第一村人の発見
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辺りは草、草、草。
かろうじて遠くに見えるあれは川なのだろうか。
なんだこの大自然ようこそ。
最初は真新しく見えたこの景色を楽しんでいたものの、歩けども歩けども変わらない景色には早々に飽きてきた。
わくわくしながら心待ちにしていた魔物だって、この地域にはあの【アキュートイーグル】しか生息していないようだし、毎回同じ魔物を相手にするのもうんざりだ。あんなに見当たらなかったというのに、一度遭遇してしまえばそのあとはしつこいぐらい次から次へと湧いてくる。自分の能力を試す実験体には丁度いいのかもしれないが、そろそろ違う種類の魔物を相手にしてみたい。
走ったり歩いたりを繰り返しながらも草原を歩く。
そろそろ何か見えてもいい頃合いではないだろうか。
立ち止まってひたすら目を凝らす。
「……お」
薄ぼんやりと見えるが、あれは森……だろうか。
このまま何もない草原を歩くくらいなら森の中に入ってみるべきだろうか。
だがあの森の中に入って迷わない自信はない。
もしかすると遭難してそのまま野垂れ死になんてことも、あるかもしれない。
だが森の中だ。生き物も生息しているだろうし、きっと何かしら食料も手に入るだろう。
まああの魔物たちと戦って自分がそれなりの力量を持っているのだとわかったのだ。なんとかなるだろう。ならなかったらそのときでどうにかするしかない。
進行方向を森へと定め、スタミナを切らさない程度で走る。
目標を見つけたたら辿り着くまでの道程は、何もない草原で目的もなく走っていたときよりも短く、思いの外早く森の近くまで来ることができた。
あの草原の中ではかろうじて森しか見えなかったが、こうして近くまで来てみれば森へと続く一本道がある。
こんなところに道があったなんて。
もしかしたら私は何もない草原で無意味に迂回などをしていたのかもしれない。だからあんなにも草原が広く感じられたのだろうか。
土地勘もなく、地図も持ってないことのなんと恐ろしいことか。
まあとにかくこの道を辿れば遅かれ早かれ人のいる場所へ出るだろう。
早いうちに見つけることができてよかった。
ほっと胸を撫で下ろして私は道の上を歩いた。森の方を向いて。
道があるのだから森の方へ進んでも何ら問題はないだろう。
むしろ森があるのだから、新しい魔物に出会えるかもしれないし。
正直なところそろそろジャンプして切り落とすという戦い方が面倒臭くなってきたというのもある。
できれば森の中では飛行系の面倒な魔物には遭遇しないことを祈りたいものだ。
いっそ森らしくボス級に強い奴が出てきてくれてもいいのだが、まあ、そう高望みをするつもりはない。
森の中で襲ってくる魔物の種類は複数で、その中に【アキュートイーグル】は含まれていなかった。
群れを成して襲ってくる狼の姿をした魔物【ウォルフ】や黒い毛に覆われた巨体を持ち、その腹に白い大きな三日月模様のある熊のような魔物の【ナイトベア】など、他にも色々いるにはいたが、この森の中でそこそこだと思える魔物は大体この二種類ぐらいだ。
先ほど倒したばかりのナイトベアからドロップした【ナイトベアの肉】を拾い、収納する。
どうやらこの肉は調理することにより食べられるらしい。これは立派な食料だと嬉々として拾い集めているわけなのだ。
背後から襲いかかろうとするナイトベアを一太刀で斬り捨てる。
危ない危ない、ぼーっとしてたらざっくりやられるところだった。
道の上を歩いてはいるのだが、どうやら森の中の魔物の湧きはかなり凄いらしく次から次へと襲ってくる。
一向に誰ともすれ違わないのは恐らくこの湧きの多さからなのだろう。
ナイトベアがずしんと重たい音とともに地に伏せた途端、耳元で軽快な電子音が聞こえた。
どうやら私はこのナイトベアから【ベアズナックル】という武器を手に入れたらしい。
すぐさまアイテムインベントリを開いて確認すると、確かに【ベアズナックル】という項目が増えていた。
それに指を近づければその武器の情報が表示される。
この【ベアズナックル】はその名の通り手甲らしい。
攻撃力は500、特性は攻撃力50%増加と攻撃範囲拡大と移動速度50%増加。
正直、この世界で自分の持っている武器以外を手にしたのが初めてなので、これがいいのか普通なのかがよくわからない。
そこで初めて私は自分自身の情報を見ていないことに気づいた。
アイテムインベントリが開けるのなら、ステータス画面だって開けるに違いない。
そう思うが否や画面が切り替わり私のステータスと思えるものが表示された。
【アキノ=シノノメ】特殊能力:メンタルステータス
あれ、おかしいな、こういうステータス画面って普通はレベルとか能力値とかが表示されるんじゃないのか。
なんでこんな、名前と特殊能力だけだなんて、ステータスの意味がないのでは。
恐る恐る特殊能力の項目にある【メンタルステータス】を指先を向ける。
【メンタルステータス】プレイヤーの精神状態によりステータス値が左右される。
なんだこのヘンテコ能力。
つまり、えっと、私自身が強いと思い込めばステータスも反映されて強くなる、とか?
