青春の放課後
僕にとっての青春とは、妹の中二病キャラに邪魔されず、恋やら勉強にと出来事を楽しむ物。それが青春だと思っていた。だからこそ龍王院やらアリアとかが可笑しいと思ったのだ。そして……これこそが正しい青春である。
今、僕は体育館裏に来ていた。勿論、脅迫を受けたとか言う事では無い。青春として当然のことである。そう、僕は告白を受けていた。
相手はそう、彼女である。
「ご、ごめんね。いきなり呼び出しちゃって……。けど、これだけは伝えておきたかったの」
肩まで伸びる亜麻色の柔らかそうな先が丸まった髪。少女マンガを彷彿とさせる大きめの青い瞳は今は潤んでいていかにも少女漫画のヒロインのような瞳。少し小さめの身体ながらも、しっかりと自己主張をしている大きめの巨乳をちら見せするように第1、第2ボタンを開けている。
最近では恋する女性むんむんな雰囲気漂う、僕の幼馴染、江戸川甘露である。
いきなり手紙を下駄箱にやって体育館裏まで呼び出されたかと思ったたこの仕打ち。
体育館裏、そして夕焼け空の下こちらを見つめる大人びた異性の幼馴染。そこには昔から見せていたお菓子作りを趣味とする女の子的な少女の姿は無く、あるのは必死に自らの愛を伝えようとする1人の女性の姿がそこにはあった。
「きっと私はきっかけが欲しかったんだと思う。勇気を出して、声に出して自分の思いを伝えるタイミングが欲しかったんだ。
――――――私はノブ君、ううん、尾張宣長君の事が好きなんです。もし良かったらOKの返事をください。お願いします!」
夕焼け空の下でも分かるくらい真っ赤にした赤い顔。そしてこっちの様子を顔を下にしたまま伺おうとするその姿勢はなんとも乙女らしく、とても美しかった。
「お願い、ノブ君。私を彼女にして」
正直、甘露とそう言う関係になるのは考えた事が無かった。けれども甘露に対して不満がある訳では無い。甘露はスタイルも良いし、性格も悪い訳で無くてむしろ非常に良い。それに別に心に決めた人間が居る訳でも無い。
甘露と付き合えない理由は無い。けど不思議と今、付き合おうとは思えなかった。
なんでだろう。今、そう言う気持ちになってしまった。
「―――――すまない、少し考えさせてくれ」
「う、うん。いきなりそんなこと言われて戸惑うって言う気持ちも分かるよ。……ちゃんと家でゆっくり、考えてね?」
「あぁ、うん」
そして僕は夕焼け空に染まる体育館裏を後にした。
そしてこれは僕の知らない話。僕が帰った後の、放課後の体育館裏で一人彼女、江戸川甘露は腰を付けていた。
「あ、あれ? お、おかしいな? 腰が抜けちゃったよ」
「しょうがないさ、一世一代の告白と言うのはそれだけ勇気のいる者さ。だから告白した後に腰が抜けてしまうのも何ら可笑しな事では無いんだよ」
艶もありつつ乱雑に伸びた髪、女子の一番背の低い奴と同じくらい小柄な男としては未熟な体躯。何もかも見通すような蒼く澄んだ藍色の瞳に、腕には沢山の豪華なアクセサリーを付けている。裾を大量に余らせた制服を着た男子生徒、邪院寺真がひょっこりと現れた。
「邪院寺君……」
「安心して、君の思いはきっと彼に伝わった。彼へ思いを伝える事が出来たんだ。きっと君の気持に何らかの答えを彼は答えてくれるだろう。
だから安心して今日は帰ると良い」
「う、うん。そうだよね。ノブ君もそう言ってくれたし。そこは期待していいよね?
ありがとう、邪院寺君。じゃあ、私は失礼するね」
そう言って甘露は帰って行く。その姿を見て邪院寺真は一人呟く。
「……計画は順調、かな。さて、次の手を打つとしますかね」
彼はそう言いながらゆっくりと学校の玄関へと向かって行った。




