゃあれだけども、寝る場所くらいならあるからさ」

「私も家は広いから大丈夫だよ~」

「うん、ありがと。本当に危なくなったら頼らせてもらうよ」


 岡谷は大学から十分ほどのアパートに住み、諏訪は実家暮らしである。

 社交辞令だろうが、ありがたい。


 グイグイとうどんの汁を飲み干した岡谷。チラと腕時計を見た後に言った。


「あ、っと。講義が始まるね。急がなきゃ。榮と諏訪は?」

「私は終わり。これからバイトだよ」

「私はまだあるよ~ 今日は終わりまで~」


 三人揃って食器を下げ、食堂を出る。

 諏訪と岡谷は連れ立って講義に行き、榮は駐輪場へと向かう。

 日が照りつける中自転車を漕ぎ、汗をかきながらも道を急いだ。




―――




「あら、生きていたの。死んだかと思ってたわ」


 『万屋 矢尾』休憩部屋兼電話番部屋に着いた途端にこれである。相変わらず毒舌だ。

 矢尾は、夏も本番に入ろうかというこの季節に、黒いドレスのような衣裳に身を包んでいる。

 この部屋が涼しいせいもあってか、汗一つかいてはいない。外と比べ、ゾッとするように涼しいのだ。


「あはは…なんとか生きてます。漫画は全部燃えちゃいましたけど」

「まったく止めて欲しいわよね。せっかく寝ていたのに目が覚めちゃったわ。火事を起こす輩なんて死ねばいいのよ」


 それには榮もまったくの同感である。

 火事は一瞬で全てを奪う。そんな悪辣な行いを、たかがマッチ一本で引き起こす事ができるのだ。


「あれ? 火元、分かったんですか?」

「不審火みたいよ。要は、放火って事ね。屋根が火元って話」


 屋根が火元。付近の住民からの証言があったらしい。

 全く火の気がない場所から火が上がったという事もあり、なにやらご町内で噂になっているようだ。


 人間が上って火を点けたという事もあり得ない話ではないが、そんな事をする位ならば裏で火を点けた方が手っ取り早い。

 これはいよいよ、岡谷の言っていた『火車』が現実味を帯びてきた。


「それで、泊まる所はあるの?」

「いえ、まだ決まっていないので、今日はホテルに泊まろうかと。お電話借りてもいいですか?」

「別に構わないわよ。けれど災難ね、本当に」

「本当に災難ですよ。あ、もしもし―――」


 気の毒そうに言う矢尾。

 無事にホテルへの予約が済む。電話の脇に十円玉を置いておいた。

 その後少しして『万屋 矢尾』を後にする。舞い込んでいた依頼を済ませるのだ。

 

 その日の依頼は、六丁目の下條さん宅の襖の貼り替え。それに四丁目の大鹿さん宅の犬の散歩。

 下條さん宅の襖の貼り替えは、以前矢尾が行っている所を見て手順を覚えた。それでも、素人覚えには変わりない。幾分かマシ、といった程度だ。

 大鹿さん宅の犬は大柄のゴールデンレトリーバー。名前は我王というらしい。なんだか何度も生まれ変わっているような名前だ。


 全ての依頼を終わらせ『万屋 矢尾』へと戻ってきた。

 汗でベタベタする。夕方になっても暑いものだからウンザリする。


「矢尾さん、お風呂場借りますね」

「はいはい、タオルは洗濯機に入れておきなさいね」


 箪笥からバスタオルを取出し、籠へ入れておく。

 数週間前、夏に入る前なのに格段と暑い日があった。

 依頼が終わり汗だくになって戻ってきた時に、汗臭いからシャワーを浴びて来いと言われた。

 まあ、汗をかいて気持ち悪かったし、喜んでシャワーを浴びた。しかし大事な事を忘れていた。換えの下着がなかったのだ。

 それに気が付いたのはシャワーを浴びた後。流石に脱いだ下着をもう一度穿く気は起きない。

 その日は下着なしで借家へと戻った。幸いにも、新しい性癖に目覚める事はなかった。


 その後交渉した結果、数着の下着と着替えを置いておくことを許された。それに洗濯もしておくとも言ってくれたのだ。


「ふぅ…スッキリした」


 すっかり汗を流し、風呂場を出る。シャンプーは矢尾の使っている物を借りた。

 ラベルは貼ってなく、どうやら自家製のようだ。


 この店にドライヤーはない。

 なので、ある程度はタオルで水気を取って、後は自然乾燥だ。

 

