妹が神に望みを叶えて貰ったようです
僕、尾張宣長の朝は、ある一点を覗いて非常に静かである。両親(とても温厚な性格)と一緒に食べるのどかな朝の風景は僕の和みになっている。
そんな僕の朝に、
「お兄ちゃ――――――ん!」
扉を開けて大声で僕を呼ぶこの女。
茶味がかった髪を腰の辺りまで伸ばしたロング、白いカチューシャとワンポイントの桜マーク。
僕より少し低いくらいの身長の癖に胸だけは一人前(この前、Dと言っていた。聞いても居ないのに何で言うんだか)、そして黒を基調としたゴスロリ魔法少女の服をモデルのように着こなした女。
彼女こそ、僕の妹である尾張夕映である。
「お兄ちゃん。聞いてくれ、実は今朝私に神から天の啓示を授かったのだ!」
と、これで分かるように中身はただの中二病なのだが。
けれども、男と言うのは単純なのか。顔立ちや体型は美形な彼女には、連日ラブレターが絶えないんだと言う。中身は『付き合いにくい・扱いにくい・喋りにくい』の三拍子が揃った中二病女なのだが。
兄としてこの妹に彼氏が出来る事は諦めてる。まぁ、仲良い友達が数人ばかり出来る事を望んでいるのだが。
「ねぇ、お兄ちゃん? ちゃんと愛する妹の呪言を聞いてる? やっぱり『平均・平凡・平穏』の三平には我が王からの言葉は聞けないのか?」
「やかましい」
ちなみに妹が非凡なる容姿をしているのにも関わらず、僕はどこにでも居る特に特徴も無い平凡男子である。まぁ、しいて言えば右目が青いのに左目が赤いと言う事だろうか?
これはただの遺伝異常だが、妹に言わせれば『この世界の管理者から選ばれし者の証』らしい。何故、そこで神と言わないのだ、この妹は。
そして両親よ。ニコニコとこちらを見つめずにちゃんと妹の軌道修正をしろ。
そうしないからこんなにも中二病が悪化してしまったに違いない。
「繰り返すぞ、お兄ちゃん。実は今朝、我が夢の中にて神が私に語りかけて来たのだ。
『尾張の名を持つ夕映よ。貴君に今日は朗報がある。貴君は神からの祝福を受ける権利を得たのだ』」
「なんともまぁ、適当な人選な事で」
しかも、何が『尾張の名を持つ夕映よ』だ。ただ名前を言っているだけじゃん。やるならもう少し凝れよ、神とやら。
「『――――故に貴君には望みを1つ叶えてやろう』だってさ! だからね、私ね……」
「はいはい、もう学校行くね。お前もそのゴスロリドレスを何とかしろ」
と僕が言うと、「あっ、今日から学校だった! 急いで着替えないと!」と夕映は言っていた。
この時、僕はきちんと聞くべきだったんだ。
夕映が神様から叶えて貰った望みが何なのかを。