魔都イビルノヴァ〈3〉
天魔の邂逅
魔都イビルノヴァ〈3〉
Dブロック決勝でウル・テハロンヒアワコを打ち負かした天魔はそれぞれのブロックの勝者と戦うことになったのだった。
「次の対戦相手はクライン・ハーシェルか……」
クライン・ハーシェル。彼は魔国の北部辺境を治めるハーシェル辺境伯の次男だ。
ハーシェル家は長男が継ぐことになっているので彼はよく人間のいる大陸で冒険者をやっているらしい。
「テンマ・カイドウ」
と自分を呼ぶ声が聞こえた。
テンマ・カイドウとは天魔が獣人の国に住んでいた時名乗っていた名前だ。
それを知っているのは限られている人なので警戒しながら振り向く。
「何か?」
「向こうにいる時、討伐戦に参加したそうだな」
「まあな。それがどうしたと?」
「なんでもない。島亀を倒したその実力楽しみにしている」
クラインはそう言って去っていった。
天魔は彼が本当は自分に何を言いたかったのか分からなかった。
ただ彼が言っているのを聞く限り自分の過去を知っているようだった。
どこかであっているのかもしれないと思った天魔は自分の記憶を探ることにした。
(……誰だろう)
と、探っていると、
『間も無く、天魔選手対クライン選手の試合を開始します』
というアナウンスがかかった。ので、天魔は急いでフィールドに向かうことにした。
「すいません。遅れました!」
天魔は間に合いそうになかったので転移を使ってフィールドに現れた。
急に現れたせいか、観客たちは驚いていた。クラインは驚いているようではなかったが。
『天魔選手、これからは間に合うようにしてください』
「申し訳ございません」
と、少しのやり取りをして定位置についた。
「まさか、転移阻害魔法を破ってくるとはな」
「転移阻害魔法?」
「名前の通り転移を阻害する魔法だ。この魔法は国の大事な施設や場所に張られていることが多い。その他にはダンジョンとかもそうだな。
考えてみろ。ダンジョンマスターとしてはいきなりダンジョンコアの元に転移されたら困るだろ?
だから転移阻害魔法を張るんだ」
と、クラインは当たり前だといった顔で話す。
『双方準備は整いましたか?』
2人は頷いた。
それを確認した司会者が『双方の合意が取れたので試合を開始します』と言って試合が始まった。
「行くぜ!古き盟約に従い、我の前にその力を顕現せよ!【不死鳥】」
突如、地面に魔法陣が出現し、大気中の魔力を吸収し始めた。
そして、魔法陣の中央が輝いていき、炎を纏う鳥がこの世に顕現した。
「不死鳥よ!我、クラインとの盟約に従って敵を一掃せよ!!」
クラインが指示を出すと鳴き声をあげて天魔に突っ込んでいった。
それを見た天魔は焦ることなく行動した。
「従え!!【精神支配】」
不死鳥はピタッとその場に静止した。
が、再び天魔のいる方向へ動き出した。
「無駄か。なら、こちらも【召喚】だ!!」
天魔の目の前に炎龍が顕現した。
炎龍は咆哮して不死鳥を威圧した。
「くっ……不死鳥!!」
クラインも巻き添えを食らって怯んだ。
その隙を見逃すほど天魔は馬鹿ではない。
態勢を立て直す前に目の前まで距離を詰めてサッカーボールを蹴るように思いっきりクラインの股間を蹴り上げた。
「〜っ!!」
彼は自身の股間を抑えて声にならないほどの悲鳴をあげた。
それを見ていた観客の中の男性陣も同様に顔を青くして自身の物を抑えていた。
「……不し……ちょう…、俺のこと、は気にす、んな」
言葉が途切れ途切れになっている。
余程痛かったことであろう。
恨めしそうに天魔を睨みつける。
天魔は全く気にしていない様子で炎龍の隣に立っていった。
しかし、炎龍は気にもされない彼を見て憐れな人を見る目で見つめていた。
「馬鹿にしやがって!!」
と、顔を赤くして怒るが、足が生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていて大して恐ろしくなかった。
その憐れな様子を見て鼻で笑った天魔の背後から不死鳥が襲いかかった。
「効かないよ」
その言葉を不死鳥が聞いた瞬間、不死鳥の体が真っ二つに切れた。
まあ、不死鳥にはいくらバラバラにしても回復されるのであまり意味はないのだが。
「炎龍、不死鳥の相手を頼んだよ。
俺はあの憐れな人と戦うから」
天魔は歩くこともできないクラインの目の前に立ち、手を突き出した。
ただでさえアレをやられて動けないのに……と、観客たちはその行く末を見守っていると予想外のことが起きた。
「癒せ、【治癒】」
