竜騎士への必死の説得
とりあえず僕は龍王院竜禍を探して学校へと戻った。一応、龍王院竜禍と合流しておかないと『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』を倒すために説得しないと。
江戸川甘露は帰らせた。何故かと言うと、居たら話がややこしくなりそうだったから。
帰ってないと良いんだけれどもと思って、行ってみると意外な事に彼女、龍王院竜禍は玄関前で「じっー」っと掲示板を見て待っていた。
「これ、なんて読むんでしょうか?」
燃える炎のような赤色の腰より少し短いくらいの流れるような髪。金色の勝気な吊り目。竜の角。銀色の鎧に金色の西洋刀。
朝見た時と同じように、相変わらず現実離れした美しさである。
彼女の視線の先には先生の名前の一覧表があり、どうやら彼女は教頭先生の名前を見ているようだ。
そう言えば朝、生徒の名前を憶えていたし。先生の名前も覚えるって事なのか。
まぁ、そのおかげで助かったと言えるんだけれども。
ちなみにそんな教頭先生の名前は『一十八』。ただの数字のように見えるが列記とした名前である。まぁ、僕も読み方を知るまでは読めなかったけど。ちなみに読み方は『一・十八』。まぁ、教頭のおかげで龍王院が帰らなかったのは常套。
教頭GJ! 今度教頭に会った時、ちゃんとありがとうと言っておこう。
「やぁ……りゅ、龍王院」
「……! ……おや、尾張宣長ではないですか」
こっちを見ると彼女は僕達の名前を呼んでいた。ちゃんと名前を憶えているようである。
そう言う設定なのだろう。多分、隊の人間全員覚えると言う記憶設定なのだろうな。
「じ、実はさ。空に『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』が飛んでたんだけれども……」
「まさか……こんな世界にまであの暗黒帝竜が来るとは……。しかし、我が主■■■■■が居ない今、どうしたら……」
……はい? 今、なんて言ったんだ? ちゃんと喋ってたはずなのに、まるで禁止用語のように聞こえたんだけれども。
「なぁ、もう1回お前の主の名前を教えてくれない?」
「尾張宣長、先程言ったと言うのに。では、もう1度。ちゃんと言うから聞いてくださいね。■■■■■です」
「だから、分からないって」
「■■■■■」
……多分龍王院竜禍や『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』が現実化されたノートには、龍王院の主(後付けだが)の『境界線上の絶対君主』は書いていないのでこの龍王院竜禍には王の名前が書いてないので王の名前が文字化けか何かしているのだろう。彼女は言っているつもりのようだが。
「悪い、龍王院。『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』はあなたにしか倒せない。だから、倒して――――」
「お断りします」
全部僕が言う前に、龍王院は僕の言葉を否定していた。
「本日、私は私の主に相応しい人間を、仕えるに値する人間を見極めていました」
……なるほど。クラスの人間の名前を聞いていたのは、相応しい人間を見極めていたって事なのか。でも、この反応って事は居なかったと言う事なのか。
まぁ、クラスメイトにこの『完全無欠の孤高の竜騎士』の主になるのに相応しい人間が居ても困るけれども。それって、高校生活の平凡な日常の終了のお知らせだから。
「しかし、誰1人として相応しい人間は居ませんでした。故に私は相応しい人間が居ないのだとしたらあの『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』と敵対する理由も倒す理由もございません。
私は己のために剣を振るう剣士ではなく、仕えるべき主のために剣を振るう騎士なのですから」
そう言って彼女は再び、教頭の名前に視線を移す。どうやら本当に未だに読めないらしい。
……さて、本当にどうしよう。
一応、対応策はある。
これは僕が立てた作戦では無い。あの中二病妹、尾張夕映が立てた作戦だ。彼女の事を良く知る作者が立てた作戦なのだから、成功する確率は極めて高いだろう。
しかし、この作戦は僕の演技にかかっている。しかもとびっきり恥ずかしい奴。出来ればやりたくない、絶対に。
(でもな、こんな高校生活初日で暗黒の世界突入とかしたくないし……。ええい、こうなりゃやけだ!)
そう言って、僕は演技を開始した。
本当はやりたくないけど、仕方ない。世界を救うために! そう、仕方なくだ! 世界が壊れたら困るし! そう、世界のため、人類のため、この地球上に生ける全ての者達のためなのだ!
