黒衣の悪魔
その翌日。
龍王院竜禍は完全復活を遂げていた。どこを怪我していたか、どこに傷を負っていたか、そして本当に怪我人であったかすら分からないくらい完全に彼女は完全復活を遂げていたのだった。
そしてその日の夜。
僕は竜禍と共に夜道を歩いていた。
「しかし、夕映から聞いていたとはいえ……」
僅か2日ほどであの怪我から、完全に傷痕すら残さずに復活させるとは……。流石としか言いようが無い。
普通の人間ならば可笑しすぎる回復スピードではあるものの、中二病設定で生まれた人間だとしたらあり得なくもないスピードである。
「……? どうかしましたか、宣長様?」
「い、いや。何でも無い。
けど、早くしないといけないな」
じゃないと……ヴァンド・バトル卿が
『キキ、カカ! 死ね! この世界では無い場所にて生み出されし者達よ!』
パン! パン! パン!
車の倍はあろうかと言う巨大な黒いチャリオットに乗って、顔の左半分は黒く染まりあがっている。左腕は気味が悪い蛸のような、軟体的な足がうねうねと動いており、背中からは黒い竜のような翼がばさばさと動いており、その瞳は赤く赤く光り輝いている。
「あれが……ヴァンド卿……」
どう見てもあれは、……黒い悪魔にしか見えない。
そしてそんな黒い悪魔は、
『見つけたぞー! 竜騎士! ヒャッハー!』
龍王院竜禍を見て、狂気の笑みを浮かべていた。
「ま、まさかこれが……あのヴァンド・バトル卿……」
「そう……らしい。夕映の話だと、な」
ヴァンド・バトル卿が居た世界の”世界観設定”。
ヴァンド・バトル卿の主観だと、この世界で無い者が空間のひずみから現れて、それを『夢殺し』にて倒して元の世界に戻す。それがヴァンド・バトル卿が知るパラレルランドと言う世界観。
しかし、本当は違う。
尾張夕映が設定したパラレルランドは、こうだ。
空間のひずみから現れたのは、この世界の者では無い。別の世界の、禍々しい妖気。
その空間から現れし、禍々しい妖気が人や生物に乗り移って別の生命を持つ生物になって居た。その者がヴァンド・バトル卿が、『この世界では無い者』と呼んでいた者達である。
故に
『ハハハ! 貴様を殺してくれようぞ!』
この悪魔のような、ヴァンド・バトル卿は”禍々しい妖気”を身に宿してしまっていたと言う事である。
どうして夕映はヴァンド・バトル卿がこうなるかを知っていたのかは、理由は教えてくれなかった。でも今こうして、ヴァンド・バトル卿は悪魔になって居る。それが設定の産物なのかは分からない。けれどもこうしてヴァンド・バトル卿が悪魔となって居る以上これは現実。
今はこの悪魔を倒さなければ……!
『ハハハ! 行くぞ、竜騎士!』
そう言って、ヴァンド・バトル卿は龍王院の元へと走って行く。