 どうやら今日は古物買取の依頼もないらしく、矢尾は堂々と寛いでいる。

 榮も髪が乾くまではジッとしていた。

 脱衣所と比べてもゾッと寒い。風邪を引いてしまうか心配になったが、ここ十数年無病息災である。

 心配はないだろう。


 およそ一時間ほど経っただろうか。


「さ、今日は店仕舞いよ。お疲れ様」

「あ、はい。お疲れ様でした」


 どうやら今日はもう店仕舞いのようだ。

 矢尾にせっつかされて『万屋 矢尾』を出る。

 自転車に乗ろうとすると、矢尾から何かを手渡された。


「はい、これ」


 封筒のようだ。

 中を確認すると、弐千円札が五枚入っていた。


「あの、これは?」

「見舞金よ。少ないけれど、取っておきなさい」

「あ、ありがとうございます!」


 一万円。

 貯金があるとはいえ、莫大な額ではない。

 これだけあれば、ビジネスホテルに数泊できる。その間に新しい借家を見つけよう。

 そう思い、榮は意気揚々と、ビジネスホテルのある駅前へと自転車を漕ぎ出した。


 おおよそ三十分ほど自転車を漕ぎ続けただろうか。宿泊予定のビジネスホテルへと到着した。

 恙なくチェックインは終わり、部屋の鍵を渡され部屋へと赴く。

 シングルベッドにユニットバス。テレビはコインを入れて見るタイプ。

 特に不自由はない。見たい番組も特にはないのだ。


 夕食は、ホテル途中のコンビニで買っておいたサンドウィッチと牛乳で簡単に済ませた。


 明日は授業を休み、早くから不動産屋を巡ってみよう。

 それならば早く眠るべきだ。幸い今日は体を動かし、眠気が強い事も手伝った。

 窮屈だとうるさい包丁を鞄から出して枕元に置き、ベッドに入った。


 電気を消して目を瞑り、呼吸を一定にする。


 すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。


 時に意識をせず、頭の中を空っぽにする。

 そうすれば、自然と眠りに就く事が出来るのだ。


 すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…


 徐々に、徐々に意識が薄れてきた。

 今から眠るのだと、

 ああ、眠る…


 意識を失う直前。一瞬前。

 大きな声が榮の耳を劈いた。


『起きろ! 死ぬぞ!』

「いい加減にしてよ!」


 ―――窓からぶん投げてやろうか!


 寝起きと眠気に支配された榮は気が大きい。

 普段からは考えられないような行動をしてしまう事が多々あるのだ。


 包丁の柄を持ち窓を開け、大きく振りかぶる。


『いい加減にすんのはお前(おめえ)だ! どうして気付かねえんだよ!』

「何が!」

『周り見ろ周りを! 火事だよ!』


 ―――火事?


 その言葉に榮は我に返る。

 そういえば、何か焦げ臭い。周りを見た。


 赤い赤い。パチパチメラメラ。

 燃えている。燃え続けていた。 

 何が? 壁が、この部屋が。


「また!?」

『とっとと部屋を出ろ! 死にてえのか!』


 包丁が言うが早いか、榮は鞄を持って部屋のドアを蹴破り廊下へと出る。

 その瞬間、金属が千切れる音がした。


 ―――ギン、ヂギン! ドドドドド!


