冒険ギルド レガルト山脈産魔獣軍殲滅戦〈5〉
天魔の邂逅
冒険ギルド レガルト山脈産魔獣軍殲滅戦〈5〉
「えーっと、何を話して居ただろうか。今やってきた馬鹿のせいで話すことを忘れてしまった」
このギルマス嫌な奴だな。
少し遅れたくらいじゃないか。それくらい許してくれよ……。
「思い出した思い出した。机の上に置いてある資料。それは、レガルド山脈の最新情報だ。
次のページに魔獣の群れが何処にあるかが書かれている。色は紫だ。
それとは別に緑色の点があるはずだ。
それが我々冒険者を指すものだ。
どう動くかと言うと、4ページだ」
4と番号が書かれているところを開く。すると、そこには誰がどのグループに所属するかが書かれた一覧表があった。
「1日目の偵察は以下のメンバーで行う。Fランカー天魔、チーム『白銀の嵐』
食料調達はチーム『酒宴』、テントを立てるのはチーム『蒼炎』、それ以外はレガルド山脈麓にいる魔獣の駆逐、またキャンプ地の警備とする」
チーム『酒宴』とは簡単に言えばある程度は戦える元料理人が集まって出来たAAAランカールノフをリーダーとする18人で構成されるチームで、
チーム『蒼炎』は、魔術師や精霊使いがメンバーの多くを占め、SSランカーユレイスをリーダーとする15人で構成されるチームだ。
また、このこととは関係ないが、現段階で『英雄』ランクが3人、SSSランカーが15人、SSランカーが50人、Sランカーが5000人、AAAランカーが10000人、AAランカーが50000人、Aランカーが100000人おり、この中で今回の討伐に参加するのは『英雄』は0、SSSランカーが6人、SSランカーが15人、Sランカーが100人、AAAランカーが50人、AAランカーが70人、Aランカーが200、Fランカーが1人の合計442名と、連邦国にいるギルドマスターが7人参加する。
今回の討伐に総額 星金貨24枚がかかり、そのうち60%が報酬、その他は転移門を起動させるなどに使われるそうだ。
今更だが、
石貨100枚で青銅貨1枚
青銅貨10枚で銅貨1枚
銅貨10枚で銀貨1枚
銀貨10枚で金貨1枚
金貨10枚で白金貨1枚
白金貨100枚で星金貨1枚
星金貨100枚で神金貨1枚となっている。
星金貨以上は貿易などに使われ、ギルドと言ってもこれほどの金を使う機会は少ない。
日本円で表すと、石貨=1円
青銅貨=100円、銅貨=1000円、銀貨1万円、金貨10万円、白金貨100万円、星金貨1億円、神金貨100億円である。
「………………………………ということだ。聞きたいことがある奴はいるか?」
俺は迷わず手を上げた。
聞きたいことが山ほどある。
「どうしてFランカーである俺が毎回偵察や討伐に選ばれているんだ?俺よりも強い奴は山ほどいるだろ?」
「あ?そりゃあ、炎龍を従える力を持つ冒険者を荷物運びや雑用をさせるわけにはいかんだろ。なあ、お前達」
会議室にいる冒険者は一斉に頷いた。
「だいたい、エディックに勝ったんだってなぁ?少なくともAAランク以上の実力を持つ冒険者、そう簡単に死なないだろうし、クロアが言っていたぞ?「私の殺気に動じなかった」とな。お前に逃げ道はない諦めろ」
「いやいや、俺まだ成人してないし?」
「この国の成人は18歳。エディックは42歳、クロアは60歳、ユレイスは19歳。何の問題もないだろ」
「え?あの人60歳なんだ」
「お前も思うか。実は俺も今日初めて知った。だがな、まだ若い方だ。この世界の平均寿命は250歳から400歳だからな。そこにいるユレイスとかは魔力が多いから600年くらいは生きるんじゃないか?」
「へぇー勉強になります」
「なら、文句言わずちゃんと仕事をするんだな」
「………」
ちっ、やっぱり変える気は無いか……。
2日目の時、魔獣と一緒に殺っちゃおうかな、このギルマス。
強さで言うと炎龍の100分の1にも及ばないだろうし。
「これで文句があるものはいないな?
