幼馴染のありがたい好意
右腕を失くしてしまった龍王院竜禍を連れた僕、尾張宣長は、そのまま龍王院を自分のベッドに寝させる。部屋に行く際に妹の夕映が「ねぇ、ねぇ! ちょっとどうなってるの! 片腕を失くした竜騎士とか、マジカッコいい!」となんとも不謹慎極まりない事を言っていたので、部屋から閉め出した。
「う、ううっ……。主を守れずに倒れてしまうとは……。情けない限りです……」
「はいはい。別にそれを攻めたりはしないから、ゆっくりと休憩しておけ」
そう言って僕は部屋を出て、下に降りる。降りると、そこには心配そうな顔をした江戸川甘露の姿があった。
肩まで伸びる亜麻色の柔らかそうな先が丸まった髪。少女マンガを彷彿とさせる大きめの青い瞳。少し小さめの身体ながらも、しっかりと自己主張をしている大きめの胸。家から急いですぐに来たらしく、着ている服装は黒い猫耳のパジャマととても可愛らしい私服に、白いコートを羽織ったような服を着ている。甘露は少し悲しそうな、心配している顔だった。
「甘露……。どうかしたのか?」
そう思って僕は、甘露に聞く。
「あっ、ノブ君……。だって、夕映ちゃんからリュウちゃんがかなり危険な病状って聞いたから……。急いで来たんだよ!」
「あっ、そりゃ……」
確かに今、龍王院はやばい状況である。けれども、今の龍王院は右腕を失ってと甘露に見せられない状況である。もしも今の状況を甘露に見られると甘露がどんな状況になるか分かりきっているような物である。なにせ、只今は右腕が失われたと言う状況なので。流石に甘露に見せる訳にはいかない。なので、甘露の元へ行かせる訳にはいかない。
「すまない、甘露。今の状況を龍王院を見せる訳にはいかないんだよ」
「それって……大丈夫なの?」
と、甘露は悲しそうな顔で僕を見つめる。
甘露は心から心配している。出会ってまだ数日の彼女をここまで信頼出来る、そんな彼女の優しさはとても尊敬出来る物である。でも、それだけに甘露に今の龍王院を見せる訳にはいかない。
「……すまない。もう少し病状が回復したら、見舞ってやってくれないか?」
幸い、夕映の情報だと右腕を失ったとしても彼女の体内に封じてある『暗黒帝竜 デーモンドラゴ・アサルト』の前人未到の回復能力で、しばらくしたら右腕は復活出来るらしい。回復能力の定義付けはきちんとはしていないみたいだから、どれくらいかかるかは分からないのかも知れないらしいけれども。
「う、うん……。じゃあ、ノブ君、これを渡しておいてね?」
と、彼女は机の上に置いてあったトレイを手に取る。そのトレイの上にはおいしそうなお粥とレンゲが置いてある。
「これは……?」
「私、リュウちゃんに食べて欲しくて一生懸命作ったの。もしよかったら、ノブ君の手で渡してくれない?」
「うん、渡しておくよ」
そう言って甘露からトレイを受け取った僕は、龍王院の所へお粥を運んだのだった。
ありがとう、甘露。その心遣いは、きっと龍王院も嬉しいと思うよ。




