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『WWW』~World Wide War~  作者: クローバー
第一章 始まり
3/6

初戦

さて、早速戦いが始まります!俺たちの戦いはこれからだ!はい、なんでもありません。

 夏貴はすぐに三原に電話をかけた。二回のコールのあとにつながる。目の前にディスプレイが浮かび上がり相手の顔が写っている。


「おいこら!アバターが女ってどういうことだよ!」


 すぐさま三原を怒鳴りつける。しかし、声が女のものになっていて全く怒気がない。


『おー。随分と可愛くなっているじゃないか。』


「ふ・ざ・け・る・な!もうやんねえからな!」


『まあまあ、そう言わずに頼むよ。これは必要な事なんだよ。』


「必要なこと?」


『ああ。もし君が私に協力していることが向こう側にバレて君自身だけじゃなく、周りの人間に被害を及ぼしたくはないだろう?』


「いや、ちょっと待ってくれ。一体お前は俺に何をさせたいんだ?向こう側?どういうことだ。」


『そうだったね。まだ説明がまだだったね。説明をしよう。心の準備はいいかい?』


「ああ。始めてくれ。」


『いいだろう。今や世界的に使われているVRシステムだが、これを開発したのが「カニカラTOY」だということは知っているね?』


「ああ。」


『ところがこのVRシステムだが、発売当初から不具合があるのか体調不良者が数名出た。このVRシステムはネット回線につなぐことで家にいながら実際体を動かしているような状態になれるため、仕事などにも使われたりする。ところが長期使用により体に異常が出たというケースが数件あったんだ。そこで私たちはVRシステムと、カニカラTOYを調査した。しかし、異常はどこにもなかった。そんな時に、カニカラTOYがゲームを発売しようとしている。これは何かあるんじゃないかと思って調査をしようと思ったんだ。』


「そんなこと自分たちですればいいじゃないか。」


『前も言ったがカニカラTOYの暗部にことごとく邪魔されてしまう。さらに、一度調査に失敗しているせいで警戒されてなかなか私たちではできないんだ。』


「それで俺に協力をしてもらおうってわけか。」


『ああ。というわけで頼んだよ。』


「断る。明らかに危険じゃないか。」


『そうかもしれないな。だが、それなりの報酬がある。』


「報酬?」


『君には、妹がいるね?3年前交通事故で意識を失って入院中。手術代がなく、母親が働いて稼いでいるそうじゃないか。父親が亡くなっていると大変だね?』


「・・・・。」


『具体的な金額はまだ言えないが、それなりの報酬は用意する。どうだい?』


「手術代としては足りるのか?」


『十分だ。』


「・・・いいだろう。協力する。」


『そう言ってくれると思っていたよ。』


「ところで、具体的に何をすればいい?」


『それなら心配しないでくれ。普通に遊んでくれればいいよ。私たちで君を常にというわけにはいかないが、監視、サポートをしていく。』


「わかった。」


『それじゃあよろしく頼んだよ。』


 そう言って三原は電話を切った。


「春香・・・。」


 夏貴は妹のことを思い出す。3年前父親と一緒にアメリカに行く途中、飛行機が墜落して父親は死亡。運良く生きてはいたものの、意識を失い、重症だった。現在近くの病院で入院している。未だに満足な手術が受けられず、意識が戻っていない。手術を受けさせるために母親は毎日朝早くから夜遅くまで必死に働いている。夏貴が高校に通えるのも母親のおかげだ。しかし、この調査で金が入るなら、それほど嬉しいことはない。


「よし、とりあえず、やってみるか。」


 特に何をしろと言われたわけではないのでとりあえず進めていくことにした。このゲーム、『WWW』はできないことがないというキャッチフレーズ通り、職業の幅が広く、クエストも豊富だ。また、ゲームの楽しみ方も人それぞれで、VRを利用して、様々な遊びができるようになっている。しかし、詳しいことは公式サイトにはあまり書いてなく、実際にやってみないとよくわからない。


「まあそんなことは置いておいて、・・・・ここどこ?」


 公式サイトには詳しいことは書いていなかったが、チュートリアルの説明はあった。最初は、サルディッシュという村の村人として過ごしていたところを、モンスターに襲われ、村を守るために戦うというのがチュートリアルなはずだ。しかし、今夏貴がいるところは家どころか人が一人もいない。周りは草原と樹木。見晴らしがいい代わりに隠れるところが少ない。


「バグか・・・?」


 サービスが始まったばかりということでバグが多いのかもしれない。しかし、チュートリアルができないのでは進めることができない。


「くっそー困ったな・・・ん?」


 視界の端で何かが動いた。見間違いではない。緑一色の風景の中に、一箇所だけ灰色の部分がある。


「おいおい・・・勘弁してくれよ。」


 そこから顔を覗かせたのは一匹のネズミだった。しかし、勿論、ただのネズミではない。体長はしっぽを含めれば優に1mを超え、目は赤く、光っている。赤黒い口には鋭い牙がついている。手足は細く短いがこちらも鋭い、爪がついている。