出発は明日にする。
それまでに装備を整えておくんだ!解散!!」
会議室に居た冒険者の多くは扉に押し寄せ、広くと同時に広場の方へ向かって行った。
それ以外の冒険者はこの場に残ってギルマスと話をしている。
「言いたいことはあるだろうけど、我慢しろ。僕がFランクだった時、魔術師が少ないという理由で内容も知らされず拉致されたんだ。1ヶ月間も拘束されたんだ。それよりはマシだ」
「それは誰からの指示で?」
「あれの命令で。お前もあれには警戒するといい」
『蒼炎』のチームリーダーはそう言って外へ出て行った。それに続いて『酒宴』のチームリーダーも何かしら行って外へ出て行った。
「さて、俺も行くか」
「待て。お前には直接話さなければならないことがある」
会議室の出口の反対側の扉が開き、ギルドの奥へ連れて行かれる。
「お前、何モンだ?人間だ。という答えは受け付けない。紅龍や藍竜と契約したって話は何度か聞いたことがある。
だが、7大龍と契約したものは誰1人いない」
「…………」
「お前を鑑定してても所々空白で、唯一見えた討伐適性ランクは推測不可。お前は本当にこの地上で暮らす生き物なのか?はっきり言ってお前が「俺は神様だ」とか言っても驚かない」
「…………さあ?たぶん、人よりも魔力が少し多いごく普通の少年じゃないか?俺も自分の種族のことはよくわからない」
「そうか………言いたくないならいい。解散だ」
俺は部屋から出て安堵した。わかる人でよかった………。
種族は古代神/超越神。この種族名は出さない方がいいと思う。
古代神はある時を境に急激に数を減らし、滅んだと言われている。
その滅んだはずのものがこの世に現れたらどうなるか?
斬られたり、バラバラにされたり、液体に浸されたりするかもしれない。でも、そう簡単に実験体になってあげるほど俺は雑魚ではないが。
心の中で色々と考えながら歩いていると、クロアが立っていた。
場所は最初に会った人のあまりいないところではなく、いつも人が多くいる屋外練習場だった。
彼女の視線は、目の前で戦っている2人の剣士に向けられて居た。
奥にいるのが少し歳を取った男性、近くにいるのは若い男性だ。
見た感じ、若い方が負けている。
この人の方が弱いのかと思ったが、次の瞬間、形勢は逆転した。
歳を取った男性の剣は弾かれ、宙を舞う。
攻撃手段を失った男性の喉に剣を突きつけ、クロアの「止め!!」の合図により模擬試合は終了した。
「こんにちは」
「君は……」
「天魔です」
「天魔君、レガルト山脈討伐戦ではよろしく。私の名前は前に言っただろうが、クロア。横にいる勝った方がユイア、負けた方がスログだ」
「「よろしく」」
「よろしくお願いします。ユイアさん、スログさん」
「そう言えばリーダー」
ユイアが俺を見て
「この人強いんですか?」
と聞いた。
「天魔君、悪いけど彼と戦ってくれないか?」
「わかりました。ルールはこちらで設定させてもらいますね?
1,戦闘は魔法は禁止、剣術のみで行います。
2,相手を気絶、降伏させたら終了とします。
で構いませんか?」
「構わない。リーダー、合図をお願いします」
「わかった。この銀貨が音を立てた瞬間スタートする」
クロアは銀貨を取り出し、弾いた。
宙に舞う銀貨はくるくる回りながら落ちていき、いつも煩いはずのこの空間にお金が落ちた時になる音が響いた。
その瞬間、勝負は始まった。
先に動いたのはユイアだった。
彼は両手剣で戦う人らしく、実力ではAAAランクぐらいらしい。だが、依頼を受けていないのと、AAAランクの試験管が強いこともあって中々上のランクになれないそうだ。
俺はその彼の攻撃をひたすらよけ続け、様子を見る。
「今回の討伐戦に参加すると聞いていたから相当な実力者だと思っていたが、こんな臆病者とは……」と、罵り、「言い返しもできないのか」と俺を見下した。
観戦していたスログが止めようとしたが、ユイアの睨みで黙ってしまった。
「リーダー、俺はこんな奴と一緒に行動しないといけないのか?」
「関心しないな、戦闘中に余所見をするとは」
「ッ!?」
ユイアがクロアと話している最中に俺は気配を消して彼に斬り掛かった。が、気配の消し方が甘かったようでギリギリのところで気づかれてしまった。
「いつの間に…ま、待て!!」
「知らん」
俺は無言で剣を振るい、彼はそれを必死で凌ぐ。
彼は「待った」と言うが、これは降伏するという意味ではないだろう。
これは「どうやって自身の背後に回ったかを聞いている」のだと思う。
もちろん、答える気は無いので、彼が自身で生み出した隙を利用して追撃する。
「何故俺が押されて……」
「全くそれだからお前はAAAランクに上がれないんだ」
「それはどうい……」
ユイアの言葉は続かなかった。
俺は戦闘中にお喋りをする彼を手刀で意識を失わせた。
クロアはユイアにこう言いたかったのかもしれない。
「戦闘中に余計なことを考えるから、隙をつかれて負けてしまうんだ」と。
「申し訳ないね、彼に気付かせる機会が欲しくて」
「構いませんよ。では自分はこれで。武器の手入れなどがあるんで」
俺はそう言って宿屋に戻った。
明日にはもう、魔獣と戦っている……。
負けることはないだろうけど、集団戦はしたことがないから色々と迷惑をかけるかもしれないな。
俺は不安を抱えながらも明日の準備をした。
11月は忙しい月になりそうだ……。
次回投稿、2014年11月3日9時。都合により若干短め?