儀式
邪院寺真は歪んでいた。
彼は色んな人間と出会ううちに、その人間と関わる事で、壊れて行った。
物凄い熱血の人と会う事で、彼の熱気が失われるようで。
物凄く冷酷な人と会う事で、彼の冷静さが失われるようで。
物凄い使命に準じる人と会う事で、彼の頑張りが失われるようで。
誰かと会う事で彼は自分の何かを失って行くようであった。
物凄い素直な人と会う事で、彼の素直さが失われるようで。
物凄い陽気な人と会う事で、彼の陽気さが失われるようで。
物凄い幸せな人と会う事で、彼の幸せさが失われるようで。
幸せの王子様のように、誰かと会うたびに彼は何かを失っていた。
彼には喜怒哀楽も、それから色々な大切な事を失っていた。その代わりに彼は一つだけ他の人間より強くなったモノがあった。それは『他人の幸せを憎む気持ち』と『自らは幸せになりたい気持ち』である。それは歪んだモノへと成長を遂げた。それは”他人は不幸になって、自分だけが幸せになりたい”と言う気持ちである。そして彼はその気持ちを成し遂げるために、自ら魔法を作り出した。
その魔法こそ『他人の幸せを犠牲にして、世界を変革する魔法』である。
「ふふふ……。頑張ったかいがあると言う物です。まぁ、この学園はボクが前居た所よりも同じ年の男性と女性が居てやりやすかったよ。
戦争を知らない、恋に現を抜かす人間を騙すのは楽で良いよね。さぁ、始めるとするかね。ふふふ……」
そう言って、彼は儀式を始めようとして
「……ん? 誰か来てるようだね?」
後ろを振り向く。そこには彼が倒したはずの龍王院とアリアが毅然とした様子で立っていた。
アリアの手には自分の本体の銃、『夢殺し』を。龍王院の手には世龍剣エクスカリバー・ドラグナイトが握られていた。
「へぇ……可笑しいな? 一応、ボクなりに考えて人体を破壊したんだけどね。
まぁ、今となってはどうだって良いよ。君達の身体、もう1度念入りに破壊させてもらうよ」
そう言って彼はもう1度ボウガンを構える。
それをジッとした目つきで見つめる龍王院とアリア。けれどもその目は勝機を失ってはいなかった。
「ボクはこの世界の全てを知っている。そして君達の知識も得ている。だからこそボクが君に負ける可能性は万に一つもありはしないのだよ!」
彼はそう言って、いつものようにボウガンから弓矢を発射した。