……賢明な人は分かっているかもしれないが、これは建前だ。こうでもしないと乗り気にならないからだ。
「なぁ、龍王院。僕の名前、憶えてるよな?」
「……えぇ。尾張宣長さんでしょ?」
「そう。しかし、これ実は世を欺くために名乗っただけの名前に過ぎないんだよ」
「……! それはどう言う意味ですか?」
おっ、食いついたか。まぁ、中二病はそう言うの好きだからな。
「世を欺くため」とか「組織を撒くため」と言うそんな無駄に壮大な奴。
「君は知っているか? この日本と言う国には昔、世を欺きそして日本統一を成し遂げるまで行った1人の人間が居た事を。
彼は世を欺くために幼少時は頭角をひた隠しに隠し、もう1歩と言う所で死んでしまった人間。尾張と言う国から生まれたその者の名は――――――織田信長。そう、僕の前世の名だ」
「な、なんと……。尾張の国から生まれし男、織田信長。その魂が貴君に宿っているとは……」
そう言って、考え込む龍王院。「ふむ……」と検証しているようだ。
作戦名『オペレーション・偽りの王』(妹命名)は順調に進んでいる。この作戦の目的は、僕が彼女の王になる事。居ないのならば作れば良い。それが妹の意見だ。実際、僕の名前は偶然にもノブ違いだが、あの織田信長を妄想するには向いている名前だし。
ちなみに実際の所、僕は織田信長の前世と言う訳では無い。随分前に占い師の人に聞いたら「あなたの前世は……猿山のボス猿の腰つき」と言われたし。何でボス猿の腰つきなんだよ。微妙だな、おい。
「しかし……私には主である■■■■■が……」
「頼むよ、龍王院! 今言ったように僕は日本統一を成し遂げるために尽力した! しかし、僕はそれを成し遂げられなかった。
何故か。そう、信頼した部下に裏切られたからだ!」
そう言って、僕は彼女の肩に手を載せる。龍王院は一瞬、ビクッと肩を揺らすが決して嫌がって居る訳では無いようだ。その目は真剣に、真っ直ぐにこっちを見つめている。
「だからこそ、今度は絶対に裏切らない人物を部下として採用したい。そう、お前だ、龍王院竜禍」
「私が……」
「そう。お前は絶対に僕を裏切らないと信じている。そんなお前となら今度こそ、悲願である世界支配を成し遂げられると思うんだ! そのためにすまないが、僕に力を貸してくれないか? 龍王院!?」
「そう言われても……私には■■■■■が……」
むぅー。これでも駄目か。
結構、今のでも恥ずかしいんだが。具体的には言われなれてない事を言っていると言う羞恥心で。でも、世界を救うためには彼女の力が必要なんだ。
あの『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』はこいつにしか倒せないんだから。
「別にニ君に仕えろと言っている訳じゃない。
お前の本当の主はそいつでも構わない」
「ちょ……! 私の主の名前は■■■■■で!」
いや、だからそれじゃあ分からないんだって!
「今だけで良い。その力を、この僕のために使ってくれないか! その力をこんな所で失うのは惜しい! そいつだってそう思っているはずだ!
身勝手と思って良い! 理不尽だと言っても良い! 馬鹿だと罵ってもらって構わない!
だけど、今その力を! この僕のために使ってくれないか!? あの『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』を倒すために!」
正直、これ以上の言葉は勘弁してほしい。羞恥心で顔が沸騰してしまいそうだ。
「……ください」
「ん……? なんて言った?」
今、小さく彼女が何か言った気がする。けれどもあまりにも小さくてなんて言ったのか聞こえないんだが……。
「命令してください! 私はあなたを主と認めます! で、ですから私にご命令を!」
大きな声で若干瞳に涙を溜めた潤んだ瞳で、龍王院は聞こえるように僕にそう言っていた。それに対して僕はと言うと……。
(えぇ、なんで涙目? やってくれるのならば、好都合だ)
じゃあ、彼女のご命令通り命令させてもらいましょうかね。
「龍王院! この僕、尾張宣長の命にて命じる! あの『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』を倒せ!」
「あの~……宣長様。そこは『僕』では無く、『俺』の方が気分が……」
めんどくさいな、おい!
「今一度、命じるぞ! 龍王院! この俺、尾張宣長の命にて命じる! あの暗黒世界から来し邪悪の根源たる竜、『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』を倒せ!」
「……御意!」
そう言って、世龍剣エクスカリバー・ドラグナイトを握りしめ、彼女は窓から飛んで行った。そう、背中から黒い竜の翼を出して、空を飛んだのだ。
そう言えば、自身の身体に暗黒帝竜の力を封じ込めたと言う設定も聞いたなー。
まぁ、あの『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』がなんとかなるなら良いわ。
とりあえず、ミッション・コンプリート。
頑張ったな、僕。本当に。