 夏貴は自分の装備を確認した。もし、使えるものがあればきっとそれで倒せる。おそらくその程度で倒せればこれがチュートリアルということだろう。説明もなしに戦わせるとはなかなか粋なことをしてくる。ところが現実はそんなに簡単ではなかった。現実じゃないけど。


「武器、無し。か。」


 明らかに腰には何かぶら下がっていそうにない。体をくまなく探ってみるが、武器らしいものは見つからなかった。そもそも今来ているものはサンダル、古びたシャツとパンツ、それと髪留めという、なんとも心もとないものだった。


「これは・・・・・・逃げよう。」


 今、夏貴は巨大ネズミと向かい合っていて、敵はさっきから全く動いていないが、明らかにこちらを警戒している。下手に動くと襲われてしまうだろう。そこで夏貴は、熊と出会った時の対処法である、向かい合いながら後ずさる大作戦を決行することにした。


「動くなよ~。俺は何もしないぞ~。」


 そう言いながら夏貴は少しずつ後ろに下がる。少しずつ巨大ネズミとの距離が広がる。そして夏貴は巨大ネズミとの距離が30m位のところまで来た。しかし、やはり、後ろ向きに移動するのには無理があった。


「・・・・ぬお!」


 夏貴は足元にあった岩に躓き、バランスを崩す。その瞬間、均衡が崩れた。巨大ネズミが夏貴めがけて突進をしてくる。


「くっそ!」


 体勢を立て直した夏貴は後ろを振り向き駆け出した。ネズミとの距離は20m。さっきの一瞬で一気に差が縮まった。しかも、ネズミはものすごいスピードでこちらへ向かってくる。夏貴は全速力で駆ける。だが、ネズミとの距離は縮まるばかりだ。


「んのやろう!」


 夏貴は近くに落ちていた手頃な木の棒を拾うと、ネズミと対峙した。既に敵との距離は10mにまでなっていて、夏貴が振り向いた瞬間飛びかかってきた。夏貴はそれを横に倒れながら避ける。ネズミが着地したところめがけて木の棒を振り下ろす。ネズミの脳天に綺麗に入った。


「やったか!?」


 大体この言葉を発する時は生きている時である。この時も例に漏れずネズミはまだ倒れない。しかし、かなりの体力を削れたようで動きが明らかに遅くなっている。


「もう一発!」


 次は確実に仕留めるため、両手で木の棒を振り下ろす。しかし、そのせいで一瞬の隙ができ、腹にネズミの体当たりを食らってしまう。


「ぐはっ」


 夏貴は後ろに吹っ飛ばされる。体当たりを腹に食らい、吐き気を催す。痛みは想像を絶し、気を失いかけた。なんとか踏ん張り、立ち上がる。ネズミは止めとばかりにこちらへ再度突進をしてくる。


「・・・・!」


 その瞬間、夏貴は体に異変を感じた。体が、軽い。さっきまでとは比べ物にならないほど動きやすくなった。ネズミの動きも遅く感じる。時間が止まっているかのようだった。夏貴は木の棒を構え、水平に振った。すると、ネズミは上下二つに分かれた。その切り口はとても木の棒で叩き切ったとは思えないほど綺麗な切り口だった。ネズミの体が地面に着くと血が飛び出した。夏貴はその返り血を浴びる。


「なんだ・・・・これ?」


 夏貴は自身の体の変化に困惑していた。今はなんともないが、さっきのは明らかに人間のできる動きを超えていた。


「やっぱ現実とは違うんだな・・・。」


 先程まで現実と同じようなことしかできなかったため、ゲームであることをすっかり忘れていた。しかし、これがゲームであることを思い出すと、楽になった。


「実際に死ぬわけじゃないしな。気楽にできるじゃん。痛いけど。」


 きっと、装備とかをちゃんとすればこの痛みも和らぐだろうし、モンスターも倒しやすくなるだろう。


「ん?」


 さっきまでネズミの死体があったところに肉片と四角いカードのようなものが落ちていた。まず、肉片を掴む、すると視界の端にウィンドウが出てきて、「スモールマウスの肉片」と表示された。


「これはドロップ品か。ってことはさっきのやつはスモールマウスってモンスターなのか?あれでスモールかよ・・・。」


 1m超のネズミがスモールなんてさすがゲームとしか言い様がなかった。次にカードのようなものに触れる。するとそれはすぐに溶けるようにして消えていった。


「あれ・・・?なくなった・・・?」


 触れたら消えてしまったため、よくわからなかった。とりあえず、残ったのは肉片と拾った木の棒だけになってしまった。


「木の棒はもって運べばいいけど、この肉、どうすっかなー・・・。」


 カバンを持っていないため、入れるものがない。


「しょうがない。これはおいていくか。」


 仕方なく、肉は拾わずに置いていくことにした。とりあえず今はここを一刻も早く離れるべきだ。血の匂いを嗅ぎつけて別のモンスターがやってきたら厄介だ。夏貴は肉片を捨てて歩き出した。

ありがとうございました。最初は説明を交えながらしないといけないので大変ですね。

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