冒険ギルド レガルト山脈産魔獣軍殲滅戦〈3〉
天魔の邂逅
冒険ギルド レガルト山脈産魔獣軍殲滅戦〈3〉
雲ひとつ無い青い空に炎を纏った龍が水を泳ぐように飛んでいる。
その龍の背中には人の姿があり、彼は街で買ってきた焼き鳥を食べていた。
「あー…最後の一本かぁ……炎龍、近くに鳥いない?」
「そうだね……20km先に何か大きな魔獣の群れがあるから、それを撃ち落として料理しようか。僕もお腹が空いていたんだよね〜近くで美味しそうなものを食べられると更に腹が……」
炎龍は最後の焼き鳥を見つめる。
俺はその視線を追い、どこに向かっているのかわかったので焼き鳥を隠した。
「やらん。これは絶対にや──あっ!!」
炎龍は上に急上昇し、一回転をして元の高度に戻る。その間に俺は焼き鳥を落としてしまった。
せこい奴め。まあいい、俺には銀貨8枚払って買ってきた焼き鳥タレがあるんだ!
竜でも調理して喰ってやる!!
「なんか寒気がしたんだけど」
「気の所為だ。そんなことよりあの鳥撃ち落とすぞ」
「グリフォンに失礼だよ。ま、グリフォンなんて所詮僕達7神龍の主食。僕達は魔力で生きていけるからあまり食を嗜むことはないけど、週に10体は食べていたんだよね」
「骨も残さず?」
「骨?ああ、出汁を取るのに使ったよ。結構美味しいんだよ?グリフォン」
「龍の美味しいって人間で言う不味いにあたることがあるから飲むのは遠慮しとく」
本に乗っていたが、ある龍はミミズを喰い、ある龍は人を喰らう。
絶対不味いだろ……と思うが、それは彼ら次第なので味のわからない自分が勝手に決めては悪いので例えを出さないでおく。
いや、一つだけ例えていいものがあった。あれは8歳の時だったか炎龍が美味しいと言っていたスライム。あれは不味かった。いろいろと調理して見たが食感が気持ち悪い。
何かヌメってしているんだ。ゼリーとは少し違うどう言えばいいんだろうか。とにかく、龍と人は好みが違うわけだ。
「確かに、スライムの件は悪いと思うよ?でも、僕は好きなんだよ。スライムの核が」
「え?炎龍そん時核くれなかったよな?」
「あ……それ食べれない部分。もしかして食べた?不味いでしょ、ヌメヌメしてて」
「そうかそうか、なるほど……」
あの時の炎龍知ってて食わしたな……?
天魔の周りに魔力が漏れ始め、時々術が発動しかけたりと炎龍を怖がらせるには十分で丁度いい熱さだった炎龍の上は火が消えかかり、冷たくなって行く。
「ごめんって。ほら、謝ったでしょ?だから許し───」
この後、炎龍の体に雷が落ち、下には焦げた森と翼等が麻痺して飛べなくなった炎龍の姿があった。
「全く酷いよ」
「酷いのはお前だ。まあ、スライムの件は許してやろう。だが、鳥共はどこに行った」
「さっきの落雷に警戒して姿を眩ました」
「それって……俺のせい?」
「…………」
炎龍は無言で頷く。
そうか……俺が悪かったのか……。少し手加減して見たんだけどな……。
過ぎたことは仕方ない。
付いたら真っ先にゴブリンを潰して戦利品を貰うとしよう。
ゴブリンの巣にあるものだからせいぜい新人冒険者から剥いだものだろうが。
「とりあえず鳥はいいや。村まで後どれくらいだ?」
「後1時間ぐらい。今長って思ったでしょ?そして僕のこと遅って思ったでしょ?仕方ないよ。だってこの国、連邦国は都市国家創始樹の守護者を首都として西に1400km東に3000km、南に1500km、北に1700kmあるからね。それでも勇者で有名な帝国ほど広くないけど。帝国は少し前まで連邦国の100分の1もなかったんだけどやっぱり勇者という戦力があるからかな」
「いつも思うんだけど少し前って数百年前のことだよな?長生きしていることだけあって数百年前を少し前って言えるんだ〜?