 先ほどまで榮の居た部屋。その天井が落ちて来た。

 熱風が榮を襲う。鞄で顔を隠すが無傷ではない。あちらこちらがヒリヒリする。


 瓦礫の山が出来上がっている。そして、榮は見てしまった。

 高く積まれた瓦礫の山。そこに悠然と立ち構える虎を。

 メラメラと燃える火を後ろに、ハッキリと姿を確認してしまった。


 赤と白の縞模様。それが全て火炎で構成されている。

 輪郭は陽炎のようにユラユラと覚束なく、牙を剥きだしにする口からは赤い火炎を吐き出していた。

 その白い眼光はハッキリと、確かに榮を睨み付けていた。


 窓が割れた。

 虎は跳び上がり、窓を通って外へと出て行った。

 依然、部屋は燃え盛っている。廊下には煙が充満し、いつまでもここにいては危険だ。


「あれが『火車』…」

『ありゃあ方向性を持った『呪い』だ! あの箱とは別物(べつもん)のな!』


 ―――方向性!?


「方向性って何!?」

『誰かがお前さんを狙ってるって事だ! 悪意を持ってな!』

「狙われる憶えなんてないよ!?」

『お前さんには無くてもあちらさんにはあるんだろうよ。とっとと逃げるぞ!』


 言われるまでもなく。

 非常階段の位置は予め確認しておいた。

 廊下の角を曲がったその先。

 

 一つ目に角を曲がる。

 どうやら他の部屋でも火災が起きているようで、幾つもの悲鳴が聞こえる。

 しかし助ける暇も誘導する暇もない。非常階段へと一目散に向かう。


 片手には包丁を持った榮は見ようによっては危ない人だろうが、気にしている暇もない。


『―――! やべえ伏せろ!』


 包丁が急に重くなり体勢を崩す。


 ―――この無機物、重くもなれるのか!?

 

 不意を突かれたような重さ。バタリと床に倒れてしまった。

 それが幸いした。


 ―――メキメキメキ、ゴバン!


 壁が破裂した。

 榮の目の前の壁が吹き飛び、向こうから逃げてきた人を巻き込んだ。


 ノシノシと、火虎が壁の穴から悠々と歩き出てきた。自分が優位である事を誇っているように。

 その口が大きく開かれ、榮を食い千切ろうとしているのだ。


 ―――あ、死んだ。


 榮は観念した。

 蛇に睨まれた蛙。そんな言葉がある。

 絶対的な強者と相対した時、弱者は生存を放棄してしまうのだ。

 虎が蛇、榮が蛙だ。

 

 赤い口、喉元が最後に見た光景―――とはならなかった。

 『火車』の顔が弾けた。


 榮には訳が分からない。

 しかし千載一遇のチャンスだ。

 一心不乱に逃げ出した。


 二つ目の角を曲がる。

 少し先には非常口の緑色のマーク。

 乱暴にドアを開け、外へ出る。


 金属製で隙間の多い螺旋階段だった。

 所々に錆が目立ち、足を踏み出すとギシリと軋んだ。


 本当に大丈夫なのだろうか。しかし考えている暇など無い。

 怖気づかずに下り始める。数段下りただろうか。

 強い振動を感じた。上を見ると火の塊。『火車』だ。


 ―――ガギン! ガギン! バギン!


 甲高い音と共に、螺旋階段全体が強く揺れる。下りる暇などない。

 頼りない手すりに捕まり、振り落とされないように踏ん張るのが精いっぱいだった。


「あ、あわわ、わわわわ!」


 ―――バギン! バギリ! ガギャギ!


 螺旋階段全体が大きく傾いた。

 建物に固定されているはずの螺旋階段が、ゆっくりと地面に引きずられていく。


 ―――ズン! ミシミシミシ…!


 大きく軋む音がする。下を見ると支柱が大きく曲がっていた。

 手すりなど合って無いような物。榮の体など簡単にすり抜けてしまう。

 地面までの距離は、おおよそ15mだ。叩きつけられたら無事では済まない。


 ―――あ、これ死んだ。


 諦め半分でそう考えてしまった。

 もう無理だ。死ぬ、死ぬ、死ぬ。


『跳べ!』


 包丁の言葉にハッとする。

 そうだ、まだ生きているのだ。

 ならば、生き足掻いてやる。


 榮はもうヤケクソだ。

 包丁に言われるがまま、傾いた階段から思いきり飛び出す。


 地面まではおよそ15mの距離。

 地面に叩きつけられるにはまだ間がある。

 隣のビルの壁があったのだ。


 当たる。激突する。


 ―――死ぬ!


