妖精と預言者
これは尾張宣長の知らない物語。宣長が知らない別の物語。
私、アリア・ネバーランドダークは元の主人、ヴァンド・バトル卿が借りていたアパート、『お邪魔荘』に住んでいました。私は自身の容姿では接客業は無理だと言う事を悟っていました。
二丁拳銃や服装はともかく、黒い身体と細長い耳はどうにかしないといけないでしょう。故に私はヴァンド・バトル卿が持ち込んでいた物で家計を繋いでいた。ヴァンド・バトル卿は英雄でした。ヴァンド・バトル卿は自らが倒したモンスターの持っていた物の一部を何でも入る万能鞄に詰めていました。
赤や青、黄色や白など色鮮やかなこの石はこの世界では宝石と呼ばれ、高値で取引されているらしいです。ヴァンド・バトル卿は『この世界では無い者』との対決しか頭に無かったので、宝石が金貨の代わりである事に気付いたらそれを使って物と交換していました。
とは言っても可笑しな交換です。
この部屋に住むのに宝石5つも差し出しました。食物の代金として宝石2つを浪費しました。飲み物の代金として宝石1つを消費しました。こちらがその価値を正しく認識していないからこそ行った蛮行は、蛮行である事すらアリア・ネバーランドとヴァンド・バトル卿は知りませんでした。今では宝石を『ねっと』と言う物で取引しているのが現状だが、今まで以上に多くの物を買えるようになりました。
宝石は千や万はあるが、いつかは尽きるのでどうした物かと思っていたアリアにとっては幸いでした。
「しかし……いつまでも宝石に頼っている訳にはいきませんよね」
ここで生きていく。それが今の私の意思である。そうなって来ると仕事を見つけないといけない。龍王院や邪院寺と言う者らは宣長君に写真で見せて貰ったけどこの世界の者達とかなり似ていた。あれならばどこへなりともその気になれば働けるだろう。
しかし、自分は難しい。仕事を取るにしても選らばねばなるまい。
「まずは『ねっと』で求人広告を探りますかね」
「銃に宿った妖精が何をぼやいているのだか……」
首筋に嫌な感覚がした私は飛びのく。
「嫌だね。撃つ訳ないじゃん。ここじゃ銃刀法違反と言う罪に問われるからね」
そこに居たのは小柄な男、邪院寺真だった。写真で見せて貰ったので覚えているが、
(こんな嫌な感じ、なんですか?)
と私は感じていた。
嫌な雰囲気、不気味なオーラ、ただならぬ気配。何となく嫌な予感が私の頭の中で考え込む。
「君の事は知っている。
アリア・ネバーランドダーク。見目麗しい女だと言う情報は本当だね」
「……」
「黙り込んだか。まっ、良いんだけどね」
私は黙って相手の身体を慎重に探る。
相手は学生服とか言う服だ。あれには大きな武器は隠せない事は、直に触らせて貰って知っている。せいぜいコンパクトナイフくらいが関の山。腰にホルスターも付けてないし、背中にも何もない。
無防備。丸腰。
撃って欲しいと言っているような格好である。
「あなたは知らないかもしれませんけど、私はこの指先から『この世界で無い者』を元に戻す銃弾を発射出来るんですよ?」
私の本体は銃。だから人間状態でも指から銃を発射する事が出来る。銃と言っても空気弾ですけど。空気弾だと言っても、『夢殺し』の能力を持つ。だから空気弾が当たれば『この世界で無い者』を元の世界に戻す事が出来る。
彼は多分、自分がこの世界で無い者だと気付いていると、宣長君は言っていた。何故かは分からないけど彼の妹、尾張夕映さんはそう言っていたらしい。何で妹さんがそんな事を知っているかは教えてくれませんでしたが、多分情報通なのでしょう。ともかく私のこの空気銃は少なくともけん制にはなるでしょう。
「”うん、知ってる”」
そう言って彼はポケットから何かを取り出した。けどそれが私には分からない。あの物体はいったい……
「でも武器は決して全ての人間に有効ではありませんよ、銃妖精」
「いったい、何を……」
「――――――もう遅いです」
そう言った瞬間、私の意識が何だかぼやけて来た。これは一体……。
「あなたはこの世界に不要なんです。だからもう大人しくしてください」