それと、勇者って詳しく言うとどんなやつなんだ?」
前に言ったかわからないが、もう一度言っておこう。
こいつ、炎龍が言うには異世界から拉致……脅迫し……お願いして来てもらった戦r……女神の力を宿した人たちのことらしい。
彼らはたった1人でS級魔獣を倒すことができ、今までで一番強かった奴は大国を一つ滅ぼしたそうだ。
そんな力を宿した彼らはある一定の魔獣を倒した後、英雄にしたて上げられ、様々なおもてなしを受けて洗脳される。
洗脳を受けた勇者はもはや人間兵器。
例えばA国が「上級悪魔を召喚して我が国に攻めて来た!直ちに討伐に向かえ!!」といえばあら不思議、たった2日でその国の首都が焼け野原。そして滅んだ国を併合して次の得物を狙うと言った具合だ。
こういったことを繰り返し、今では大陸一と言われるほどの国土を持っている。
近年では、隣国であるこの国やトワイライト帝国、海の向こう側にある魔大陸と小競り合いを繰り返し、更には天空都市も支配しようと日々争いを繰り返している。
勇者さえいなくなれば今頃帝国は地図上には存在していないだろう。
また、帝国には勇者以外にも他国を圧倒できる者が存在している。
誰も見たことが無い。いや、その姿を見て生き残れた敵兵がいない。
その存在とは"神"だそうだ。
なんでも、自身のことを神と言うかなり痛い人?らしい。
だが、その神?は龍のブレスを受けても平然とし、7大龍の一角、地龍を瀕死にさせたことがあると言われ、本当に神なのかもしれないとされている人である。
「用は、馬鹿なんだな。にしてもそれほどの腕があるのなら数人くらい勘付いて裏切ったやつもいるんじゃないか?」
「もちろんいるよ。例えばギルド総合本部がある国、和国アマテラスを作ったのは初代勇者で、その隣にある神獣国鳳凰も勇者が作った国。まあ、それらは別の大陸にあるんだけどね。
これ以外にも近くにあるといえばトワイライト帝国。この国も勇者の1人が作った国だよ」
「やっぱり居るのか……帝国はそいつらに何か行動を起こしたのか?」
「勿論。ま、負けて行ったけど。裏切ったやつの大抵、とんでもない力を手にしていたから普通の勇者が束になったくらいで瞬殺されちゃうよ。実際、4代目勇者は裏切り者以外だれ1人生きていないからね」
「強いな」
「うん、強いんだよ。天魔も気をつけた方がいいよ。っと、到着したよ。近くに森に降りるね」
「わかった」
炎龍から降り、紋章に戻した後、森から出て村へ向かった。
村には屈強な男、3人が門番についていた。
「この村に何の用だ」
「ゴブリンの討伐に来ました」
「ついて来い」
中で一番背の高い音がそう言って俺はその人の後ろについて行った。
その先には一軒の家が立っており、男はノックをして扉を開ける。
「入れ、村長がお待ちだ」
この扱いに少し不満を覚えながらも家の中に入る。
そこには優しそうな顔をした一人の男性が立っていた。
「君がゴブリン討伐の依頼を受けてくれた冒険者かね?」
「はいそうです。ゴブリンを一体残らず灰にしましょう。それで巣はどこですか?」
「もしかして今から向かうきかい?それはやめといた方がいい。この家の裏に一軒空き家がある。そこで一日ゆっくりして行くといい。巣に関しては明日詳しく話そう」
「わかりました。失礼しました」
俺は村長宅から出て、言われたとおり裏にある家にお邪魔する。
「ゴブリンの巣、制圧にどれくらいかかるかわかるか、炎龍」
『そうだね〜、30分ってところじゃない?それといいつけ通り、調べておいたよ。この村の近辺にはゴブリンの巣が5つあったね』
「5つ!?多くないか」
『多いと思うよ。魔力で調べてみたところこの村の地下には龍脈があるみたい。それが主な原因かもね。それと、豊富な食糧。いいたくないけど、ゴブリン達はこの村の村人を食糧としか見ていない感じ』