『俺を突き刺せ!』


 包丁が握られていた右腕を動かし、壁に突き立てた。

 何の抵抗も無く、まるで豆腐でも切るかのように突き刺さった。

 しかし榮の体重に引かれ、包丁は壁を一直線に切り裂いて落ちていく。


「ど、どどど、どうするのさ!?」

『絶対離すな! 何とかする!』


 榮はなんとしても柄を離さないように両手で握りながら、体を固めてジッとしていた。

 徐々に、徐々に速度が緩やかになっていく。包丁が何かをしているのだろう。しかし榮に分かるハズもない。

 榮の両足が地面に着く。勢いはない。完全に殺されていた。


「し、死ぬかと、思った…」


 生きている。死なずに済んだ。

 上を見上げると『火車』はこちらを見下げている。

 虎の表情など榮に分かるハズもないが、心なしか残念な顔をしているようだ。


『やべえ、まだ来るぞ』

「え、でも、まだあそこに…」


 もう一度見上げるも『火車』の姿はない。

 どこかに消えたようだ。


お前(おめえ)『呪い』を舐めんなよ。アイツらは目的を果たすまで襲ってくるぞ』

「えー…それじゃあどうするの? これじゃあ安心して眠れないよ」

『…ホント呑気だな。まあ、手はあるっちゃあるが』

「じゃあそれ! 早く教えて!」

『あー…分かった分かった。そんじゃあ移動しろ。なるったけ燃えるモンが無いトコにな。それと―――』




―――




 駅にほど近い公園に榮はいた。

 ジャングルジムやブランコ、シーソーや滑り台が設置された小さい公園だ。

 幾つかの外灯で照らされてはいるが、それでも暗い。


 敷設されていた砂場、そこで榮は何やらやっていた。


「ホントにこれでいいの?」

『ああ、十分だ。俺もムカついてきたトコだしな』


 包丁の言った通りにしておいたが、なんだか子供だましのようだ。


 砂場には円形の陣のような物が描かれている。


 その中央には榮が火事場から持ち出した『コトリバコ』が置かれていた。

 火事の際、本棚の上の物を必死に詰めたのだ。吟味している暇もなかった。

 先ほど包丁に指摘され、鞄に入っていた事に初めて気が付いたのだ。


 陣の上。『コトリバコ』を隠すように、落ちていた枝で簡単に家組を作った。

 これも必要な事だという。


 陣と家組。

 二つの設置が終わって初めて、包丁が説明を始めた。 


『いいか、あの『呪い』は間違いなくお前を狙っている。それはいいか?』


 これは間違いないらし。さっぱり心当たりはないが。


『無差別に発散されるハズの『呪い』が方向付けられてるが、根本は同じモンだ。ありゃあ『呪い』だ。そこを狙う』


 それがこの陣を作り『コトリバコ』を置く事に繋がった。

 榮にはまるで分からないが、何かの儀式を模したのだと言っていた。


 ―――ボウッ、ボ、ボ、ボ、ボ、ボ


 木の枝で組んだ家組から火が上がった。

 全くと言っていい程に火の気が無いのにも拘らず、だ。


『来るぞ…お前は無茶すんなよ。弱っちい人間なんだからな』

「失礼だね。私もイライラしてるの、寝られなくてね」


 人生の三分の一は眠っているのだ。

 榮は食事と共に睡眠も大事にしている。

 だからこそ、睡眠を邪魔する奴など死ねばいいと思っているのだ。


 火の手が更に強くなる。

 風もないのに急に火炎が立ち上った。


 ―――来た!


