狂気の貴族は発砲魔
価値観によって何が悪か変わって来るのは良くある話である。
例えば、ある価値観だと大きい事こそ悪であったり、人に害を成す者が悪だったり、人と姿が違う者が悪だったり。そして悪と言うのは、基本的に正義やらなんやらで倒されたりするのだ。
尾張夕映はそう言うキャラクターを書いている。
その1人が、ヴァンド・バトル卿である。通称、『狂気に走りし暴走貴族 サー・ヴァント』。
サー・ヴァントと言う下僕を意味する単語と、サーと言う目上の人間に付ける敬称。そのどちらも兼ね備えた名前らしい。
まぁ、彼の事を簡単に表現するのならば。
『祖先から受け継ぎし銃を使って、この世界の者では無い者を刈り取る者』。
……らしい。
まぁ、この世界の者では無い者なんて言う微妙な存在。奇抜な外見をした者から、または人間に姿が近しい者まで。そう言う人でない者を殺す際にヴァンド卿はこう思っていたらしい。
『これは人じゃない。これは人じゃない者なのだ』と思っていて、それがどんどんエスカレートして行って『人じゃないから何をしても許される』と言う信条に変わったらしい。
要するに、闇の者を狩る際変な方向に精神が歪み切ってしまった暴走貴族、と言う事らしい。
そして彼がこの『発砲魔』事件の犯人らしい、と言うのが妹談だ。まぁ、首謀者には他にも色々と責任は取って貰うつもりだが。
「……ふむふむ。王国内に黒い弾痕と言う爪痕を残す首謀者、それがサー・ヴァンド様なのですか」
「調べないといけない流れ、と言う訳?」
僕がそう言うと、彼女は「当然です!」と言いながら、胸を張る。残念ながら彼女の胸は、騎士の持つ盾くらいツルぺタなのだが。
「当たり前です。犯罪を見過ごす……私はそんな事を見過ごす訳にはいきません。そして宣長様と一緒に捜査する。それが当然なのです。
宣長様の前の主、■■■■■さんもそれをやっていましたし」
……■■■■■さん。嫌な事をしてくれたな、本当に。
そう思っていると、彼女は顔を少し赤くして、
「って、分かっていますよね!? 宣長様は前の主、■■■■■さんが居ない代わりの存在なんですからね! か、勘違いしないでよね!」
「龍王院にツンデレはあんまり似合わないと思うんだけど」
「……と、とにかく」
そう言って、彼女はゴホンゴホン、と咳払いをして一旦、場を戻す。
「早くヴァンド・バトル卿を探しましょう、宣長様」
そう言って、彼女は僕を連れて出て行った。
……あぁー、疲れそう。




