騎士と預言者の体育館裏
その次の日、龍王院竜禍はなんとも微妙な気持ちで過ごしていた。理由は分かっている。
「……昨日の告白が原因ですよね」
それは別に自分がした物でも、自分にされた物でも無い。そしてそこで言えば、自分は何ら関わりの無い第三者にしか過ぎない。告白されたのは尾張宣長様、そして告白したのはその幼馴染である江戸川甘露さん。恐らく周囲の皆さんの後足もあったのかも知れませんが、それでも彼女は勇気を振り絞ってそれを伝えて、宣長様もそれに答えようとしています。それは何ら不思議な事では無いですし、別に何一つ恥ずべき物ではありません。
けれでもなんででしょう。それがとっても今となっては、私の心に変な事を芽生えさせます。
変な事。それは宣長様と甘露さんが別れると良いと思っている事。別れれば良いと思っている事。これは良くない。絶対に良くない。
普通なら2人の仲の進展を願うはずなのに……。こんな事を思ってしまうなんて。最悪です。
「私が考えなきゃいけないのは、あの人です」
私はそう思い、席を見る。
艶もありつつ乱雑に伸びた髪、女子の一番背の低い奴と同じくらい小柄な男としては未熟な体躯。何もかも見通すような蒼く澄んだ藍色の瞳に、腕には沢山の豪華なアクセサリーを付けている。
転校生、邪院寺真。
明らかにこの桃色の雰囲気、告白の雰囲気を作り出しただろう人。何が目的で何をしたいかは分かりませんが、とりあえずこの微妙な流れを作り出したのは彼のせいである。だからこそ、彼に対して聞かないといけない。いったい、何が目的なのかと言うのを。
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その日の放課後。私は体育館裏へ彼を呼び出した。そう言えば、ここで宣長様は甘露さんに告白されたんですよね。けれどもそんな事を考えている時では無い。今は邪院寺真を何とかしませんと。
「こんな所で何の用ですか、龍王院さん? もしかして恋の相談とかですか?」
「そんな事で呼び出した訳じゃないんだけど」
そう言って、私は世龍剣エクスカリバー・ドラグナイトを抜く。いつでも戦えるように。
確か彼は預言者と言う事らしいですが、油断は禁物です。この前も油断したために傷を負って倒れてしまいました。あんな事にならないためにも。
「しかしヤバいね。物語的にも騎士と預言者は戦った事はないけれども、負けるとしたら預言者だろうね。けれどもこの世にはまだまだやる事があるよ」
そう言って彼はシアンブルーの色のボウガンを構える。
「騎士は預言者と言う言葉の手に負けたりはしない。何せ私達は完璧な肉体を持つのだから」
「言うね。けれども物事はもっと複雑だよ」
邪院寺真はそう言いながら、笑っていた。