 榮はそう直感した。

 火炎が形作られ、虎の形を模す。『火車』だ。

 榮の命を狙い、この場所に現れたのだ。

 今は首だけだが、数秒もしない内に体も現れるだろう。


『速攻決めるぞ! 死ぬなよ榮!』

「死なないよ! 安心して寝てやる!」


 『火車』が跳びかかってきた。まるで獲物を狩る野生の様だ。

 しかし、榮は怖気づかない。眠気にと疲労に支配されてテンションが上がっているのだ。


 体が勝手に動く。中学生の頃の授業で習った、剣道の正眼の構えだ。持っているのは包丁だが。

 包丁が何かをしているのだろうが、知った事か。


 その後は一瞬の事だった。

 跳びかかった『火車』に対し、榮の体は僅かに動いただけだった。

 

 後ろを振り向く。榮に傷はない。

 榮の眼には『火車』が縦に真っ二つに両断されている姿が映った。


「やった!?」

『いや、手応えがねえ。ありゃあガワだ。中に何かいるぞ!』


 両断された『火車』の虎の形をした体。

 断面がウゾウゾと蠢く。

 赤と白の火炎で構成されていたハズの体が、反転した。


 『それ』は細胞を構成する灰色の原形質の様だった。

 僅かに光を発しており、否が応にでも存在を認識してしまう。

 絶え間なく蠢く流動体のそれは、何かの形を成していた。


 人、人、人。

 人間の顔が。苦痛に歪んだ顔が。顔だけが。

 涙を流すように。或いは助けを乞うように。


 目が離せない。閉じなければならないのに。

 体が動かせない。動かさなければいけないのに。


 体が動かない。死を意識する。


 ―――死、ぬ、


『おい!』


 手に激痛が走った。

 見ると、手の平がスッパリと切れて血が流れている。

 包丁が体を動かして、手を斬りつけたようだ。


「痛いじゃない! なにするの!」

『何ボッとしてやがる! 死ぬ気か!』


 ハッとする。

 そうだ、今は目の前の障害を排除しなければ。

 安眠の為にも。


「どうするの? あれも『呪い』なの?」

『だとは思うが…違う感じもするな。まあいい、封じちまえばこっちのモンだ』


 彼我との距離は数メートル。

 『それ』は自身の流動体の体を触手のように伸ばし、榮に叩きつけられようとしなる。

 きっと自身の反射神経では反応する事も出来ずに吹き飛ばされていただろう。


 榮の体が勝手に動く。

 包丁が触手を切断し、断面からはドロドロとした粘液を吐き出している。

 名状し難い呻き声を上げている『それ』は、尚も触手を叩きつける。

 それらは全て包丁によって切断され、ビチャビチャと地面を汚染していった。


『斬ればいいんだ! 細斬れにすりゃいいんだ! 殺す一歩手前に持ってきゃ問題なんてねえな!』


 なんだか包丁がハイテンションになっているが、榮は任せる他ない。

 包丁がスパスパと触手を切っていく中、榮は他人事のようにその光景を眺めているのだった。




―――




「死ぬかと思った…」


 次の日、大学の食堂。

 榮は机にダラリと体を預けていた。


「こら榮、お行儀悪いぞ」


 うどんを啜りながら岡谷が言う。

 食事中に会話をしている彼女が言える事ではないだろうに。


「そんな事言わずにさぁ…昨日また火事に遭ったんだよ…もう寝不足で…」


 大きく欠伸をする榮。

 『火車』を『コトリバコ』に封じた後、自転車を取りに行くためにホテルへと戻った。

