竜騎士は看病が苦手
……私、龍王院竜禍の記憶からして私が怪我をしたのはほんの数回だったと記憶している。確かに剣での修行で怪我をした事は何度もあり、ちゃんと怪我したのも沢山ある。だとしてもこう言ったような、誰かに倒されてベッドに横になると言うのは珍しいと言う意味である。
1回目は幼い頃だった。生まれた村を襲った猪のようなモンスターに初めて戦闘を挑んで、倒したのは倒したのだがあまりの怪我でベッドに横になった。
2回目は今持っている刀、世龍剣エクスカリバー・ドラグナイトの所有者、王国最強にして最凶最悪の騎士、ロンギヌス・ダモクレスとの三日三晩続く激しい決闘の末、あまりの怪我と疲れで倒れてしまい王国の宿屋のベッドで横になったのだ。
3回目は『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』を倒した時、その次に現れた真の支配者である『世界の混沌 バグカオス』の部下の四天王の一人、『一の禍根 憂鬱のザムリル』と、同じ部下の四天王の一人、『二の禍根 鮮血のガーエヒン』の同時襲撃によって両腕を斬り落とされた事でしょうか? まぁ、その前に『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』の呪いを身に受けていたので、数日で斬り落とされた両腕は復活したので問題は無かったんだけれども……。
『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』の呪い。
それは暗黒帝竜を倒す事によって得てしまった、私の呪い。どんな傷を受けようがどんな重傷を受ける事になったとしても、重症の傷だろうとも1週間でどんな傷でも治る身体になってしまった。それからはなかなか傷を負ってもすぐに治るので、倒れないようになってしまった。
だから今倒れたのは私の生涯中……たった4回目ですかね。
「……まだ片手で数えるくらいですか」
と、指を4本折り数えて、4本折った片手を見ながら溜め息を吐く。
意外と少ない物です。もっとあるかと思いきや、まだたった4回しか重傷で倒れてないなんて。
けれども……ここまであっさりと負けて倒れたのは初めてです。今までの戦いはきちんと戦い、きちんと結果を残して来た。ここまであっさりと倒され、呆気なく人に看病されたのは初めてです。
「はぁ……。この光景を■■■■■様が見たらどう思うでしょ……」
多分、自分にも他人にも厳格なあの人の事です。凄く怒るでしょう。あの方は私の強さしか見ていませんから……。
今、考えてみると私はあの人のどこに惹かれたんでしょう? 確かに技量も強く、その目指す物も心惹かれる物でありましたが、人間的に尊敬出来るかと言われれば微妙です。何せあの人は自滅的な、生きているのも不思議なくらいな、破滅願望の持ち主でしたから。確かに一時は彼の強さに、その人格に惹かれていた。けれども今は、全く持ってその時の気持ちを思い出せない。
「そうか……。こっちの世界を……尾張宣長様を……この生活を……好きになりすぎましたんですね」
こっちの生活は良い。
毎日、学校と言う物に通い、1週間に2日は休みが貰える。そして友達や周りの人達と一緒に遊ぶのも楽しい。毎日がとっても、楽しいんです。
尾張宣長様も優しい。正直、私は『くらす』と言う隊の面々達から少し遠慮して接せられている。私としてはもっと隊の面々とはフレンドリーに付き合って行きたいのに……。その状況を宣長様は少しずつ改善しようとしてくれている。流石に倍々算とスライム算(1、2、4、8と2倍ずつに増えて行く事)のようにならないけれども、少しずつ増えていて楽しい。後、宣長様の妹君の夕映様や、幼馴染の江戸川甘露様も良い方である。
この世界に来た当初は、すぐに元の世界に帰還したいと思ったが今はそう強くは思っていない。むしろ迷っている。
元居た世界の、一騎当千の戦い続けの人生? それともこの世界の、和気藹々とした楽しい生活?
「おーい、龍王院? 今、大丈夫か?」
「……! はい、私は大丈夫です!」
私はベッドに横たわる。そして扉を開けてお粥を持った尾張宣長様が入って来られる。
でも今は……。
今は尾張宣長様に看病されましょう。今はそれだけで……十分。




