休日もゆっくり出来ない
龍王院竜禍による『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』撃破事件から数日後の、4月某日の休日の朝。
さんさんと晴れ渡る青空が、窓の向こうに延々と広がっている今日この頃。
僕、尾張宣長はコーヒーを飲みながら休日を満喫していた。テレビでは最近噂の『発砲魔』のニュースを報道していた。『発砲魔』とは最近噂の通り魔で、夜中に沢山の、男性女性問わず沢山の人間が襲われているらしい。そして全員、傷は負っておらず、襲われた近くの場所には数発の弾痕が残っているらしい。ちなみに襲われた全員、傷は負っていないのに「銃弾を受けた」と証言している謎の事件である。まぁ、最近はこんな事件が多いなと思いながら見ていた。
この前の『宙に浮かぶ暗黒帝竜を撃破する謎の騎士少女、警察に逮捕される』よりはまだマシである。あれはリアリティが凄いあったなー……。
「やっぱり主の名前は言えないんだ……。現実文字化けってこんな感じなんだ」
「ですから■■■■■だと言っているじゃないですか、妹君。まぁ、今は尾張宣長様が主なのでございますが」
「ふふん。やっぱ、リアル竜禍ちゃんは忠義心が強いなー……。でさ、やっぱり妹君は止めてよ。夕映で良いよ、夕映で。もしくは『今後の行く末を知る賢者』のどちらかで」
「では、妹君でお願いします。長いのは覚えきれません!」
「ふっ、やはり『今後の行く末を知る賢者』と言う称号は現世の人間には覚えきれなかったですか。仕方ない、この際、妹君で……」
「だぁ―――――――――――、うるさ――――――――――――い! 黙れ、2人とも!」
僕はそう後ろで話し込んでいる2人にそう話し込む。本当に何なんだよ……。
僕がそう言ったのは、後ろでうるさく騒ぎまくっている2人にそう言った。
1人は、尾張夕映。僕の妹である。絶賛中二病の中学2年生の僕の妹である。茶味がかった髪を腰の辺りまで伸ばしたロング、白いカチューシャとワンポイントの桜マーク。
僕より少し低いくらいの身長の癖に胸だけは一人前(この前、Dと言っていた。聞いても居ないのに何で言うんだか)、そして黒を基調とした黒めのワンピース姿の服をモデルのように着こなした女である。
もう1人は、龍王院竜禍。神様の力によって具現化した、元ルフィア王国騎士団隊長の完全無欠の孤高の竜騎士である。
燃える炎のような赤色の腰より少し短いくらいの流れるような髪、金色の勝気な吊り目の凛とした顔立ちの小柄ながらもしっかりとした線を持つ少女。頭には竜の角のような物が髪の下から生えており、甘めの白いワンピースの上に銀色の鎧を付けており、チェック柄のスカートと金色の西洋刀が変なミスマッチになっている。
その2人がじゃかあしく言うのであまりのうるささに、僕はコーヒーを持ちながらそう怒っていた。
何故、ここに龍王院が居るかと言うのを話そう。
今日の朝、爽快な朝を迎えた僕は外に新聞を取りに行こうとしたら、玄関のチャイムが鳴る音がした。こんな朝早くに誰だろうと思いながら、玄関を開けるとそこには龍王院の姿があった。
「世間では休日だろうと騎士に休日が訪れるのは、眠る時と主が居なくなった時。ですので、こうして参上致しました」と言う龍王院。どうしようかと思っていると、上から夕映が降りて来たので対応を任せたのだが。
なんか龍王院を見た瞬間、「リアル竜禍ちゃん、キタ―――――――!」と変なテンションで大はしゃぎしていたのは、この際無かった事にしておこう。
今にして思えば、それは間違いだった。
その時点で、「竜騎士+中二病=騒乱」と言う数式が成り立ってしまった。
全く、最悪だな。
「時に、我が主よ」
「いや、だから宣長で良いって」
「もしくは、『境界線上の絶対君主、尾張宣長様』でも可」
「話がややこしくなるから、ちょっと黙ってろよ。夕映」
「時に境界線上の……」
「言わなくっていいって……」
なんで夕映の言葉をそのまま鵜呑みにするかな? 明らかにそっちの方が言いにくいと言うのは考えれば分かる事だろうに。
「では、宣長様」
「もう、……それで良いよ」
これ以上、ややこしい称号が付けられるくらいだったら認めてしまった方が楽に違いない。
「では、宣長様。昨今噂の、『発砲魔』についてどう思われていますか?」
「『発砲魔』……ね。テレビのワイドショーでのデータくらいしか知らない。
夜道、無差別に人を襲う者で。毎回、銃痕が現場に残されているから、『発砲魔』と呼ばれている事くらいしか……」
「実は独自の調査の結果、犯人について新たに分かった事があります」
と、龍王院は背筋を正しながら僕に向かい合う。
独自の調査……ね。そう言った物は警察に任せておけばいいと思うのだが。少なくとも一般人が出る幕では無いと僕自身は思うのだが……。
「犯人は、20代後半、もしくは30代前半の金髪男性。夜道、危ない事をしているのにも関わらず、堂々とした金色の沢山のメダルのような物を付けた貴族が着るような濃い緑色の紳士服。
そしてその手には――――――――闇夜の中でも存在感をしっかりと示すくらい、黒い拳銃が握られていたらしいです」
「なるほど……ね」
堂々とした金色の沢山のメダルのような物を付けた貴族が着るような濃い緑色の紳士服。
闇夜の中でも存在感をしっかりと示すくらい、黒い拳銃。
犯人は分からないが、知って居そうな奴に心当たりはある。
まぁ、十中八九合っているだろうから、ここは強く聞こう。
僕はこの事件について詳しく知っているだろう人物、――――――――――と言うか、この事件が起きる結果を作っただろう尾張夕映の方を向き睨む。
「何か言い残す事は無いか、被告人」
「……ありません」
どうやら今回もこの妹のせいらしいです。