 ホテル全体が火に包まれ、消防隊が決死の消火をしている横をコッソリと通り自転車を回収しようとしたが、警察に捕まり事情聴取を受けた。

 解放されたのは、時計の針が天辺を指す頃だった。


 結局、再びネットカフェで眠った。

 この前泊まったネットカフェは完全に焼け落ちていたのだ。


「また!? どこで!?」

「駅前のビジネスホテル…ああそうだ…『火車』だっけ? なんとかなったよ…」


 カバンをゴソゴソと漁り『コトリバコ』を出して机に置く。

 それを見た岡谷の顔が引きつる。この前の参事を思い出したのだろう。


「これって、この前の『コトリバコ』だよね? 吐き気はしないけど…大丈夫なの?」


 岡谷はどうやら、吐き気で『呪い』の有無を判別するようだ。

 榮には判別のしようがないので、ある意味羨ましい。


「そっちの『呪い』はもう大丈夫…『火車』の方をなんとか封印したんだけどさ…全身筋肉痛で…」


 調子に乗った包丁が榮の体で暴れ回った事。普段は使わない筋肉を存分に使った事。

 その二つが重なり、榮の体は悲鳴を上げていた。

 内腿は歩く度に激痛が走るし、二の腕は肩を動かす度に痛む事痛む事。

 全身くまなく痛みが走っている。


「さ~かえっ! おはよ~」


 この声は諏訪だ。

 榮はポンと肩を叩かれた。

 いつもの事だ。いつもならば問題はない。

 しかしこの日は勝手が違った。


「うぎゃあああああぁぁ!」


 ビギビギビギと全身に激痛が走った。

 たまらずにに榮は悲鳴を上げた。


 食堂が一瞬静まり返り、視線が榮の方に注目した。


「あ、あがががが…」


 だが、榮に気にする暇はない。

 言葉にならない呻き声を上げて、ビクビクと痙攣する。


「ど、どどどどどうしたの~!?」

「あー…榮、筋肉痛らしくてさ。諏訪が止めを刺しちゃった感じ…」

「ご、ごめんなさい~! わ、私しらなくって…」

「だ、だだだ大丈夫…! し、死にはしない、からっ…!」


 涙を堪え、全身を細かく震わせながら言う榮だが、説得力は欠片もない。


「榮さあ、今日はもう休んだ方がいいんじゃないの? そんなんじゃまともに動けないでしょ」

「そ、そうする…」


 鞄を引き摺るようにして持ち、ゆっくりと立ち上がる。

 少しの振動でも激痛が走るのだ、出来得る限り静かに歩く。


「あ、そういえば榮、家は決まったの?」

「まだ…と、とりあえず…矢尾さんの所に行ってみる…」


 取りあえず『万屋 矢尾』へと行く。

 そしてしばらく休む旨を伝えよう。役に立たないからと追い出されそうではあるが。


「そうだ~ ねえさかえ~」

「うひいいぃぃぃい!」


 ポンと肩口を叩かれた榮。

 再び悲鳴を上げ、食堂の返却口のおばちゃんから怪訝な眼で見られた。


「…ねえ諏訪さ。榮、筋肉痛なんだって」

「私はもう授業ないからさ~ 一緒に帰らない~? 車もあるよ~」


 ホニャリとした笑顔で言われては、毒づく事も出来ない。


 しかし車と言ったか。

 『万屋 矢尾』へは自転車で十五分と少し。

 狭い路地は車は通れないが、近くで降ろしてもらえれば大いに助かる。


「お、お願いします…諏訪さん…」

「ど、どうして敬語なの~!?」


 その後、岡谷に肩を担がれて諏訪の送迎の車に乗せられ、諏訪が『万屋 矢尾』へ寄ってくれと運転手の男性に言う。

 運転している男性は、箕輪と呼ばれていた男性だろうか。

 サングラスを掛けた黒いスーツの偉丈夫。

 

