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野宿フラグ回避

※R15風味な雰囲気がちょびっとあります。




 人助けに夢中になって野宿フラグが立ってしまったわけなのだが、まあ自業自得としか言いようがない。

 今からでも村に行って事情を話せばもしかしたら泊まらせてくれるかもしれないが……迷惑をかけることに変わりはないだろうし、何より確実性がない。必ずしも話せばわかってくれるとは限らないのだ。

 それならばいっそ――ちらりと隣を歩く男を盗み見た。


「えーっと、レオルドさん」


「断る」

「即答っ!?」


 いやでもあの初対面でこの反応、するとは思っていたがまさか話を聞くまでもなく拒絶されるなんて。頼み込む前からへこみそうになるがそんなことしている場合じゃない。この男次第で私の運命が変わるのだから。そうだ、まだフラグを回避できる余地はあるはず。

 それに、ほら、頼んでみれば案外了承してくれるかもしれない。最初に村まで案内してもらったときのように、仕方ないなという感じに。なんだかんだいって押しに弱い人であることを希望したいところだ。


「……で。どうしたんだ、急に改まって」


 このちょいデレおやじめ!

 と言ってやりたいのだが言えば野宿フラグまっしぐらになることが予想されるためにぐっと喉の奥へと押し込んだ。


「実は……帰る宿がありません! てへ!」


 勿体ぶるのもやめて素直に告白してみる。

 しかしこの年で「てへ」なんて言うのは無理があっただろうか。なんというか、その、色んな意味で痛々しいような。

 もうどうにでもなれと思いつつ言ってはみたがやはり相手の反応が気になるところ。

 そろりと視線で相手の様子を窺おうとした。


 ――鬼だ、鬼がいる。


「……どういうことか説明してもらおうか」


 どこからともなく冷たい風が差し込んできた。

 つう、と嫌な汗が流れる。


「ここここれには深い事情がありまして!」


 慌てふためきながら事情を説明すると鬼のように恐ろしい顔つきが見る見るうちに呆れの色に染まっていった。


「あんたな……間抜けにもほどがあるだろ」

「うう、はい、おっしゃるとおりです……」

「で、まさか俺のところに泊めてくれなんて言わないよな」


 いいえそのまさかです。


「………」


 彼のじと目から逃げるように顔を背けた。

 突き刺さる視線が痛いがこの際気にしてられない。


「断る」

「!」


「って言ったら、どうするつもりだったんだ」


 言葉に詰まった。

 ぐるぐると思考を巡らせてみるが何も思いつかない。

 恐る恐る「駄目?」と問いかけてみるものの返答はない。ああ、これは困った。


「……あんた、わかってて言ってるのか?」


 大きな溜息とともに静かに見つめてくる。

 あ、綺麗な青い瞳だ。そう思ったのも束の間――強い力で引き込まれた。


 密着してみればよくわかる彼の逞しい身体つき。


「女のくせに、平気な顔して男の家に転がり込もうとしやがって」

「ちょ、レオルド」

「ちったあ自覚しろっての」


 どんなに強く押してもびくともしない厚い胸板にどきりとする。

 腰に回された手の力強さ。

 後頭部に添えられた手が顔を逸らすことすら許さないと告げているようだ。


 心臓がばくばくと煩い。


 これなんてサービスシーンですか。

 うっかりと鼻血が出そうで非常に恐ろしい。


「わかるか、いくらあんたがキマイラを倒せるぐらい強くてもな――」


 ぐっと力を込められ、さらに密着する。


「こうすれば何もできないだろ?」


 彼の囁く低い声が鼓膜を震わせ、熱い吐息が耳元を(くすぐ)る。


「あ、う……」


 ぞわりとした感覚が背筋を駆け抜けて無意識に声が漏れた。

 力が全く入らない。それどころか全身から力という力が抜けてしまったかのように、一人で立つことすら儘ならない。


 まさに骨抜き状態とはこのことだろう。


 全身の体重を預けるようにして凭れ掛かり、すがるように相手の胸元の服を掴む。

 顔を上げれば交わる熱の孕んだ視線。

 ごくり、と彼の喉が上下した。


「……そーいえば」


 唇が触れ合うか触れ合わないかという微妙な距離。

 思い出したように呟く言葉は我ながら舌足らずで拙い。

 不服そうな表情の彼が早く言えと言わんばかりに目を光らせた。その瞳の鋭さは、まるで飢えた獣を連想させる。


「人間、生命の危機を感じると子孫を残そうと本能が働いて性欲が強くなるとか聞いたような」


 だからレオルドも現在進行形でこんなことをしているのだろう。

 そう結論付けてじっと相手を見つめる。


 が、抱き締める腕の力が緩んだことで状況の変化に気づいた。


「ここに来てそれを言うのかよ……」


 心なしかげんなりとした声音。

 大きな溜め息をついた後もう一度視線がかち合い、今度は頭を抱えて溜め息をついた。

 どうやら先程の私の発言が場の雰囲気をなし崩しにしたようだ。まあそれもそうだろう。いきなり人間の生殖本能を語りだしたのだから無理もない。


 ちょっと残念なような、ほっとしたような。


「――で、まだ俺のところに泊めてくれなんて言う気か?」


 あんなことをされておいて、と暗に含んだ言い方だ。

 先程のレオルドの行動は警告のつもりだったのだろう。あまりにも真剣な表情のためこちらもつい雰囲気に呑まれてしまった。今思い返すとどうにも恥ずかしい。

 だが、ここで引いては待ち構えている道はただ一つだ。


「お願いします、一晩だけでいいんです」


 雨風防げる場所さえ借りることができればそれでいい。毛布を貸して欲しいとか、食料を分けて欲しいなんて言うつもりはない。ただそこにいることさえ許してもらえれば他は何もいらないのだ。


 懇願するようにじっと相手の目を見続けて数秒。

 再び、彼は大きく息をはいた。


「どうせ、嫌だと言ってもあんたは諦めないんだろ」


 ぽんと頭の上に置かれた手の存在で、自分の体が無意識のうちに強張っていたことに気づく。

 彼の言葉の真意を図ろうと顔を上げた。

 初めて見る彼の笑顔は――優しい。

 ぐっと何かが込み上げそうになって慌てて視線を逸らせば、数回頭を撫でられた。


 これが飴と鞭の真髄なのだろうか。

 じんわりと目の端に涙が滲む。それを誤魔化すように瞬きを繰り返す。


「一晩だけだぞ」


 ちょいデレって最高だわ。


「ありがとうレオルド!」


 感極まって勢いよく飛びついた。

 彼の太い首へと腕を回して、離れないようにぎゅうっと力を込めれば「苦しいだろうが」と非難の声を上げる。

 けれども「離れろ」とは言われていない。

 そんな彼の反応に甘えながら少しずつ腕の力を緩め、体格差もあってか私は彼の首にぶら下がる形となった。さながら抱っこちゃん人形よろしく状態である。


「この様子じゃ、全く学習してないな……」


 耳元でぶつくさと言っているがこの際気にしないでおこう。


 苦情が出ない程度に少し腕の力を強くする。

 そうすれば私の顔は彼の肩口に埋もれ、彼でさえも私の表情はわからないだろう。


「……ありがとう」


 触れた肌から伝わる温もりがあまりにも優しくて、泣きそうになった。




R15風味と言えども キ ス す ら し て な い 。

書いているこっちが恥ずかしくなるようないやんあはんな雰囲気になっていればいいなという願望です。

一応注意書きしてはみたものの拍子抜けされた方には申し訳ないです。


そしてお気に入りどうもです!

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