流石にアレをやられたことが原因で敗北したとなるのは可哀想と判断したのか、回復魔法を行使した。
痛みが和らいで安心したような顔をする。
が、それを見て邪悪な笑みを浮かべた人物がいた。
「縛れ、【束縛】」
「なっ!?」
「そう簡単に逃がしてやるかよ。今度は魔力強化も付与して蹴ってやるからよ」
フィールド中に1人の魔族の悲鳴が響くのだった。
地獄の時間が始まってしばらく経った頃、クラインは息絶え絶えとしていた。
もう少しで新たな世界の扉が開いていたかもしれない。
そうなっていたらいくら攻撃方法があったとしてもお手上げだ。
「まだ降参しないか」
「降参するわけないだろう。男の象徴を潰された今、俺にはもう誇りなんてものは存在しない。
これから、本気を出させてもらう!!」
「その様子で言われてもな……。
でも、その本気というのに興味がある。幾らでも攻撃してくるといい!!」
クラインはどこからか剣を取り出して言葉を紡いだ。
「不死鳥よ、我が根源を糧にその力を我が身に宿せ!!【融合】」
不死鳥は光となって剣やクラインに吸収されていった。
その直後、異変が起きた。
「ぐっ……俺はやるんだ……」
唸り声をあげながら、自身の変化に堪えようとする。
外見は茶色い髪に褐色の瞳をしていたが、髪は紅く染まり、瞳は紅く煌めいている。
それに加え、体の半分が炎とかして攻撃しても即時回復と厄介な状態となっていた。
「どうだ。融合の力は……!!」
「想像以上だ。まさか、本当に融合するとはな!
でも……かなり体に負担をかけているんじゃないか?」
見た所、そうでもなさそうにも思えるが、魔力の流れを観察してみると、クラインの体に流れる魔力が弱くなっているのがわかる。
「燃やし尽くせ!!【冥炎の舞】」
怪しい炎が剣を包み込んだ。
炎を纏うその剣は宙を舞って敵を突き殺さんと物凄い速さで飛んでいく。
「我が身を守れ!【多重結界】!!」
念には念をと結界を5重に張った。
パリン……という音を立てて結界は壊れ、結果3枚壊れ、失うことになった。
「融合って面倒だな……。このままお前が倒れるのもいいかもしれないが、面白くない」
「面白くないか……。戦闘に面白さを追求するとは俺には考えれないな」
「別に賛同してもらおうと気はない。それだけとは言わんよな?もっと面白い物を見せてくれよ!!」
「ああ!とことん見せてやるよ!!
消し去れ!!【爆翔焔陣】」
何もないところに魔法陣が出現してそこから炎が勢いよく噴き出した。
「まだまだだ!!【十字放射】」
いろいろなところに魔法陣が展開してそこから噴き出した炎が天魔を襲った。
しかし、その炎は方向転換が行われ、魔法の行使に夢中になっているクラインに向けられた。
「構うものか!!【灼熱炎舞】」
この魔法が発動した瞬間、フィールド中が炎に包まれた。
観客たちを守る結界は半壊し、如何に強力な魔法かを物語っている。
炎が鎮火したところには少し火傷した天魔と無傷の炎龍、魔力をほとんど使い果たして倒れているクラインの姿があった。
不死鳥は既にこの世界からいなくなっている。
「さっきの攻撃は恐ろしいね。久しぶりに肝を冷やした」
「そんな余裕そうな顔で言われてもな」
「それもそうか。さて、いつまでもこの戦いを続けるわけにはいかないから退場を願おうか」
天魔は防ぐことのできないクラインに容赦なく攻撃した。
その攻撃が致死ダメージと判断されて強制的にこの場から退出することになった。
今回の戦いは相手の魔力切れだったのでいまいち満足していない様子であったが、無事に試合を終えたのだった。
今日行われる試合が全て終わり、フィールドには多くの魔術師がやってきていた。
今回彼らがここにやってきたのは天魔とクラインの戦いで半壊した結界を元に戻すためだった。
「そろそろここにある結界の段階を上げないとな」
と、壊れた結界を見て運営者が呟いた。
何かを考えるような仕草をして言った。
「変更だ。報酬は今回の4倍払う。その代わり明日明後日使う予定のフィールドの結界を増強しろ!!」
明日行う試合はA対D、F対Gだ。
準決勝とあって今日よりも激しい戦いが予想される。
そんな戦いの最中、結界が壊れたらどうするか?
死傷者が出れば賠償金を払わなければならない。そのほかにもよりによって魔王の目の前で失敗し、恥をかくことになる。
そのためにはやはり結界を強くしなければならない。
多くの金を失うのは痛いが、仕方ないと運営者は思っていた。
「3/1」2/24から学年末一週間前となったため、次回投稿が遅れます。




