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きつねのおでん屋  作者: 天空 満月
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第1話 神隠し

きつねのおでん屋

1話 神隠し


その昔、神隠しを生業にしていたきつねは、

美しい魂の子供を見つけると、

神様の所に連れて行き、記憶を取り、新しい記憶を植え付けた。


その子の名は、陽子。10歳の女の子。

男の子のように肌は黒く、おかっぱ頭で、前髪はギザギザ、

周りからは、醜い子と言われて、いつも、仲間外れになっていた。


いつも周りとは、時の流れが、違っていた。


いつも、からかわれるのは、自分がなぜそんな姿なのか、

目だけ光って、真っ黒なのか、

どうして、なのかと、母に聞くが、いつも静かに笑うだけなのでした。


近所のおばさんは、

「間違えて生まれてきたんよ。男の子やったらねえ。上の子は男の子やのに、小さくて体も弱いらしいんよ、ほんと、かわっとったら、あん、嫁さんも、あれだけ口の悪い小姑に、いじめられんで、すんだにねえ。」こそこそとうわさする。


陽子は、小さいときから私が見にくいせいで、

お母ちゃんが、近所のおばちゃんたちにいじめられていると、知っていた。

こんなふうに醜く、自分はなぜ生まれてきたのか。


鏡を見るたび悲しい気持ちになるのでした。


陽子は、孤独でした。

いつも、けんか腰で、いつも、何か気に入らない、思った言葉が、

思うようには出てこない

不機嫌な女の子でした。


いつも人と時の流れや、感じ方が違った。


ある日、学校で、国語の時間にテストがあった。


課題に出された、「雪が溶けたら、何になる?」

という質問に、陽子の答えた。


答えは間違いで返された。


答えは「水になる」が正解だった。


しかし、陽子は、「春になる」と答えた。


けして間違いではないけれど、このテストの答えは

決まっているから間違いだと言われた。


「間違いは、間違い」大きな声で怒鳴られた。


みんなに、笑われた。


国語は嫌いになった。

その先生も、学校も、家も、何もかも。

なぜか、涙は出てこなかった。


すこし感性の違う子供だった。


言葉は、好きなのに、なぜ、心は皆に伝わらないんだろう。

本当は、仲良くしたいのに。

また、陽子の顔は、下を向いた。


そんな、陽子がいつものように、

田んぼのあぜ道を歩いて帰る途中。

しなだれた稲穂にぴかぴか光るものを見た。

「あ、きつね」

きつねはしばらく陽子を見つめた。

陽子は、一瞬このきつねの目、見たことがある。

そう思った瞬間、体から、力が抜け、意識がとうざかっていく。

あたしは、このまま死ぬのかな。

なんだか、心地いい、暖かさを感じた。

気が着くと陽子は、小さな祠の前で倒れていた。

もう、まわりは、うす暗く、

夕暮れ時にはなっていた。



眠っている間に夢を見た。

赤い鳥居をいくつも抜けて、

金色の狐を追いかけた。

息が切れ、追いつけないと思うと狐は立ち止まる。

まるで、ついておいでと言われているように、また、走り出す。

神社のようなお宮さんの前を、通り抜け、

猫の占い師と書かれた看板を通り過ぎると、

きつねは立ち止まった。

ついた先は、

黄色い暖簾には、「ぎんなん堂」と書かれていた。

なかから、賑やかな声がする。

美味しそうな、しあわせなにおいがする


暖簾をくぐり、きつねは人のように二本足で入って行き、

手招きをした。


こぎつね「はやく、入りなよ」


(きつねが、しゃべった。狐がしゃべる言葉が、わかるんだ、あたし)

すこし、嬉しい気持ちになった。


陽子「ここは、どこ?」

こきつね「いいから、いいから、はやくおいで」


こぎつねに、背中を押されて、

中に入ると、大きな長いカウンターにアツアツのおでんが、

所狭しと、ならんでいた。

ふらふらと、引き寄せられ出ようにおでん前に立つ陽子に


大狐は、「いらっしゃい。めずらしいね人間の子供とはね。

最近では、とんとみかけなかったが、

おなかすいてんのかい?おでん食べるかい?何にする?」

陽子は「たまごがいー」という

大狐は、「では、ひとつ、、、。でも、ただでは、このおでんはやれないね。」

陽子「でもお金は、持っていないから、、、、。」

大狐「それでは、お前の一番嫌な、記憶をいただこう、ここまでこれたんだからね。」


陽子は、考えた嫌な記憶と美味しいおでんを取りかえる・・・?