「わかった。夜襲とかあったら起こしてくれ」
俺はそう言って眠りについた。
……………が、予想していた通り、真夜中、ゴブリンの襲撃が始まった。
『行かないとね』
「そうだな」
俺は家の戸を開け、村の中心へ向かって歩く。
すると、そこにはゴブリンの群れが村人の家に入ろうとしていたところだった。
「回れ風よ、螺旋風」
俺の手から放たれた風は、最初は微風程度だったが、徐々に勢いを増してゴブリンへ近づいて行く。
それを見たゴブリン達は我が先にと逃げ出すが、群れの真ん中から風に飲まれ、空へ放り出される。
ゴブリン達は漸く身動きができると少し安堵していたが、直ぐに自身の状態に気づき、受け身をしようとする。が、それを俺は下から風の球で撃ち落とし、次々と倒して行く。
俺の通り過ぎたところには、ゴブリンの死体が積もり、それもまた、生き残ったゴブリン達の恐怖の元となった。
「さて、さっさと巣を破壊するか」
『ちょっと待って!!北側の入り口方もゴブリンに襲われて居るみたい!
数は……400』
「400?多いな……流石に面倒だ。よし、炎龍。村に影響がないくらいにブレスを吐いて一体残らず殺して来い。終わったら合流しろ。俺は一足先に巣にアレを置いてくる」
『アレね。2年間改良を続けて漸く完成したアレの実験をするんだ』
「そうだ。時間で言えば10分で制圧完了と言ったところだろ」
炎龍を召喚して指示を出す。
指示を受けた炎龍は北側の入り口へ飛んで行った。
それを確認した俺は村と外を仕切って居る塀を越え、森に侵入する。
予め把握していたゴブリンの巣に近づき様子を伺う。
「見張りはいないな?なら、早いことこいつを設置して残りの巣にも……」
俺はこの巣の奥まで行ったが誰も居ず、ただ巣を壊すだけど終わった。
残念だと思ったがまだ巣が4つある。そのうちのどれかはいるだろうといろいろと侵入して見たが、4つ目も同じ結果となり、嫌な予感がして来た。
「最後の一つ。どうか、ゴブリンが残っていますように」
そう言って巣の中に侵入する。
すると、ついに、ゴブリンと出会うことができた。
ゴブリンの目の前にいると言うのに気づかない。まあ、気づかないようにして居るから気づいたらそれはそれで問題なんだが。
「これが最深部か?臭いな……早めにアレを置かないと」
アイテムボックスから小さな瓶に入ったスライムのようなものを取り出し、壁に叩きつけ、中のものを外へ出す。
外に出たスライムのようなものはゴブリン共の食べ物に忍び込み、食べられるのを待った。
「これでゴブリンは終わったな。この後来るの面倒だし、明日改めて回収するとしよう」
俺は静かにここから離れ、村へ戻るのだった。
天魔が村に戻った頃、ゴブリンの巣ではスライム擬きが次々とゴブリンを捕食していた。
『相変わらずマスターはスライム使いが荒い』
スライムはそう言って素材を剥ぎ取りつつ、次の獲物を探す旅に出て行った。
『にしてもどうして俺たちに進化の宝玉を使ったんだ?所詮俺たちはスライム。何代目魔王だったがが作ったスライムの一部に過ぎない。ただ話せるだけじゃないか』と独り言を言いながら。
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名前:ディスピア
種族:スライム(人造)
説明:人造魔獣スライムαの一部から生まれた。
命と言っていい核を改造された結果、自我を持つようになった。
また、攻撃をする際、姿を消し、危機を感じた際、体が縮小する。
討伐ランクは不明。
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確かに話せる特別な力があるが、それだけではない。機会があればスライム視点の話でも出すとしよう。