――わからない。誰かわかる人がいるなら説明して欲しいぐらいだ。というかもし仮に私が思っている通りの能力だとすればこれはもはやチートと呼べるのではないだろうか。
じゃああれか、実は今まで相手にしていた魔物たちも本当はかなり強いのに、でも私が負けそうと思うこともなく勝てると自信満々に思っていたからステータスもそれに合わせて変化して勝てた、とかもあり得るのだろうか。こればっかりは人の意見を聞いてみないとわかったものではないな。それも一人の意見ではなく複数の意見を聞いて比較してみないことには。
それじゃあ装備はどうだろう。ステータス画面に表示されている【装備】の項目に触れる。
ぱっと画面が切り替わったかと思えば、そこに表示される装備品の数は二つ。武器と体の項目だけだった。
【白銀の刀】刀。特性:メンタルステータス
【赤の衣】一式装備。特性:メンタルステータス
チート性能に喜ぶべきなのか手抜き加減に呆れるべきなのか。
とにかく、要は気持ちの持ちようでどうとでもなる、ということなのだろう。
考えていると頭が痛くなってきた。あまり深く考えず恵まれた性能だと喜ぶことにしよう。
気を取り直して先を進んだ。
日が傾きかけている。あと少しすれば辺りは真っ暗闇になるだろう。
残念なことだが今の私の手持ちにランタンはない。つまり灯りとなるものを持っていないのだ。もしかすれば魔法で代用できるのかもしれないが、一晩中発動させるなんて想像するだけで疲れる。早いところ宿を見つけたいのだ。
ゆったりした歩みも次第に早くなっていく。
そういえばあの武具には移動速度上昇の特性があったが、この装備もその性能があると思い込めば反映されるのだろうか。
ぼんやり考えながら走っているが、速度が上がっているのかどうかなんて全くわからない。
暗くなるにつれて活発的になっているらしいウォルフの遠吠えが聞こえた。複数の走る足音。
ああもう、面倒くさい。
獲物を構えながら走っているとどこからともなくウォルフが襲ってくる。
斬っては捨て、斬っては捨て。
ドロップアイテムを拾う間さえ惜しい今はただひたすら前に進んだ。
前方に灯りが見えた。
もはや斬り捨てることもやめてただひたすらに走った。
ああ、どうせならウォルフを振り切れるぐらい速くならないだろうか。
ただひたすらに走って、茂みをかき分けて抜けた。
「――誰だ」
低い男性の声。
驚きのあまりびくりと肩が跳ねて踏み込もうとしたその一歩が中途半端に宙に浮く。
そろそろと声がした方向へ視線を向けた。
ああ、あの灯りはこの人の家のものか。
そういえば先ほどから自分を追いかけていた足音が聞こえない。気配も、ない。
どうやらあのウォルフたちは諦めてくれたらしい。
「ええっと、初めまして、アキノ=シノノメです」
一度は躊躇った一歩を踏み込んだ。
目の前にいる筋骨隆々の逞しい男性を見つめながら笑みを浮かべる。
今まで一人だったせいか、思いの外気を張り詰めていたらしい。この世界で初めて出会うことのできた人にとてつもない安心感を得て、自然と頬が緩んだ。
つい口を衝いて出た自己紹介が予想外だったのか、男は目を見開いて沈黙している。
茂みから抜けて体についた葉っぱを払い落す。
希望を募らせ、男の方へ向き直った。
「あの、すみません、この近くに宿屋はありませんか?」
無表情だった男がとてつもなく面倒くさそうな表情へ変わる瞬間だった。
とても友好的ではない第一村人に遭遇した主人公や如何に。
思いの外話が進まず書いている本人もヤキモキしております。