 なにか、ヤの付く自由業のような方だったが、口調も運転も丁寧だった。

 諏訪も信頼しているようだったし、人は見かけによらないという事だ。


 数分して『万屋 矢尾』最寄りの路地へと到着した。


 車を降りる際に『お嬢がご迷惑をお掛けしました』とか『また後日、お礼に伺います』と言われたが、丁重にお断りした。

 榮は権力に弱いのだ。


「それじゃあさかえ~ 気を付けてね~」

「あ、ありがと…箕輪さんも、ありがとうございました…」

「それでは、お気をつけて」


 車が発進した。

 諏訪は窓から身を乗り出して手を振っていた。

 榮も車が角を曲がるまでは手を振っていたが、危ないと叫ぶと諏訪は素直に車へ身を隠した。


「う、うう…痛すぎる…」


 貸してもらった杖を突きつつ『万屋 矢尾』への路地を、ゆっくりと歩き始めた。 




―――




 『万屋 矢尾』の建物が見えてきた。

 ここまで来ればあと一歩。

 最後の力を振り絞って、裏口へと歩を進める。


 黒いドレスのような衣裳の女性。

 今日は麦わら帽子を被って軍手を嵌め、炎天下の中草刈りをしていた。

 『万屋 矢尾』の店主、矢尾だ。


「や、矢尾さん…」


 息も絶え絶え。

 力を振り絞り声を上げる。


「あら、今日は早―――どうしたの? 杖なんかついて」


 この暑い日差しの中、矢尾は汗一つかいていない。

 榮は痛みと暑さで汗がダラダラと流れてきているというのに。


「き、筋肉痛で…湿布、ありますか…?」

「湿布? どうだったかしら。部屋の薬箱を見ておいて頂戴。もう少ししたら終わるから」

「は、はい…」


 矢尾がザクリザクリと草を刈る音がする中、榮はガラガラと戸を開けた。

 靴を乱暴に脱ぎ、いつも電話番をしている部屋に入る。

 部屋やはり、ゾッとするほど肌寒い。


 薬箱はどれだろうか?

 適当に見当を付け痛む体に鞭打ち、正面に赤い十字が描かれた箱を棚から降ろす。

 カタリと蓋を開けると、薬独特の臭気が漂ってくる。しばらく開けられていないのだろう。


 二本のビンが目に留まる。


 透明の薬品ビンに入った赤黒い液体。

 きっと消毒液だ。赤チンだろう。


 褐色のビンに入った液体。

 フタを開けて手で扇ぎ匂いを確かめると、目に染みる程にツンとした、鼻に刺さる刺激臭。

 消毒用のアンモニアだ。嗅がなければよかった。


 今は消毒液に用はないので放っておく。

 湿布薬は…


「…あった」


 銀紙に包まれた紙きれ。重しのように置かれていた口の広いビンには、白い軟膏が入っていた。

 これを紙に塗って貼るのだろう。


 戸がスッと開いた。

 草刈りが終わったのだろう、矢尾がいつもの格好で部屋に戻ってきた。


「榮、湿布有った?」

「あ、ありました…これ、ですよね…?」

「そうそう。しばらく使ってないけど、大丈夫そうね」


 そう言いながら、矢尾は襖から布団を出して敷いてしまう。

 どうしたのだろうか?


「ほら、貼るから寝っ転がりなさい」

「え、貼ってくれるんですか?」

「一人でどうやって背中に貼るのよ。いいから」


 言葉に従い、上着を脱いで布団に寝転がる。

 横になると少しばかり楽になる。まともに横になるのも久しぶりだ。


「うひぃ!」


 ピタリと、冷たい物が背中に当たった。

 いきなりの事に榮は悲鳴を上げてしまった。


 次々と貼られる湿布。

 背中、二の腕、肩、腰、腿。

 痛い場所の周辺に的確に貼られていく。


 なんだか肌がホワリと暖かくなる。

 効いている証拠だろう。なんだか気持ちいい。


「それで、部屋は決まったの?」

「あ、いえ、まだなんです」


 昨日の今日の事で筋肉痛も重なり、不動産屋に行く気力が無かったのだ。


「そう。それなら、この家に住まない?」

「…え?」


 この家に住む?