どうしてなんだろう、、、。

でも、美味しいにおいのおでんには、それすらも、どうでもいいことと、なってきた。


きつねに神隠しされた陽子は、きつねのおでん屋で、

上機嫌。

二つ目のおでんに目が釘ズケ。

一つ目は、良くおでんのだしが、しみた、ほくほくのたまご、

陽子の中では、おでんの王様は、たまごと決まっている。

なるべく、黄身をださないように、半分に割る。大きく口をあけて半分をパクリ。

後半分は、すこしおだしの汁をつけて食べるのが陽子流。大切に食べる陽子を見て

少し微笑みながら、


大狐「あたりだね。大当たりさ。

あんた、たまごはおでんの王様だとおもっているだろう?」

陽子「なんでわかんの。。。?この狐。。。」

大狐「この狐じゃないよ。

私はここの土地に1200年住む

大狐のお豊さ」

陽子「お豊。。。?へ~何かフツーだね。」


誰かの前で物を食べたり、気軽に喋ることの苦手な陽子なのに、ここでは、

もうそんな自分は、いなくなっていた。


大狐「面白い子だねあんた。」


陽子「あんたじゃないよ。陽子。。。太陽の陽子だよ。

だから、真っ黒なのさ。でも、

みんな、醜い、醜いと、いじめられるんだ。おかあちゃんまで、あたしのせいで、 いつもおばちゃんたちにいじめられてるんだ。」


すらすらと、何かに喋らされているかのように、言葉が出てきた。

なんだか、不思議と悲しくもないのに涙が出てきた。


大狐「あれあれ、そんなにうちのおでんはうまいかい?うれしいね。」


陽子は、こくりとうなずき、白いセーター袖で涙をこすった。

さっきまでの涙は消えていた。少しなれない笑顔になった。

そんな陽子をお豊は、可愛く思えた。

静かに話し始めた。


大狐「いいんだよ。体が黒くても顔が黒くても、あんたの心は真っ白さ、

おととい、路地でいじめっ子に、棒でたたかれていた猫をたすけたろ、

あの猫があんたのことをうちの小僧に教えたのさ、占いを専門とした、まじない猫さ、猫の恩返しさよ。ガッハ、ハ、。」

豪快に笑い、真面目な顔で、また静かに話し始めた。

「醜いは、言霊で、見えにくいということさ、

心のぴかぴか光るあんたの玉は見えにくいんだよ。

いつも、背中お丸めて、下を向いてるからなのさ。

だから、隠れていたのさ、いままでさ、

もう、あんたの、一番嫌なことは、

この大狐のお豊様がいただいた。

おでんのお代がわりにね、、。

わかったね。胸をはって、背筋をのばして、

大きく息をしてご覧、さあ、口で声に出してカチっって言ってごらん、

これがスイッチさ、元気のおまじないだからね。やってみな。ほら。」


言われたとおりに、背筋を正した。

深呼吸をした。「カチっ」もやった。

陽子の心は、不思議な気持ちでいっぱいになった。

お豊のピカピカの目にくぎづけになった。

後から、後から、涙がこぼれて、心はその分、軽くなるのを覚えた。


大狐「雪が溶けたら春が来るか、、。いいねえ、非常にいいのに。

なんでもマニュアル、マニュアル、馬鹿の一つ覚えのように、

心の目で、見ない。心の耳で聞かない。

大人たちばかりになったねえ。

昔は、良い大人が沢山いて、ここにだってあそびにこれたもんさ。

あのトラヲさんが最後だったねえ。

あんたの目あの人によく似てるよ。いいひとだったねえ。」


陽子「え、トラヲ?トラヲは、うちのばあちゃんと同じ名前だけど、ばあちゃんもきたことあるの?」

大狐「やっぱりね。そうかい。そうかい。あのトラヲさんのね、、。陽子、、あの、先生嫌いかい?」

陽子は二つ目のこんにゃくに釘ズケ、、、。ハフハフしながら、またもや大口を開けて食べんながら、

陽子「うん。嫌い。でも、言葉は好きなんだけどな、、、答えって一つじゃなきゃいけないのかな・・・・?」

大狐「人にはいろいろな感覚ってもんがあるから、お前はそれでいいんだよ。」

陽子の心は、妙に納得した。


体と心に、新しい記憶がされていくのを感じた、不思議な時間だった。

土産に、密きつねのおでん屋レシピノート、と、書かれた汚いノートを

大切にしろと大狐に渡された。

そのノートの裏には小さい文字で、「トラヲ」と書かれていた。


あれから、20年。

あの大狐には一度も会っていない、

でも、あの、祠にお参りする時は、欠かさず、おでんのたまごをお供えしている。

陽子「あんな、とびきり上等の美味しいたまごじゃないけど、

あんたみたいになりたくて、同じたまごを、作れるようになるまで、

ずっとお供えするから、一度だけすがたみせてくんな。お豊さん。。。。」

スーと風が吹いた。あの時のおでんのかおりだ。

「あ、」

陽子は、深々と頭を下げた。

「必ずいつか、あのおでんが作れるようになるからね。

あと、一頑張りするからね。きっとひとの役に立つおでん屋になるからね。」


きつねのおでん屋は、おかっぱ頭の色黒のおんなの人が、ぶっきらぼうに、

店主を務めている。 


「ぎんなん堂」とかかれた暖簾の奥からは、今日も幸せな香りが漂ってくる。


「いらっしゃい。きつねのおでん屋にようこそ、

この命を精一杯生きるための心の方程式と、

一番嫌なあなたの記憶、交換致しましょう。

ここまで、これたのですから、、、。」     


1話 神隠し 完結


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