「二階の部屋が空いてるのよ。掃除はしているけど、誰かが居てくれれば手間も省けるから、ちょうど貸し出そうと思っていたの」


 二階に部屋。初耳だ。

 この家の外観を思い返してみると、確かに窓があった気がする。

 しかし、階段を見かけた事が無い。どこかに隠してあるのだろうか。


「えっと…お家賃の方は…」

「そうね、朝食と夕食を作ってくれれば家賃は要らないわよ。あなたの料理は中々の味だったから。もちろん、お給料は今まで通りで」

「本当ですか!? 是非とも!」

「それなら、後で契約書を持って来るから署名と捺印をお願いね。はい、これでお終い」


 パシリと背中を叩かれた。少し痛いが、体に走る激痛は消えている。

 肩甲骨をグルグルと回しても痛くない。


 この湿布のおかげだろう。

 メーカー名も商品名もなかったから、きっと手作りなのだろう。凄い効能だ。


「夕方まで寝ていなさい。今日の依頼は私が済ませるから、買い物とお夕飯は任せたわ」


 そう言った矢尾は、寝転がっている榮に毛布を掛けた。

 真夏なのに少し肌寒い部屋なのだ。タオルケットでは寒いのだろうという矢尾の判断だろう。


「あ、ありがとうございます。それじゃあ、少し…」

「あ、そうそう。その鞄の中の…『コトリバコ』って言ったかしら」

「え、はい。ありますけど…」


 榮は腕を伸ばして鞄を漁り箱を取り出す。

 『火車』を封じた『コトリバコ』だ。


「それ、譲ってくれないかしら? もちろん、タダじゃないわ」


 この箱を? もちろん構わない。


 包丁も『なんか危なそうだし、矢尾のババアに投げつけてやれ』と言っていた。

 タダでいいから引き取ってもらいたい物だ。


「いえいえ! タダでいいです! 是非とも引き取ってください!」

「あらホントに? なら、遠慮なく」


 榮から『コトリバコ』を受け取り、白魚のような手の中で弄んでいる。


「それじゃあ行ってくるわ。ゆっくり休みなさいよ」

「あ、はい、行ってらっしゃいです」


 矢尾が出て行き、部屋の中はシンと静まり返る。

 榮は毛布を掛けて目を瞑る。大きな問題が解決し、張り詰めていた緊張が一気に切れたのだ。あっと言う間に眠りに落ちた。

 物音一つしない部屋の中、榮の寝息だけが静かに聞こえていた。

・名前:(さかえ)

 性別:女

 職業:大学生

 好物:サンドウィッチ

 設定:

 至って普通の大学生。

 火事に遭って借家が全焼。買い揃えた漫画本が全て灰となり、精神的ショックを受けた。

 数日の間、横になって睡眠を取る事ができなかったので、少しムカついていた。

 睡眠と食事、どちらかを奪われるのならば、僅差で睡眠を差し出す。その程度には食事を楽しみにしている。


・名前:極楽丸(ごくらくまる)

 性別:不明

 職業:包丁

 好物:菜肉・菜汁

 設定:

 太刀が鍛え直された包丁。

 今回の功労者。彼がいなければ、榮は死んでいた。

 どうやら自在に重さ・切れ味を変えられるようだ。

 人間が倒れ込むほどの重さにも、コンクリートを豆腐のように両断できる切れ味にも自由自在。

 人の体を自由に動かす事も出来るが、これは『重さを変える方向を細かく動かす』事で実現している。簡単に言えば応用編。

 その為、体への害はない。本当に本当にホントのホント。操れない訳ではないが。


・名前:『火車(かしゃ)

 性別:不明

 職業:不明

 好物:不明

 設定:

 突如榮を襲った、虎の姿をした『呪い』

 火炎で揺らめく虎の姿をしている。伝承の『火車』とは違うのか、無差別に辺りを燃やし死体を増やしている。

 『何かを燃やして』現れる為、火の気のない所でも問題なく活動できるが、燃やす物がないと出現できない。

 榮を狙っている点と燃えて現れる点を突かれ、出現を予知された挙句、真っ二つに両断された。

 案外表情豊か。


・名前:不明

 性別:不明

 職業:不明

 好物:不明

 設定:

 両断された『火車』の体が反転して現れた、正体不明の何か。

 僅かに光を発する灰色の原形質で構成された流動体の粘液の塊。

 粘液の体からは、絶え間なく苦痛と悲痛に塗れた人間の頭が現れている。悪徳の塊。

 主な攻撃手段は流動体の粘液を触手にした物理攻撃。人間の反射では対応すら難しい。

 しかし、多くの人間を殺してきた包丁の敵ではなく、再生する傍から触手を切断され、最終的に『コトリバコ』に封印された。

 常人は見ただけで発狂するともっぱらの噂。

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